畠山理仁はたけやま・みちよし
1973年生まれ、愛知県出身。フリーランスライター。2017年『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社文庫)で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。ほかに『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)などの著書がある
史上最多となる56人が立候補した東京都知事選挙。主要候補だけではなく、全員に取材して、彼らの公約や目的、言い分を聞いた。日本の首都・東京の未来を託すのは誰がふさわしいのか。この特集をじっくり読んで考えてほしい。
会うのが大変だった。これまで取材してきた選挙でも、政見放送なし、選挙公報なし、選挙ポスターなし、街頭活動なしという候補者はいた。しかし、今回は異例中の異例だ。
勾留中で接見禁止の候補者がいたり、ネットだけで選挙をする候補者がいたりする。
それでもなんとか、なんらかの方法で全候補者の思いを知ることができた。56人56様の"人生激場"を届け出順に紹介していく。
郵便局員の野間口翔(のまぐち・しょう)は出馬表明記者会見を開いていない。Xのアカウントを開設したのも5月。事前情報がない中、告示日に勝算を聞いた。
「今回の選挙は知名度ありきの選挙になっています。しかし、自分の政策論が報道されて解説されればチャンスはあるのかな、と」
野間口は選挙公報で「デフレギャップを解消するまでは積極的財政」と主張している。ほかの候補との違いは?
「公務員試験の勉強で経済学をひと通り把握している。ほかの方はマクロ政策を述べない。自分の一番の強みはそこです」
さわしげみは民間外交家。長髪に羽織袴で長く伸びた口ひげは、出馬表明時から異彩を放っていた。「現代の織田信長」を自称し大きな声で話す。1番目に挙げた政策は「子供ひとり(15歳までの子供)につき年間100万円を給付する」
意気込みを聞かせてください。
「これは私の選挙ではない! 東京をどのように導くのか、皆さんが最高の人を選ぶための究極のチャンスです! 一番良い方に投票してください!」
医師の大和行男(やまと・ゆきお)には大田区のクリニックで話を聞いた。約束の時間に訪ねると受付に誰もいない。声をかけると奥のほうから大和が小走りで出てきた。
「受付も診察も薬の処方も会計もひとりのワンオペです」
受付にも人がいないとは! 専門は児童精神科だが、なんでも当日診る「赤ひげ診療」や日曜診療もやっているという。どんな政策を?
「病児保育所の増設で雇用を生みたい。都立病院の日曜休日診療も広げたい。女性医師・看護師の育児明けの再教育・雇用支援もやりたい。まずは医療従事者の働く環境を改善したいですね」
大田区だけでなく八王子市高尾にもクリニックがある。いずれも黒字だというが、大和の勤務は「週6」だ。
「もともと休みは木曜と日曜日の午後だけ。選挙中も通常どおり診療は続けます。休みの間だけ選挙カーなしのワンオペ選挙をやります」
自分の体は大丈夫なのか。
「なんとか大丈夫です(笑)」
木宮(きみや)みつきが出馬表明記者会見の場で主張した政策は「人類史上始まって以来の徳政令・ゲサラ法の実現」だ。木宮は記者たちの困惑顔を気にせず話を続けた。
「すべての国民の借金、住宅ローン・カードローン・教育ローンなどを帳消しにする。素晴らしいでしょ?」
では、その財源は?
「ディープステートによって奪われた金塊。その利子が充当されます。日本にもあると聞いています。ほぼ取り戻して、みずほ銀行にあります」
それは初耳です!
