佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT OpenSourceINTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――北朝鮮のミサイルがロシアの支援を得て、射程距離1万5000kmの大陸間弾道弾ICBMとなりました。あとは、確実に機能する大気圏再突入用ノーズコーンと核弾頭、そしてその弾頭を搭載可能な重さにするだけです。これらをロシアは北に教えるのですか?
佐藤 今のままならば、助けます。脅威は「能力×意志」ですので、北の意志として、そのミサイルがロシアに向かわないためです。
――日本には来ますか?
佐藤 日本に対しては、すでにある中距離弾道ミサイルのままで十分です。北が相手にしているのは米国です。
在日米軍基地をミサイル攻撃しても、米国が日本を守るために出て来るかどうか、北は非常に懐疑的なんじゃないですか。一昔前までグアムにミサイルを撃ち込めば、米軍が出て来るかと思っていたら、出て来そうにないのが現状です。
ならば、ニューヨークやワシントンのホワイトハウスに正確に落としてやると言って、同時にその性能のあるミサイルを作ることで、米国がやっと対北交渉に出て来るのではないかとの目算です。
私は、北がホワイトハウスにミサイルを命中させる気構えでやれば、多分、米国は出て来ると思います。
――究極の外交ですね。
佐藤 そうですが、北はずっと瀬戸際外交をやってきていましたからね。また、米国大統領がトランプになれば、すでに北とは信頼関係があるので、話はできるという算段なんでしょう。
――そのミサイルを発射する時に、金正恩総書記だけでなく、"女将軍"と呼ばれる娘のジュエ氏がいるのはなぜですか?
佐藤 娘が可愛いということだけでなく、権力継承者の有力候補だと示唆したいのでしょう。
――この女将軍が北のトップになるとどうなるのですか?
佐藤 北はあくまでシステムだから、彼女が国家のトップになってもうまく回っていくんじゃないでしょうか。北は強いし、北を倒す強い動機を持った国家もないですから。
――なるほど。
佐藤 逆に韓国が半島を統一して核保有国になったりしたら、面倒臭くなります。それはその時の韓国大統領によってブレが激しいから。北の外交は、ブレないじゃないですか。
――はい。
佐藤 それに、北は民意によって体制がひっくり返されることはありませんし。
――それは絶対に不可能であります。すると、韓国統一半島国家で核保有国となると、核ミサイルの飛ぶ方向が、あちらこちらに。もしかしたら日本に向いたりする......。
佐藤 「日本をやれ」なんて声が出てきかねませんからね。だからそう考えると、北みたいな国家があって、力を分散していたほうがいいわけです。
――ドイツが、リトアニアに5000人の兵力を展開させ、ウクライナで損傷した独製戦車の修理工廠を作りました。これは力の落ちた米国の代わりに対露牽制のため、直参子分のドイツが展開させられたということですか?
佐藤 そうではありません。リトアニアは人口も減って、内政が結構危ういからだと思われます。
――そっちへの備えですか。
佐藤 そう思います。本件に関して、ドイツがロシアを見ているとは思えませんね。あるいは、ポーランドを見て牽制しているのかもしれません。
――ポーランドはここの所、調子に乗ってますからね。
佐藤 そうですね。ポーランド政治は統制不能になる可能性がありますから。少なくとも、今はどの国もロシアと事を構えようとは思っていません。そして、ベラルーシとも緊張をしているわけではありません。そう考えると、ドイツはポーランドを注視している、と見た方がいいんじゃないかと思います。
――ポーランドは今の情勢の中で、自己規定で大国としているから、存在感を示そうとしてますね。
佐藤 英国がEUから抜けた後、軍事に関していえばポーランドは「軍事大国化」しています。恐らく、EUの中ではドイツ、フランスに続く三番目の軍事大国です。地上軍を含めるとイタリアより強いと思いますね。
――ポーランドは韓国から大量に、戦車や自走砲を買いましたからね。
佐藤 そして現実に、ポーランドは傭兵として兵隊をウクライナに送り込んで戦争しています。
――日本人はあまり注目していませんが、ポーランドは実は大変なんですか?
佐藤 1960年代から70年代始めに出た岩波講座の世界歴史には、ポーランドは世界で二番目のファシズム国家と書かれていました。こういう体制は現在も残っています。なので、ポーランドは以前から不安定なんですよ。
――そうなんですね。
佐藤 だから、欧州の不安定要因になる可能性はあります。ウクライナが負けそうになったら、ウクライナ西部をポーランドが保障占領するシナリオは十分にあると思います。
――それができる軍事力を、ポーランドは蓄えてますからね。これを機会にもっと大国になろうとしているのですか?
佐藤 というか、行き場のない怒りみたいな感じで、何を明確に目指しているのか分からないから怖いのです。
――最終的戦略目標の無い軍事大国は確かに怖いです。
佐藤 ウクライナもそうですけどね。国家戦略がはっきりしていないから、訳が分からず怖いんです。
――なるほど。
佐藤 その点で、北朝鮮は訳が分かります。要するに、目的は今の金体制の温存ですから。だから米国に対してミサイルを作って、訳の分かるゲームが出来ているのです。
しかし、ポーランドとウクライナは、何を考えているか分からない。何かに対して怒っている感じですよ。
――確かに、そうですね。
佐藤 だから、電車の中でよく愚痴って怒っているオジサンいるじゃないですか。
――この前もいました。
佐藤 ああいう感じですよ。
――でも、その怒っているオジサンの御国は、それなりに軍事力は持っていて、国家が大きいから面倒臭い。
佐藤 そういうことです。
次回へ続く。次回の配信は2024年2月9日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。