佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――自民単独で提出された「政治資金規正法改正案」の審議が、5月23日より国会で開始されました。そして、佐藤優さんのメルマガ「インテリジェンスの教室」(第277号)の中では、下記のように書かれていました。
『多くの政治部記者や政治評論家が最終的には公明党が自民党に歩み寄るという間違った予測をしていました。公明党は池田大作創価学会第三代会長によって創立された価値観政党です。公明党の前身である公明政治連盟の主要な政治課題が「宴会政治の打破」でした。
(中略)
公明党HPの記述を正確に引用。
<公明政治連盟が出発したころ、全国の地方議会では「宴会政治」が横行していた。議会の委員会終了後や管外視察後などに、議員たちによる宴会が開かれることが慣例となっていた。
血税を無用の宴会で濫費することを、誰も疑問に思わない。倫理感覚の恐るべき麻痺であった。公明は、この宴会政治の追放に全国で取り組んだ。口火を切ったのは都議会公明。議会で取り上げた当初は、誰も耳を貸さなかった>(https://www.komei.or.jp/campaign/komei55/page/2/)』
これ、自民党の老練で老獪な政治家が、「昔な、公明党さんは......」など説明しないのですか?
佐藤 過去の事情を知っている人が自民党にいなくなっているから、全然、分かっていないんですよ。だから、自民党と公明党がここまで対立することになってしまっています。その意味では末期症状なんですよね。
――老練老獪な御意見番が自民にはもういない......。
佐藤 そうです。なので、いまの国内政局は、自民党対野党+公明党の対立図式になっています。そもそも政治資金というのは政府から出ている金ではなくて、国会の独自の法律に基づいて出しているわけですよね?
――はい。
佐藤 だから、野党も入れて合意するのは当たり前なんですよ。
――ただ、その前に自民党は与党間の公明との合意も出来ていません。
佐藤 そうです。だから、そういう当たり前のことが出来ますか?という話になっています。
――当たり前ではなくなっている。
佐藤 それ以前の話で、この自公政権でインボイスを導入しましたよね。
――はい、世間の一般人は大変でございます。
佐藤 我々は全部記帳しているのに、それを導入した政治家が「10万円までは書きたくない」と言っているわけです。国民からしたら「ふざけんな」って話ですよ。
――確かに! 自公政権というふたつの政党で合意している政権なのに、「お前、なんでいうこと聞けないんだ?」と言っている自民党は何様ですか?という話ですよね。
佐藤 そういうことです。だから、いまの政治で起きていることは普通ではありません。「頼むから普通にしてください」というレベルの状況なんです。
――その願いが少し通じたのか、パーティー券購入者の公開基準に自民と公明で隔たりはあったものの、3年後に見直しする規定を入れることで公明党は賛成することになりました。しかし、国民の政治不信は依然として強い。次の衆議院選挙で、いよいよ自民党から立憲民主党政権になりますか?
佐藤 あり得ますね。ただし、立憲にそういった体制が出来ているかと言ったら、全然出来ていません。現状のまま政権を獲ってしまえば、大混乱になります。
――2009年に民主党政権が出来たのと同じことがまた起きるのですか?
佐藤 その前兆はあります。東京都知事選挙で立憲民主党蓮舫さんが、日本共産党の支持を得て立候補する意向を表明したことです。
――え! 都知事選で蓮舫さんが勝つと、次の総選挙で立憲民主党が政権を獲りますね。
佐藤 その可能性が高まります。その時は立憲民主党にもれなく共産党も付いてきます。
――となると、財界、労働組合の連合、さらに創価学会も離れていく。
佐藤 そういうことです。特に経団連に代表される大資本家集団の支持を失うことが重大なポイントです。そのため、滅茶苦茶な政策が始まります。特にエネルギー政策はグチャグチャに混乱し、電気代が上がり経済が停滞します。
――良いことがひとつもない。
佐藤 共産党が加わることで、政治が根底から変化します。
――すさまじい政権。かつての民主党政権を軽く超える立憲民主......。
佐藤 その通りです。日本の政治は現在、大きく変わりつつあります。今回の政治資金の話でも極端なデフレなんですよ。昔のゼネコン汚職やロッキード事件なんて桁が違いましたよね。
――ロッキードの時は田中角栄元首相に3億円、その他の政治家に計20億円がばら撒かれています。今は10万円、5万円、1万円のせめぎ合い。政治のデフレであります。
佐藤 最高裁の長官や内閣総理大臣の年収が2500万円です。東京都内のホテルで海鮮丼が8000円という時代に、ですよ。
――外人観光客向けですよね。いや、日本人のお客さんもたくさんいます。東京では富裕層にはいたらないものの、世帯所得が3000~5000万円の中産階級上層が明らかに増えています。
佐藤 そんな御時世にもかかわらず、国会議員や高級官僚は年収2000万円程度で良い子の顔をしないといけない。
――「やってらんねーよ」と。
佐藤 そうです。他方、大多数の国民の生活水準は下がっています。だから、その文脈でいろんなことが起きています。これが現実で、国民は政治・外交どころではなく、自分の先行きが不安でしょうがないのも当然ですよ。自分の身を守るので精一杯ですからね。
そうなると、エリート層にきちんと仕事ができるレベルの所得を保証しなくてはならない、という発想も出てこない。安価な政治家や官僚は結果として国民にとって高くつきます。
――最近、上野の焼肉屋チェーンのオーナー夫妻が殺される事件がありましたが、その報酬が数百万。
佐藤 殺人すらもデフレになっています。
――世も末でございます。
佐藤 デフレは解消してインフレ基調となっているのですが、給与は上がらず不況が続いています。いわゆる「スタグフレーション」です。インフレと不況の同時進行だから、相当調子が悪いというのが現実です。この影響が経済だけではなく、政治と社会にも及んでいます。
――確かに。
佐藤 日本のトラブルの原因が複合的なので、それに対する処方箋が出て来ないんです。
――要するに、見通しが立たない。
佐藤 その通りです。いままでと違うことが起きてしまっているわけですから、見通しが立ちません。まったく位相の違うことが起きているから、近未来において本格的な大混乱になりかねない状況です。
次回へ続く。次回の配信は2024年6月21日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。