ブルガリア空軍はNATO加盟国だが、ミグ29を使用する。まもなくF16ブロック70戦闘機に更新予定(写真:柿谷哲也) ブルガリア空軍はNATO加盟国だが、ミグ29を使用する。まもなくF16ブロック70戦闘機に更新予定(写真:柿谷哲也)
今、ウクライナ戦争の最前線では、ウクライナ軍(以下、ウ軍)の武器弾薬砲弾ミサイルが枯渇しようとしている。砲弾発射数はロシア軍(以下、露軍)10に対して、はウ軍1。絶対的劣勢下にあるのだ。

4月24日に米議会で、対ウクライナへの9兆円の軍事援助予算が認められ、数ヵ月ぶりに援助が再開された。露軍はその援助物資が届く前に、東部各戦線で反撃を開始してジリジリと進撃。さらに、米国からの軍事援助が止まり、各種の地対空ミサイルの欠乏が始まったウ軍に対し、露軍はウクライナ国内各地への空爆を強化している。露空軍戦闘爆撃機は、100km以遠から1tを超える精密誘導滑空爆弾を投下。ウ軍はそれに対してなす術がない。

窮地に立つウ軍が期待しているのは、西側から供与されるF16戦闘機だ。F16さえ来れば......と切望するがなかなか来ない。一体どうなっているのだろう。世界中の戦闘機を撮影し続けるフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう言う。

「ウクライナ国内でのミグ29戦闘機からF16への転換過程を取材するのは、不可能だと思われます。しかし今、その転換をしている最中のブルガリアならば、その端緒を掴(つか)めるかもしれません」

そうしてブルガリアに飛んだ柿谷氏は、F16導入の最大の難関をこう語る。

「ミグ29は旧東側陣営の整備されていない滑走路からの離着陸が可能でした。しかし、第四世代機とも言われるF16ブロック70は、そんな未整備の滑走路での運用は不可能です。ブルガリアが運用するためには、米国標準の滑走路、誘導路など、飛行場施設を建設しなければなりません」

要するに、ミグ29はソ連製UAZ四輪駆動トラック、F16は高速道路を快速するトヨタのレクサスだと考えればいい。

久しぶりに飛行した2機の飛行時間はそれぞれ約30分間だった(写真:柿谷哲也) 久しぶりに飛行した2機の飛行時間はそれぞれ約30分間だった(写真:柿谷哲也)
「現在、ブルガリア空軍の主任務は、国際空域保護プログラム『エアポリシング』と、そのための飛行訓練ですが、各機一回の飛行時間は極めて短く、その理由は機体の維持に原因がありそうです。

13機のうち半数は部品取りとなっているとされ、残りの機体も整備が多く、稼働機は4機程度とされている。自分が去年と今年に計20日間滞在したプロブディフ基地の6機のうち、1機の単座型と2機の複座型だけが飛行し、残り2機が飛ぶことはなく、1機は整備作業を続けていました」

この悲惨さは、ウクライナ戦争の余波を受けたものだ。

「そのミグ29のオーバーホールはロシアで行なわれていました。しかし、ブルガリアのメディアによるとウクライナ戦争後は、特にエンジンに関しては予定通りの整備ができなくなった。特にミグ29のエンジンは飛行時間350時間で、整備が必要なエンジンは深刻な状態にあるといいます。

戦争直前のウクライナで6基のエンジン整備し、陸路で搬送できましたが、戦争が始まり継続できず、また、戦前に4基の中古エンジンをポーランドから輸入しており、今後はスペアパーツの供給の可能性があるものの、ポーランドにも十分な数が無いとされるだけに、これも不透明となっています」

電子機器や構造は共食いや国内整備できても、エンジンはそうはいかない。

ミグ29は不整地からでも飛べることが特徴。ソ連仕様滑走路のプロブディフ基地から離陸するミグ29(写真:柿谷哲也) ミグ29は不整地からでも飛べることが特徴。ソ連仕様滑走路のプロブディフ基地から離陸するミグ29(写真:柿谷哲也)
柿谷氏はそのわずかに飛んでいるブルガリア空軍ミグ29の撮影に成功。離陸した滑走路を見て欲しい。東側基準で作られた滑走路は、現代の西側戦闘機にとっては「オフロード」なのだ。

「トルコ空軍のF16の駐機場の写真と見比べて欲しいです。トルコ空軍の飛行場は完璧に米国標準になっています」

トルコ空軍基地に並ぶF16。エプロンや滑走路は滑らかな表面の西側基準(写真:柿谷哲也) トルコ空軍基地に並ぶF16。エプロンや滑走路は滑らかな表面の西側基準(写真:柿谷哲也)
「私は、F16の配備先と言われるグラーフ・イグナテ基地に行きました。ここは、米国標準の飛行場建設のために滑走路・格納庫の工事が行なわれています。基地の周辺を見てまわりましたが、外側から基地の内部を撮影できず、写真にあるミグ21を展示された廃墟のような入り口だけが撮れました。この入り口への道と滑走路が同じ舗装ならば、F16は使えません」

ミグ29のいないグラーフ・イグナティエボ基地。近づけるのはここまで、基地内ではF16受け入れ工事が進む(写真:柿谷哲也) ミグ29のいないグラーフ・イグナティエボ基地。近づけるのはここまで、基地内ではF16受け入れ工事が進む(写真:柿谷哲也)
肝心のF16は、ブルガリアにいつ来るのだろうか。

「米国からF16C/Dの最新版、ブロック70を8機購入し、2025年3月にこの基地に到着する予定になっています」

退役する13機のミグ29はウクライナに供与されるか?