「メディアはゲサラ法を知らせない。隠している。わかっている方が未来党党員です」
木宮に今回の獲得目標を聞くとこう答えた。
「ん~、100票ぐらい?」
3選を目指す現職の小池百合子(こいけ・ゆりこ)は都議会最終日の6月12日に出馬を表明。本会議で小池の出馬表明を聞いた自民、都ファ、公明の都議から拍手が起きる一方、「待ってました! カイロ大学首席卒業!」との声も飛んだ。
小池は平日は知事としての公務を優先し、選挙戦初日は街頭演説なし。最初の街頭演説は6月22日(土)の八丈島で1回。23日(日)は奥多摩町、青梅市の2ヵ所だけ。警察による厳重な警備が必要なため回数は限られる。演説後の有権者との接触も少ない。
演説の場では聴衆やユーチューバーからやじが飛ぶが小池はまったく動じない。八丈島でジャーナリストの横田一(はじめ)が「やじが嫌で八丈島を選んだのではないですか?『萩生田ゆりこ』と呼ばれたくなかったのではないですか」と問いかけると、小池は「つばさの党の人?」と言い残して立ち去った。
うつみさとるはSNSのフォロワー総数80万人以上の現役医師。うつみは「外国人や外国企業優遇」に対して強い危機感を持っていた。
「今は日本人のためではなく、外国企業、日本人ではない人のための政治が行なわれている。特にこの数年、日本の崩壊がひどい。種苗法改正や水道民営化など、日本の法律や政治が外国のために変えられた。多数派の日本人が差別されている。このままでは2025年に日本はなくなる」
政治活動歴は17年。今回、自身が初めて立候補した理由は「自分が黒幕のままではダメだと思ったから」と言う。
「私の話を聞く人、見る人が増えることで、危機感を持つ日本人が増えれば目的の半分は達成している」
前安芸高田(あきたかた)市長の石丸伸二(いしまる・しんじ)は、議会で居眠りする市議をSNSで批判したり、会見で地元記者と激しく対立する様子がユーチューブの切り抜き動画で拡散されて全国区の知名度を獲得した。若い世代によく知られており、ボランティア募集には2000人が集まった。東京での選挙はどうですか?
「こんなに人が集まる選挙があるんですね! 『珍しい生き物が来た』って感じなんでしょうね(笑)」
小野寺(おのでら)こうきは建設業や不動産業など、ビジネスの世界で生きてきた。30年以上、ミャンマーへの支援や、地元・泉岳寺で赤穂四十七士を弔うための義士行列を続けてきた。今回は大石内蔵助のいでたちで忠臣蔵義士新党を立ち上げている。
「大災害は、私の直感で来年来る。災害時に日本人が海外に移住できるようにしておかなければ」と危機感を募らせる。その第一歩として提案するのが「都内の学校へのシェルター設置」だ。80歳を目前にした小野寺は話の途中で「誰かを助けて最後は......」と目をうるませた。
しんどう伸夫(のぶお)は大阪在住。「お金をみんなへ シン独立党」という政治団体を立ち上げての出馬。重点政策は?
「妊娠70日目以後、18歳未満の方に対して毎月20万円のベーシックインカムを導入します」
財源は?
「都債や地方交付税。都民税や法人都民税は廃止しますが、ヘアヌード新税を徴収します。都職員の給与を4割削減します。よろしく!」
竹本秀之(たけもと・ひでゆき)は都知事選2回目の挑戦。公平な選挙の実現を目指すという。
「2014年の都知事選で舛添要一の得票は猪瀬直樹の48%でした。どの区でもそうでした。これはおかしい。不正選挙を疑っています」
しかし、筆者が調べてみると23区での得票率には46.32~51.50%まで幅があった。街頭演説は「命の危険があるのでやらない」と言われた。
桜井誠(さくらい・まこと)は都知事選3度目の挑戦。出馬表明会見では終始メディア批判を展開した。
「50人を等しく特集記事で書いて、有権者の前に明らかにするのが仕事でしょうよ。口を開けば蓮舫がどうしたこうしたと、バカじゃないの? ここで公約を言ったところで意味がない!」
そう言いつつも、桜井はひとり語りで政策を語った。
「私の政策は外国人生活保護の即時廃止! これ以外には訴えていない。いくら並べたところで、脳みそが足りない人間ばかりでしょう!」
一方的に17分話すと質問は受けつけず立ち去った。
ドクター・中松(なかまつ)は8回目の都知事選だ。「プロの政治家から脱却すべきときが来た。誰も見たことのない発明選挙をやります」と宣言して選挙戦に突入。選挙戦が始まるとGPTsを使った「答えマース」で有権者からの質問に回答。高齢を心配して質問するとこう答えた。
「人間は144歳まで生きられる!」
安野(あんの)たかひろは東京大卒のAIエンジニアでSF作家。「テクノロジーで誰も取り残さない東京にアップデートする」と訴える。テクノロジーを活用し、誰でも政策提案や変更ができるようにして「マニフェストも改善していきたい」と話す。マニフェストをAIに学習させ、ユーチューブライブ上で質問や要望を受けつける取り組みも始めた。
渋谷で街頭演説を終えた安野に聞いた。なぜ選挙に?
「AIも含めた技術が発展して、技術的にできるけどトップが意思決定できなくて止まっていることがむちゃくちゃ多い。技術のわかる専門家が意思決定の場に立つことが、実は世の中を推進していくことになると思うんです」
清水国明(しみず・くにあき)は歌手・タレントとして50年以上活動。それと同時に、自然体験を中心とする青少年健全育成事業、大規模地震などの被災現場に赴いての支援活動も続けてきた。
新橋SL広場前で清水に聞いた。訴えたいことは?
