プーチン露大統領(右)とネタニヤフ・イスラエル首相(左)。中露会談がどうこうより、イスラエルの孤立がヤバい(写真:Sputnik/共同通信イメージズ) プーチン露大統領(右)とネタニヤフ・イスラエル首相(左)。中露会談がどうこうより、イスラエルの孤立がヤバい(写真:Sputnik/共同通信イメージズ)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――まず、プーチン露大統領が中国を訪問しました。これは「朝貢外交」になっているのですか?

佐藤 そんなことはありません。その前に、私はこれを分析の対象にすらしていません。

――そんなに大騒ぎにならないということですか?

佐藤 というより、言及する必要がありません。今まで何か本質的な変化はありましたか?

――ないです。では、プーチン政権でショイグ国防相が交代しました。これはどうですか?

佐藤 その人事でショイグ氏は安全保障会議の書記に任命されました。つまり、国防省を指揮する立場になっていますね。

――階級が上がったのですか?

佐藤 そういうことです。パトルシェフ前書記は以前から解任を希望していましたし、もう歳ですからね。プーチンの大統領再選から世代交代しているのは間違いありません。

――大騒ぎすることではない?

佐藤 はい、全くないですね。経済に詳しい人を国防相にして、長期戦体制を整えただけです。基本路線に変更はありません。

――スロバキア首相の暗殺未遂事件、これは大事件ですか?

佐藤 あれには国際的な背景がなく、国内問題に関連するテロです。だから、拡がりはありません。全体的な影響は与えないと見ています。

――なるほど......。

佐藤 今までの質問のニュース自体が「付け焼刃」な印象です。そんなものを追いかけていても、ただのノイズですよ。

――すみません。

佐藤 特にこの2年、「正しい/間違えている」ということを先行させて、そこから記事を書く風潮になっています。だから、あまり事実がどうなっているのかという点に、新聞記者は関心を向けません。

だから、「ロシアはどうせろくでもないから」「ろくでもないものなんだろう?」という話だけです。実際に何がどう動いているということには気にも掛けていませんよね。

――最初から、色眼鏡で見ているから、本来の色が全く見えていないということですね。

佐藤 そう思いますよ。メディアからすれば、世の中の関心がそこにあるなら、それでいいわけですよ。

――ノイズですね。すると、これも大した問題ではないかもしれませんが、イスラエルのガラント国防相が、ネタニヤフ首相に異議を申し立てました。ガザの軍事支配に反対したわけですが、これは?

佐藤 これには非常に意味があります。なぜかというと、ガザなんか占領したところで、何の意味もないからです。ガザに壁を作ったのは、自爆テロを防ぐためですよね?

――そうです。

佐藤 だから、ガザを占領するということは、自爆テロにわざわざ遭いに行くようなものです。そんな必要ありませんよね。

――確かにそうです。

佐藤 では、なぜネタニヤフ首相がそんなことを考えているかというと、極右派が言っていて、それに引っ張られているからです。

――あっ!!

佐藤 そしていま、見なければいけないのは、イスラエルが北朝鮮化しているという点です。

――と言いますと?

佐藤 イスラエルはいま、世界的に孤立していますよね?

――あっ!! だから北朝鮮化している。

佐藤 その通りです。米国や諸外国との関係もそうですし、国際司法裁判所からはラファ軍事侵攻がジュノサイドだと批難されています。それから、米国が兵器を送らないとか、いくら圧を掛けてもイスラエルは「我々は最後まで戦い抜くと宣言しています。こういうところは北朝鮮と一緒ですよね。

――確かに。

佐藤 ネタニヤフ首相は極右を切る事ができません。そのため、ガザへの入植などという有害な主張を抑えることができない。ならば、ネタニヤフごとまとめて政権を整理しないといけない、という声が高まっています。

――北朝鮮化することを危惧する勢力が動き始めているのですか?

佐藤 そういうことです。

――ネタニヤフを降ろして、違う人間を首相にするのですか?

佐藤 そうです。ネタニヤフから別の人間が首相になるという筋書きがいま、少しずつ動きだしています。

――ネタニヤフ首相のガザ占領が批難されているのはなぜですか?

佐藤 極右派に引っ張られて占領しても、有効な形でハマスを中立化できないからです。ネタニヤフのやり方が強硬だから、降ろそうとしているわけではありません。ガザに対する軍事支配だとハマスを壊滅できないからネタニヤフを外して、現実的にハマスを壊滅しよう、と言っているわけです。この意味は分かりますか?

――正直に言います。分からないです!!

佐藤 国際的に完全に孤立すると、逆にハマスを解体できません。だから、ハマスの解体を効率的に実行するという観点から、ネタニヤフを外すということです。あくまで「ここで停戦しよう」という主張ではありません。ここの所が、今のメディアの報道と最大のズレがあります。

――世界のメディアが大好きな「ガザ停戦」、そちらの方向には向かわない。しかし、「ガザから撤退しろ」とイスラエル国内でデモが起きていますが、そうなるのですか?

佐藤 逆に「ハマスに対する中立化作戦を徹底してやれ」ということです。

――それはメディアの報道とは完全にズレています。

佐藤 ネタニヤフが自分の権力を持ってして非効率な戦いをしているうえに、「ガザを占領する」「ガザに入植する」とかおかしなことを言っているから、作戦が上手くいっていません。それが本来されるべき報道です。

――さらに、イスラエル人の人質を取り返せていない、と。

佐藤 だから、交渉が出来ていないということです。

――すると、ネタニヤフ首相を交代させて、とにかくイスラエルが国際的に孤立しないような外交努力をしながら、「ガザを徹底して攻略し、ハマスを潰す」と。

佐藤 そういうことです。ハマスの残党を壊滅し、さらにシステムとしてのハマスを破壊するのが目的ですからね。

――確かに、一般的な報道とズレがあります。ノイズを除去すると、それが見えてくるのですね。

佐藤 そうです。ただ、日本のマスメディアはかなりタイミングを逸している感はありますけどね。

次回へ続く。次回の配信は2024年6月7日(金)予定です。

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佐藤優

佐藤優さとう・まさる

作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

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小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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