佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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連載52回で取り上げた、家産国家・日本。この国は今や岸田政権の下、急速に「部族支配」と化してきている。そしてその向こうに『岸田忠臣蔵』という感動の悲劇が待ち受けているらしい。
――岸田首相の米国議会向けスピーチと日米共同宣言が違うのは、これ、もしかしたら岸田さんの特徴ですか?
佐藤 そう、岸田政権の特徴です。民主的な手続きとか、そういったことを考慮せず、国民は適当にあしらっておけ、というやりかたですよね。
喜ぶようなことを適当に言っておいて、実際は後でまとめ上げる、という発想です。だから、これが岸田さんが嫌われる理由だと思いますよ。ただ国民は、何となく敏感になって、この辺りに気が付いています。
――ですよね。
佐藤 やっぱり極端なエリート主義というか、ファミリー支配。なんか、そういった形とはちょっと違う感じになってるんじゃないかなと思います。
――深海の底にあって、すさまじい水圧で、なんらかの新しい変化があったのですか?
佐藤 そうです。自分たちのファミリーが一番頭が良いから、言うことを聞けというわけです。
――小さい貴族家族でありますか?
佐藤 はい。だから、部族支配ですよね。
――部族!! キシダ族に支配されたニッポン、なんですか?
佐藤 そういうことです。
――外国の部族紛争とかを批判できないじゃないですか?
佐藤 トランプだって部族ですよね。
――あっ、そうなんですか!
佐藤 さらにバイデンも部族です。その意味では習近平もプーチンも部族です。
――地球は部族支配なんだ......。
佐藤 世界的に民主主義は後退してるんですよ。
――どうしたらいいんですか?
佐藤 外交官の仕事がなんなのかというと、「戦争に我々が巻き込まれないこと」ですよ。それは、殺す側も殺される側もいけないし、国民が殺す側に回るのも殺される側に回されることもダメです。
それから、負け戦には関与しないということも最低線で一致できるはずです。だから、ウクライナみたいに自分から負け戦に突っ込んで行こうとするのは、私の理解を超えたことなんです。
ウクライナ戦争に関しては最初から言ってるように、米国の組み立てでは、ウクライナは勝てないことになっています。だから、これに参加したって意味はありません。米国はロシアとはベーリング海で、海を介してしか国境線が接していません。だけど、ウクライナは、直接陸地でロシアと接しています。
一方日本は、ロシアのガスへの依存はますます高まっていて、戦争当初は8%だったのが、今は10%になっています。もしも突然、ロシアが対日輸出を止めるとすれば、今年の夏の冷房設定の最低温度が32度くらいになると思いますよ。そうしたら東京だけで数千人単位が熱中症で死んでしまいます。
国家の仕事とは何かと言うと、国民の生命・身体・財産を守ることです。もしそうなった際には、代替エネルギーが時間をかけて米国から来ることになるはずです。しかし、ドイツはロシアから買っていた天然ガスを4倍の値段で米国から購入しています。だから、ドイツ経済は今、すさまじく疲弊してしまいました。
日本は、ただでさえ円安が進んでいる現状で、外貨をもっと使って米国からエネルギーを購入するとなると、ますます貧しくなります。そんな選択をして良いのでしょうか? 改めて言うと、国益は国民の生命・身体・財産を守ることです。
――すると、権力を握っている方が今、家産主義にならないとやっていけないのですか?
佐藤 それは国際情勢の変動が激しいという客観的な要因もあります。すぐに決定しないといけないため、民主的な手続きは取れないし、法律を厳格に守っていると、状況に対応できなくなってしまいます。すると、国民の生命・身体・財産を国家が守れない可能性があります。だから、そんな客観的な状況もあるということです。
――「急がば回れる国家体制」でありますね。
佐藤 そんな時は、どの国も現行の政権が強くなるんですよ。
――今がそれですね。
佐藤 そうです。意外ですが、世界にも日本にも家産国家を維持するやり方というのがあります。これは、ファミリー支配です。首相と公務員がではなく、領主様と家来という関係性です。家来はみな「御意、御意」と言って、領主様のいうことを聞いている状態です。
――その家来の下で、領民が労奴と化している。奴隷ですね。
佐藤 奴隷といっても、領民として、庇護してもらっているところもありますからね。だから結局、城代(じょうだい)の存在が大事になってきます。そして殿様岸田には、秋葉剛男国家安全保障局長という優れた有能な城代家老がいます。
岸田さんが思い詰めて、松の廊下をやられては困るので、城代家老の秋葉が抑えるわけです。私から見ると、ウクライナに殺傷能力のある兵器を送るのは刃傷沙汰が発生した松の廊下みたいなもので、大変なことになります。
――秋葉城代家老が「殿、殿中にございます。どうかここは」と。
佐藤 そうです。ぐっと堪えて、何を言われても耐えていなきゃいけません。
――岸田さんはエリートだから、「おのれ、手打ちじゃ!」とすぐに抜刀しちゃいそうですね。
佐藤 だから、ここは忠臣蔵の世界で考えればいいんです。
――今、秋葉城代家老があるから、岸田殿様はなんとかなっている。
佐藤 そう、だから、外交はなんとか持っています。しかし、内政に関してはそういう人がいないわけですよね?
――吉良上野介(きらこうずけのすけ) が団体となっている安倍派が、すさまじい暴声を発しています。
佐藤 だから、犬公方の家綱将軍の時の、柳沢吉保(よしやす)みたいな人物が必要なわけですよ。
――誰かそんな人はいないのですか?
佐藤 なかなか大変そうだから、みんなやらないんですよ。
――外国との戦争が今、日本で起きていないのは......。
佐藤 外交担当の秋葉城代家老がいるから、そこは大丈夫です。ただ内政にそういう人がいないために混乱が起きています。
――もう、岸田殿様は抜刀して斬りまくっていますからね。派閥は斬られ、安倍派五人衆も斬られた。
佐藤 殿が刀を振れば、その通りになるわけです。
――納得しました。「出(い)でよ、柳沢吉保になる官僚! いや、家来の衆の皆様、おねがいします!」でありますね。
佐藤 柳沢吉保の横には荻生徂徠(おぎゅうそらい)みたいなブレーンもいましたからね。
――もうひとり賢者が必要なんですか!
佐藤 そう思います。忠臣蔵で四十七士が吉良の首を打ち取ると、徳川家綱も「あっぱれ」と称えました。すると、荻生徂徠が柳沢吉保に「この義は赤穂藩における義でございまして、国家全体には大変な謀反にございます。小さな義のために国家を崩してはいけませぬ」と上申したわけです。
そして、柳沢吉保は総合的に判断して、赤穂浪士47人に切腹を命じました。ここで殺しておけば神話になります。だから、彼らのためにもなると。そして、ああなりました。
――すると、そのふたりこそが、今、皆大好きな『忠臣蔵』の原作者なんですね。
佐藤 そうですね。
――だから、お家を守る、そんな感じなんでしょうね。
佐藤 ポピュリズムに流されない、そういう感覚の人がいないとダメなんですよね。
――ただ今は、岸田殿様が突然、伝家の宝刀である『衆院解散総選挙だ』と抜刀すれば、それこそ自民党全員は討死にとなってしまうのか......。
次回へ続く。次回の配信は2024年5月31日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。