「去年、CNNが『ブルガリアがウクライナにミグ29を供与する用意がある』と報じました。しかし、ブルガリア国防相はこれを否定しています。

さらに、ブルガリアのルメン・ラデフ大統領は元ミグ29のパイロットで、空軍司令官を経て、2017年から現職にあります。出身政党はブルガリア社会党ですが、その母体はブルガリア共産党で、中道左派の政党と連立を組みますが、EUで唯一の共産党系の政権政党です。そして、ラデフ大統領自身は親ロシアとされており、退役するミグ29をウクライナに引き渡す可能性は低いと見られています。

F16がグラーフ・イグナティエボ基地に配備されると、プロブディフ基地に移駐しているミグ29はここで朽ち果てる公算が強いです」

ウクライナは、西欧からF16が来るのを待つしかない。一方の露空軍は、Su35戦闘機の通常爆弾に滑空グライダー誘導装置を取り付けて、1tを越える大型滑空爆弾へ100km先から爆撃してくる。その露空軍機を撃ち落とせるのはF16だけだ。しかし、そのF16が離発着する航空基地がなければ始まらない。

写真はグーグルアースから見た滑走路や誘導路、エプロン工事中のウクライナ国内空軍基地 写真はグーグルアースから見た滑走路や誘導路、エプロン工事中のウクライナ国内空軍基地
「F16の大きな問題のひとつは運用拠点。米国仕様の滑らかな滑走路が条件です。そのための滑走路の工事がどこかの基地で行なわれているはず。ロシアから800km離れた輸送機基地のヴィーンヌッチャ基地は、2022年から滑走路とエプロンの改修を行なっていることがグーグルアースからでも確認でき、F16が配備される基地だとみることができます。

しかし、その周囲に基地を守る防空ミサイルが必要ですが、ウクライナには十二分な数の地対空ミサイル「パトリオット」はありません。在韓米空軍基地や在欧米空軍基地の滑走路周辺には、地対空ミサイルのパトリオットが並べられ、戦闘機を守っています。もし導入が開始されれば、米国はすでに東欧に配備しているパトリオットを大量に持ち込むことになると思います」

在韓米空軍烏山基地の滑走路横では、多くのパトリオット・ミサイルが北を向いている(写真:柿谷哲也) 在韓米空軍烏山基地の滑走路横では、多くのパトリオット・ミサイルが北を向いている(写真:柿谷哲也) トルコ中部の基地を離陸するトルコ空軍F16。滑走路は欧米仕様の滑らかタイプ。後方には簡易な格納庫が見えたが、戦時中のウクライナではさらに強固な格納庫も必要になるだろう(写真:柿谷哲也) トルコ中部の基地を離陸するトルコ空軍F16。滑走路は欧米仕様の滑らかタイプ。後方には簡易な格納庫が見えたが、戦時中のウクライナではさらに強固な格納庫も必要になるだろう(写真:柿谷哲也)
もしF16を使った作戦が始まるとすれば、何ができるのだろうか。

「最初の任務はHARM(敵のレーダー波を探知してそこに突っ込むミサイル)を使ったSEAD(敵防空網制圧)とDEAD(敵防空網破壊)でしょう。クリミア半島ではすでに、地対空ミサイルS-400と対空レーダーが破壊されているとされますが、HARMより射程が長いS-400やS-300が運び込まれる前にレーダーを壊し続ける必要があります。ウクライナはミグ29にHARMを載せられるように限定的な使い方をしていますが、F16導入でこれまで限定は解除できます。

また、各機に空対空ミサイル・AMRAAMを搭載できるため、ロシア戦闘機の接近を防ぐこともできます。ロシア側はすでにA-50早期警戒機が落とされていることもあり、A-50も安易に飛ばせない状況にあると推察できます」

今、露軍は圧倒的な地上砲撃力をウ軍に浴びせている。そんな時、通常爆弾を最大12発搭載できるF16は、その地上砲撃を代替する戦闘機として期待できる。

「F16が来れば、これまでのウクライナ戦闘機ができなかったHARMと精密誘導爆弾を混載するDEAD任務が可能になります。そしてF16の機数が揃ってくれば、HARM搭載機と爆弾搭載機で編隊を組んで爆撃任務がやりやすくなるはずです」

そのF16は、何機揃うのだろうか。

「滑走路などの改修工事や乗員教育も遅れているとされ、元デンマークの6機が6月以降に到着、年内に19機が届くとされます。来年以降にデンマーク、オランダ、ノルウェー、ベルギーからも集まり計45機。すると、今年は機数が揃わず作戦は限定的ではないかと思います」

最大で年内に6~19機。一個飛行隊25機には満たない。柿谷氏が言う「限定的な作戦」とは、例えばこんな作戦になると推測できる。

そのひとつが、露空軍基地攻撃や特殊部隊などが行う作戦の支援だ。露国内攻撃も英国が許可したストームシャドウをF16に搭載して、攻撃することが考えられる。または、都市を狙う長距離滑空爆弾搭載の露空軍戦闘爆撃機を、F16が最大射程180kmのAMRAAMミサイルを搭載して撃墜、または後退させる。と、このような限定的な作戦しかできない。

11月に米大統領選挙でもしトランプが勝利すれば、来年1月20日に就任して、24時間以内にウクライナ戦争を終結させると言っている。すると、F16は最大4ヵ月だけ、19機のみで限定的な作戦ができる。セミより寿命は長いが、F16は儚い運命として散るのか、それとも逆転勝利の隼(はやぶさ)となるのか。今はまだ、分からない。

小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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