6月から岸田首相の肝いり政策である定額減税がスタート! ところが、額も中途半端だし、仕組みが複雑すぎて、ほとんど話題になってない......。
そこで専門家が簡単に中身を解説! 自分は対象者? 一気に4万円減税されるわけではないってマジ? 自営業者はどうすればいい? すべての疑問に答えつつ、皆さんの使途も大調査した!
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■6月に4万円もらえるわけではない
6月から始まった「定額減税」。岸田首相は減税により家計を支援するほか、景気を刺激することで経済の好循環を生み出すと胸を張る。
ところが20代~60代の男性500人にアンケートを行なったところ、約7割が定額減税を「知らなかった」「知ってたが、詳細はよくわからない」と回答。多くの人が恩恵にあずかれる割に、イマイチ浸透していないようだ。
そこで、まずは定額減税の基礎知識をおさらいしよう。公認会計士・税理士の太田龍彦氏が解説する。
「今回の定額減税は、日本に住む、合計所得金額が1805万円以下の人たちが対象。4万円が一律で減税されます。内訳は所得税3万円、住民税1万円で、非常に幅広い国民が対象となる施策です。
納税者のほか、その同一生計配偶者、扶養親族も定額減税の対象となります。平たく言えば、高所得層を除いたすべての人に対する4万円減税ということですね」
4万円はどのように減税されるの?
「ここがややこしいところなのですが、まず、所得税と住民税で引かれ方が異なります。その上、給与所得者、つまり会社員と個人事業主でも事情が違ってきます。
まずは給与所得者から説明しますね。所得税は6月から、上限3万円に達するまで毎月の源泉徴収額から減税されます。
仮に毎月8000円納めているとしたら、6~8月までは所得税が0円に、9月は2000円になるわけですね。年間の納税額が3万円以下で、年内に控除しきれなかった場合は年末調整や給付金で精算されます。
住民税は6月分の徴収額が0円になります。その後、住民税の年額から減税額の1万円を差し引いて、11で割った額がひと月分の徴収額となります。なお、住民税においても控除しきれない場合には差額が給付されます。
続いて個人事業主の場合は、予定納税が発生する人は予定納税から、発生しない人は確定申告によって所得税が減税されます。住民税については受け取った納税通知書に基づいて納める際に減税されます」(太田氏)
何やら難解な制度だが、とりあえず会社員は今月の納税額が大幅に減り、手取りが増えると理解しておけばよさそうだ。では、浮いたお金は何に使う? アンケートを取ったところ、最も多かったのが「食品、衣料品、水道光熱費」など、生活に必要な費用に充てるという声。
「正直〝浮いた〟と思えるほどの額じゃないですね。子供のオムツ代や米代など、生活の足しになるかなという程度」(35歳・編集者)
「電気代が値上がりしているのもあり、家賃や水道光熱費を支払って終わりそうです」(31歳・看護師)
「物価高のせいで食事が炭水化物に偏りがちだったので、野菜や肉を買いたいです。高級品ではなく、普通のスーパーで買える普通の野菜と肉で十分」(25歳・事務)
景気刺激策としての側面もあるとの触れ込みだったが、外食や旅行、趣味などのぜいたくに使う人は1割程度にとどまった。
「いつもお昼は500円のお弁当なので、ランチコースなどのプチぜいたくがしたいです」(27歳・PR)
「4人家族だと16万円の減税になるので、久々に旅行に行きたいです。国内のホテルも軒並み値上がりしており、足が遠のいていたので」(41歳・広告代理店)
一方、生活費に次いで回答が多かったのは皮肉にも「貯蓄」だ。
「今後増税ラッシュが来るといわれているので、1円でも多くためておきたいです」(42歳・自営業)
「一気に4万円増えるわけでもないので、使うという発想にはならないですね」(36歳・コンサル)
そもそも、今回は給付金ではないので実感が薄い、と語る人も。
「給与明細をよく見るタイプじゃないので、毎月数千円くらい所得が増えても気づかないと思う。自然と貯蓄する形になる気がします」(30歳・映像制作)
■給付金にしてくれれば......
続いて、今回の施策に満足しているかを聞いたところ、不満派が8割にも上った。
「手取りがわずかに増えたところで、物価高や円安が止まってくれないと根本的解決にならないと思います」(30歳・メーカー)
「定額減税は1年限りですが、今後『森林環境税』が毎年1000円徴収されるんですよね。森林環境にお金は使ってほしいですが、結局増税するんじゃん、とガッカリ」(37歳・メディア関係)
さらに、制度設計のわかりにくさや、手続きの煩雑さを懸念する声も。
「減税自体はとてもいい。でも、経営者の立場からすると、従業員への給与支払い手続きを変更する必要がある。面倒くさくて嫌になります」(45歳・飲食店経営)
「自分は減税対象から外れていますが、公的な制度とはそういうものなので、もらえなくて不公平だとは思いません。ただ、日本らしい、わかりづらい制度だと感じます。きっともらう人も、トクをした実感もないのでは」(40歳・弁護士)
これについては、太田氏も思うところがあるようで。
「給付金は該当者に一律で振り込むだけでいいのですが、今回の定額減税は、通常の所得計算とは異なる内容の確認やシステムの修正など、手間のかかる手続きが発生します。
新たに制度の勉強をしなくてはならないですし、年間契約の顧問先などから多くの相談も寄せられ、報酬は変わらないのに仕事量は増えている税理士も多いはず。
1年限りのために一部の職業の人たちが負担を強いられる結果となり、制度に不満を持つ同業者も少なくないようです」
では、どんな施策なら満足できるのか。アンケートでは「給付金」と「消費減税」を求める声が多かった。
「収入が大して多くない個人事業主としては、確定申告までありがたみを感じられないのが痛い。一律給付金ではダメだったの?」(25歳・デザイナー)
「天引きが減るより、給付金のほうがいいです。コロナ当時は地元でサロンを経営していたので、持続化給付金で100万円もらえてすごく助かりました」(40歳・マッサージ師)
「消費税は低所得者ほど負担率が高くなる。消費減税を早く実現してほしいです」(32歳・編集者)
「一時的な減税の効果は薄いので、生活必需品だけでも減税してほしい」(49歳・IT)
なぜ給付金や消費減税ではだめだったのか。太田氏の見解は。
「政府批判をしたいわけではないですが、やはり選挙を意識して〝減税〟というワードを打ち出したかったのかなと勘繰ってしまいます。給与明細にも『定額減税』の明記が求められていますし、減税のありがたみをアピールしたいのかもしれません」
減税自体は確かにありがたい。でも、なんだかズレてると思う人は少数派ではないようだ。