派閥解消を主導しても支持率が上がらない岸田内閣と、一気に求心力を失った派閥の実力者たち。"力の空白"が生まれた自民党内で、にわかに「日本初の女性総理大臣」の誕生を予想する声が! 本命・上川外務大臣をはじめ、候補者たちの現状は?
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■石破、進次郎に次ぐ3位に急浮上
裏金問題でボロボロの学級崩壊状態に陥った自民党内では、ポスト岸田レースも本命なき混戦に突入した。「もはや日本初の女性総理を出すくらいのインパクトがなければ、支持率は上がらない」という悲鳴にも似た声もあり、実際に複数の女性政治家の名前が候補に挙がっている。
その筆頭が上川陽子外務大臣(70歳)だ。2月初めのJNN世論調査では「次の総理にふさわしい政治家」として、知名度抜群の石破 茂元幹事長、小泉進次郎元環境大臣に次いで3位に急浮上した。
最大の理由はもちろん、1月28日に福岡県内で開かれた講演会で飛び出した麻生太郎副総裁のあの発言だ。
「永田町では昨夏あたりから次期総理候補のひとりと目されてきましたが、世間一般ではまだ『上川って誰?』状態だった。ところが、麻生さんが上川さんの外交手腕を評価する中で発した『このおばさんやるねえ、そんなに美しい方とは言わんけれど』のひと言が大炎上。
世論は『抗議すべきだ』と色めき立ちましたが、当の上川さんは『どのような声もありがたく受け止める』と悠然と受け流し、結果として名前と顔が広く認知されることになりました」(全国紙政治部自民党番記者)
経歴は華麗だ。東京大学、三菱総合研究所を経て、フルブライト奨学生として米ハーバード大学ケネディスクールで政治行政学の修士を取得。米民主党上院議員の政策スタッフとしての実務経験もある。
2000年の衆議院選挙初当選以来、7回の当選を重ね、法務大臣(3期)、少子化・男女共同参画担当大臣などを歴任。夫は元日本銀行勤務で、ふたりの娘がいる。
政治評論家の有馬晴海氏が言う。
「頭が良く、答弁は安定しており実務能力も高い。英語もペラペラですが、それでいて悪目立ちすることもない。永田町では〝謙虚な政治家〟と評されています。
しかし、フルブライト留学は家族を日本に置いての単身赴任。キャリア形成にかける執念は相当なものがあったのでしょう。麻生さんの発言を軽くいなしたり、法相時代に16人もの死刑執行に粛々とサインしたりと、肝の据わった政治家でもあります」
そんな上川評を裏づけるエピソードを、2007年に静岡県主催の国際シンポジウムのパネリストとして共演した出席者が明かす。
「控室で雑談していたとき、私は上川さんを野党議員と勘違いして、『自民党を倒して政権交代を実現してほしい』と正反対のエールを送ってしまった。それでも上川さんは無礼をとがめるどころか、間違いを訂正もせず、ニコニコとうなずくだけでした。
後で自民党議員だと知ったときは、『大した人だな』と妙に感心してしまいました。麻生さんの発言など、本当になんとも思っていないでしょう」
■「カミムラ」を連発した麻生氏の真意は?
ただし、上川氏の〝弱点〟を指摘する声もある。自民党議員秘書が言う。
「政治に欠かせない根回しのような仕事は苦手なのかもしれません。例えば、上川さんが静岡県連会長として仕切った21年6月の静岡県知事選では、本命候補だった鈴木康友浜松市長(当時)の擁立に失敗した挙句、周囲への根回しもなく岩井茂樹参議院議員(当時)を担ぎ出した結果、対立候補に33万票もの大差で惨敗。あまりの無策ぶりに、岩井陣営からは『ウチの先生は捨て駒か?』との恨み節も飛び出したほどでした」
政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏もこう言う。
「実務面の力は折り紙付きですが、政局含みとなるとどうか。また、男女共同参画や女性活躍には一家言を持つ一方、安全保障や社会保障などの国家観を示したこともない。総理候補としてはやや物足りない部分です」
その上川氏を、麻生氏があえてこの時期に持ち上げてみせたのはなぜか?
