佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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3月17日に行なわれたロシアの大統領選挙では、プーチン大統領が87%の得票率で圧勝した。そのプーチン露大統領がこれから取り組もうとする事と、とある著名なふたりの宗教家が発した言葉に深い接点があるようで...。
――選挙で当選したプーチン露大統領は、最初に何から手を付けますかね?
佐藤 ウクライナ戦争の処理です。ここには、皆さんもよく知っているあるふたりの宗教家の言葉が関係してくると思います。
――それは何ですか?
佐藤 まず、昨年の11月に亡くなった、創価学会の池田大作名誉会長の書いた小説、『人間革命』の冒頭の一節にある言葉です。
『戦争ほど残酷なものはない。 戦争ほど悲惨なものはない。 だが、その戦争はまだ続いていた。 愚かな指導者たちに、率いられた国民もまた、まことにあわれである』
そして、3月9日にはカトリック教会の最高責任者・フランシスコ教皇がこう発言しました。
『最も強いのは、状況を見て、国民のことを考え、白旗をあげる勇気を持って交渉する人だと思う』
――このふたりの言葉と、プーチン露大統領のウクライナ戦争の処理がどう関係してくるのですか?
佐藤 ローマ教皇の発言の全文は20日にスイスで公表され、それ以降、ウクライナ戦争に関する雰囲気が変わりました。だからプーチンは今、両面作戦を行なっています。
ひとつは和戦です。つまり講和ですね。
もうひとつは、ウクライナがつべこべ言うならば、黒海沿岸を全て獲って、モルドバ東部(沿ドニエストル地域)と併合し、ウクライナを完全な「内陸国」にすることです。モルドバとウクライナの陸上国境である「沿ドニエストル共和国」で今、ちょっとしたトラブルが起きています。それを利用して黒海を獲るつもりです。
――ドニエストルはモルドバからの強い圧力を受けたと主張し、2月末にプーチン露大統領に対して警護を求めていますね。
佐藤 そうです。そこで、ロシアはドニエストルへ軍隊を本格的に送ります。そしてウクライナが弾切れになったタイミングで、黒海沿いをヘルソン、ムイコライウ、オデーサから繋げてしまうという計画です。
――今、ウクライナは和平に持ち込まなければ、さらに厳しい状況になりそうですか?
佐藤 これからロシアは徹底して交戦するので、首都キエフを獲りにいく可能性があります。ウクライナが抵抗できない段階になれば、首都陥落はシンボリックですからね。首都が堕ちれば皆、首都から逃げますよね?
――そりゃ、逃げます。
佐藤 その敗走する姿が全世界にオンエアされます。すると、ウクライナは勝っていると言い張れますか?
――無理だと思います。
佐藤 このシナリオの場合は、ロシアはこれから2年ほどかけて完全にやり遂げるでしょう。ウクライナの国家自体をガタガタにして、"EXウクライナ"にするということです。
――Exit、つまり終了、ですね。
佐藤 「かつてそういう国がありましたね」ということになります。
――そうなると、ウクライナから大量の難民がEUに流れ込みますね。
佐藤 「EUにはそのくらいのツケを払ってもらおう」とプーチンは思っていますよ。
――今、ウクライナが手を打たないと、東欧、西欧が大変な事になるのではないですか?
佐藤 ウクライナは今、ロシアとの交渉を禁止にしています。交渉というのは、双方が認めないと交渉になりませんからね。
――はい。
佐藤 だから、ウクライナは自分たちだけでその停戦交渉に踏み切ることはできないと思います。外部から介入しないと実現は不可能です。
――ここでバチカンのメッセージが効いてくるのですか?
佐藤 ゼレンスキーはバチカンの言うことは聞きませんよ。動くのはウクライナにお金や武器を出している国です。
――米国ですか?
佐藤 そうです。しかしバイデンには出来ません。だから、トラさんの復活を待つしかないのです。
――トランプ次期大統領候補、でありますね。
佐藤 トラさんは無駄なエネルギーを使いません。この戦争は、あくまでバイデンの戦争だと思っています。トラさんはメキシコからの不法移民対策など、もっとやらないといけないことがたくさんあると思っていますからね。
――すると、年内の講和は無理なのでしょうか?
佐藤 戦争を止めるには、政治家の力、外交官の力をもってしても無理です。そんな時に必要なのは、宗教家の力です。宗教家の力によって停戦に持ち込むのが現実的です。
――それが、故・池田大作名誉会長と、ローマ教皇の言葉になる。
佐藤 そういうことです。ウクライナ戦争の停戦に関して、故・池田大作氏は昨年1月に【ウクライナ危機と核問題に関する緊急提言 「平和の回復へ歴史創造力の結集を」】を発表しています。そこにはこうあります。
『昨年2月に発生したウクライナを巡る危機が、止むことなく続いています。
戦火の拡大で人口密集地やインフラ施設での被害も広がる中、子どもや女性を含む大勢の市民の生命が絶えず脅かされている状況に胸が痛んでなりません。
(中略)
"戦争ほど残酷で悲惨なものはない"というのが、二度にわたる世界大戦が引き起こした惨禍を目の当たりにした「20世紀の歴史の教訓」だったはずです。
私も10代の頃、第2次世界大戦中に空襲に遭いました。火の海から逃げ惑う中で家族と離れ離れになり、翌日まで皆の安否がわからなかった時の記憶は、今も鮮烈です。
また、徴兵されて目にした自国の行為に胸を痛めていた私の長兄が、戦地で命を落としたとの知らせが届いた時、背中を震わせながら泣いていた母の姿を一生忘れることができません。
(中略)
現在の状況を何としても打開する必要があります。
そこで私は、国連が今一度、仲介する形で、ロシアとウクライナをはじめ主要な関係国による外務大臣会合を早急に開催し、停戦の合意を図ることを強く呼びかけたい。その上で、関係国を交えた首脳会合を行い、平和の回復に向けた本格的な協議を進めるべきではないでしょうか』
これはウクライナとロシアの双方に言えることですが、両国ともプーチン、ゼレンスキーという愚かな指導者に率いられて戦争をしています。不幸なのは国民ですよ。
ウクライナの停戦は、故・池田大作氏の戦略とフランシスコ教皇の提言によって成されます。この池田大作氏の緊急提言はローマ教皇のいうところの「白旗をあげる勇気」と同じ発想です。ローマ教皇の前に、すでに池田大作氏が言っています。だから、最終的にはこのふたりの宗教家の力によって停戦に持ち込むしかありません。
次回へ続く。次回の配信は2024年4月5日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。