「災害対策! 防災だけでなく、災害が起きた後の避難生活を改善したい。災害後は非常に劣悪な環境で災害関連死も起きる。事前に備えておく必要があると訴えたい」
AI(えいあい)メイヤーはAⅠ党からの立候補。本名は公表不可で写真撮影は仮面をつけた状態。今の政治を「自由化されていない業界」だと批判し、「政治の自由化」を訴える。
「データ重視の政治にします。匿名やアバターによる選挙出馬を可能にしたいですね」
桑原(くわはら)まりこには告示日に会った。当初は特定の企業名、個人名、宗教団体名を掲げて「被害者の会」および「撲滅党」を名乗っていたが、当該企業から抗議を受けた後、無所属に変わった。なぜ固有名詞を団体名に入れたのか。
「そのほうがインパクトがあると思って」
しかし、訴える政策を聞くと、意外にも「公衆トイレと喫煙所を増やす」だった。
ゴトウテルキにも告示日に会えた。訴えたい政策は?
「ラブ&ピースです」
前草加市議の河合(かわい)ゆうすけは、出馬表明記者会見に黄色の帽子とスーツ、顔は緑色の化粧で登場した。日によって白塗りのジョーカーにもなる。
「私は学歴詐称はしておりません~」と言って京都大学卒業の学位記を広げた。
「政策は『一夫多妻制』の導入。以上。あんたら政策に興味ないでしょ?」
実際には300種類以上の異なる政策を掲げたポスターを作っている。しかし、告示日に張った「表現の自由」を訴えるポスターの中に「ほぼ全裸の女性」が大きく写ったものがあり、警視庁から都迷惑防止条例違反の疑いで警告を受けた。河合は即日ポスターを剥がしに回った。
福本繁幸(ふくもと・しげゆき)は事務所のある栃木県から車で東京まで通って選挙を戦う。地元で生放送のラジオが週に5本あるためだ。「織姫&彦星」という男女デュオで地域活性化の歌手活動もしているという。
出馬会見では「攻撃的ではなく......」という言葉を多用。控えめに「縁の下の力持ちになりたい」と話すので質問してみた。縁の下の力持ちになりたい人が、なぜ都知事?
福本は激しく反論した。
「東京都知事が縁の下の力持ちじゃダメなんですか!?」
黒川(くろかわ)あつひこは現在、公職選挙法違反(自由妨害)の疑いで逮捕・勾留されている。接見禁止のため会えないが、弁護士を通じて作成した立候補声明をつばさの党代表代理の外山まきが代読した。声明には次のような文言が。
「あなたたちも腐りきった政治家たちに凸すべきです」
黒川本人は不在だが、メンバーが政党本部前や大使館前で抗議街宣を行なっている。
医師で核融合党代表の桑島康文(くわじま・やすふみ)にも話を聞いた。
「選挙の目玉は『東京都庁に核融合課を創設』です」
意気込みを教えてください。
「核融合の現実味を都民の皆さんに感じてほしいですね」
元航空幕僚長の田母神(たもがみ)としおも立候補している。田母神は14年の都知事選では61万865票を獲得して4位。その後、16年4月に公職選挙法違反で逮捕され、18年12月に有罪が確定。23年12月に公民権を回復してから約半年での出馬だ。
「私は75歳。年齢詐称はしておりません。私は怖い人と思われていますが、本当はいい人なんです」
出馬表明記者会見で核武装についての考えを聞くと、田母神ははっきりと答えた。
「私は日本も核武装すべきだと思っています。核武装しないと国際政治の場で発言力は核武装国並みにはならない」
蓮舫(れんほう)は現職の小池とは対照的に連日街頭演説を行なっている。人通りの多い場所だけでなく、商店街や島も回る。
出馬表明を含めて何度か演説を聞いた。小池都政の良いところは受け継ぐが、足りないところもあるという。蓮舫の独自色が出ているのは行政改革の手腕。そして、東京都と契約する民間企業に若者の待遇改善を促す「公契約条例」の制定を掲げているのも特徴だ。
「徹底した、躊躇のない若者支援。それがシニアの安心にもつながる。次の東京にあなたと進みたい!」
ないとうひさおは4回目の都知事選挑戦。2014年の初挑戦時から「東京一極集中の緩和」を訴え続ける。「食料自給率の向上」「公営の人材派遣組織を通じて他道府県への農業支援」なども初回から変わらない政策だ。ブレずに続ける理由は?