「派閥解散が続く中で唯一、自派閥の存続に動く麻生さんは今や〝悪役〟のイメージ。このままでは、菅 義偉前総理の周辺で広がる『石破さんを次期総理に』という流れがより強くなってしまう。その前に、キングメーカーとして自らの力を誇示したかったのではないでしょうか」(鈴木氏)
そしてなんと、あの発言についてはこんな〝怪情報〟まで出回っている。前出の自民党議員秘書が明かす。
「例の発言の前後で、麻生さんは上川さんの名前を何度も『カミムラ』と言い間違えているんですが、実は20年にも菅内閣を『カン内閣』と言った前科があります。
しかし、麻生さんと菅さんは安倍政権を中枢で8年近くも支えた仲です。上川さんも、岸田総理に外相起用を進言した麻生さんには恩義を感じていて、外遊のたびに麻生事務所への報告を欠かさない。そんなふたりの名前を間違えるはずがないんです。
そこでささやかれているのが、麻生さんは発言に注目させる必要があるとき、わざとやっているという説です。
麻生さんは自分に相談もなく派閥解散を主導した岸田総理に怒っている。上川さんをホメたのは、『いつでも上川を担いで岸田降ろしに出るぞ』という圧力です。その威力を最大化するには、発言が注目されないと困る。だから、わざと『おばさん』『カミムラ』などのワードを出したのではないか......と」
その真相はやぶの中だが、結果として上川氏の知名度が一気にアップしたのは事実だ。
■日本のチカラ、ドリル優子
その上川氏への対抗馬一番手は、欲を見せない上川氏とは対照的に、今年9月の自民党総裁選への出馬意欲を隠そうともしない高市早苗経済安保担当大臣(62歳)だろう。
無派閥でこれといった側近もおらず、〝おひとりさま〟状態が続いていた高市氏だが、昨年11月に主宰勉強会「『日本のチカラ』研究会」を設立すると45人もの入会者がはせ参じ、永田町を驚かせた。
「さらに2月8日には、旧安倍派議員が中心の『保守団結の会』の講師としても登壇し、連携の動きを見せている。このときの参加者は14人。『日本のチカラ』の存在も合わせて考えると、総裁選出馬に必要な推薦人20人を確保する見通しは立ったとみるべきでしょう。
そのせいか、岸田総理に万博延期を進言するなど、最近の言動には余裕すら感じます」(前出・自民党番記者)
小渕優子選挙対策委員長(50歳)の周辺も騒がしい。1月下旬に茂木派を離脱すると、参院茂木派の幹部ら8人も次々と追随。「小渕グループ」結成の動きを強めている。
「現茂木派はかつて小渕さんの父・小渕恵三元総理がトップだった派閥で、その流れを継いだ竹下亘、青木幹雄といったかつての大物政治家が『いつか優子を日本初の女性総理にする』と口にしていたのは有名な話。参院茂木派出身者が結束すれば、推薦人20人を集めることは可能でしょう。
ただ、そうはいってもまだまだ実績は足りず、〝ドリル優子〟(後援会の不透明な会計データが入ったPCがドリルで破壊され、証拠隠滅されたとの疑惑)の汚名も払拭できていない。勝負は『次の次』と考えるのが妥当でしょう」(前出・鈴木氏)
そして、最後に〝場外〟から乱入の噂について。注目されているのは、公職選挙法違反で起訴された柿沢未途衆院議員(自民党を離党)の辞職に伴い、4月28日に東京15区で行なわれる補選だ。
「補選実施が決まった直後の2月2日、小池百合子東京都知事(71歳)が、岸田総理、茂木幹事長と相次いで会談したんです。
自民党としては、所属議員の不祥事で行なわれる補選には候補を出しづらい。そこで『ファーストの会』の候補に自公が相乗りし、事実上の勝利を得ようというシナリオが話し合われた可能性があります」(前出・有馬氏)
問題はそのファーストの会の候補者だ。有馬氏が続ける。
「7月で2期目の都知事任期が終わる小池さんが、この補選に出馬するのではとの臆測が広まっているんです」
ただし、もともと小池氏が狙っていたのは国民民主党とファーストの会の合併、そして自身の国政復帰というシナリオだったものの、国民民主の分裂で話は立ち消えになったともいわれている。単騎で補選に乗り込んでも当選の可能性は高いが、その先のシナリオが描けるかどうか。
「東京都連をはじめ、自民党内の〝小池嫌い〟は相当なものですから、そう簡単に自民党には復帰できない。そうなると、ただの無所属議員になってしまうリスクもあるわけで、補選に出馬するかどうかは微妙です」(有馬氏)
日本初の女性総理はこの中から誕生するか?