「知名度が低いのはどうしようもないが、訴え続けて気づいてもらうしかない」
今回の都知事選では別の異常事態も起きている。ひとりしか当選しない選挙に、政治団体・NHKから国民を守る党(以下、N国党)が19人もの候補者を擁立したのだ。
さらにN国党から選挙指南を受けた関連5団体から5人が立候補。合わせて24人のN国関連候補は、都内に約1万4000ヵ所あるポスター掲示場のうち、都庁前の1ヵ所を除いて基本的に選挙ポスターを張らないと宣言した。
その代わりに「2万5000円を寄付した人はひとつの掲示板の24枠すべてにオリジナルのポスターを張っていただける」とアナウンスしたのだ。同党党首の立花孝志は「事実上の販売」と発言。候補者を多数擁立したことについては「弱小政党は数で勝負するしかない」と語った。
公職選挙法はこうした事態を想定しておらず、禁止する規定がない。だから違法ではない。しかし、選挙戦初日から「ひとつの掲示板に選挙と関係ないポスターが大量に張られている」などの苦情が殺到。大きな批判が起きた。
まずはN国党関連の5団体の候補者を紹介する。
政治団体「カワイイ私の政見放送を見てね」から出馬した内野愛里(うちの・あいり)は出馬の動機を「ポケモンカード屋さんをやっているんですけど、借金が膨らんでしまって......」と話す。どういうこと?
「供託金を用意するから出ない?とお声がけいただいたんです。私みたいな者でもできることがあればと決めました。供託金を出してくれたスポンサーのマスコットとして活動することが決まっているので、お仕事の一環です」
弁護士で医師の石丸幸人(いしまる・ゆきと)の出馬の動機は次のとおり。
「法律も医療も知識がないことで損をする。その考えを伝えるユーチューブチャンネルを開設したので、その考えを広めたい」
尾関(おぜき)あゆみは「政治に詳しくない」と正直に言う。政策は?
「ポーカーが日本ではやってきているので、ポーカーで経済活性化をしたいです」
ゴルフ党の小松(こまつ)けんの主張は次のとおり。
「お金持ちを優遇して都民を豊かにしたい。東京は世界で2番目に億万長者が多いが、都民が潤っていない。お金持ちを優遇してどんどん消費してもらうことで経済が循環し、都民も豊かになる」
かがたたくじには党名の由来を聞いた。
「温泉地を盛り上げる仕事をしています。日本はこれから没落していくフェーズに入っていく。これをひっくり返すには、覇者と王者、織田信長のような人物でなければと、覇王党という名前にしました」
さて、ここからは19人連続でN国党の候補者だ。合言葉は「NHKをぶっ壊す!」。選挙公報は党の政策を順番に並べたもので、候補者の個性が見えるのは顔写真と名前だ。独自の政策はあるのか?
福永(ふくなが)かつやは「いかがわしい人であっても豊かに過ごせる街にしたい」
犬伏宏明(いぬぶせ・ひろあき)は16年間自転車店を経営している。
「正しい自転車のルールを理解している人がほとんどいない。だいたい自分に都合の良いルールで理解して乗っているマイルール野郎ばかり。正しい自転車ルールを理解して、自転車フレンドリーな国にしたい。自転車マイルールをぶっ壊す」
武内隆(たけうち・たかし)は「独自の政策はありません。立花さんのやっていることを応援したい。それだけです」と語った。大阪在住のため選挙運動はしない。
遠藤信一(えんどう・しんいち)は元宇都宮市議。「NHK受信料を払わなくていいということを伝えたい」
上楽(じょうらく)むねゆきは2011年に東京都知事に憧れ、今回、ようやく立候補できたという。
「少子化対策として、子供が生まれたらひとり当たり1000万円を支給したい。内訳は生まれたときに100万円。そこから毎月4万円の支給で少子化をストップさせたい」
二宮大造(にのみや・たいぞう)は大分からの立候補。「NHKも民営化して、民間放送にしてはどうかと考えます」と主張する。
中江(なかえ)ともやは、「ホストは日本が誇る究極のサービス業。男性では最年少の候補ということで、東京都の青年の代表として頑張ってまいりたいと思います」
ふなはしゆめとは「遊漁船の救命いかだを除外する条例を作りたい」
山田信一(やまだ・しんいち)は「私は来年の参議院選で2%の得票率で政党要件を満たすための駒になります。19人の中では一番になりたい」
加藤英明(かとう・ひであき)は「党の政策に従います」
草尾(くさお)あつしは「NHK党の活動を皆さんに知っていただきたい」
津村大作(つむら・だいさく)は「この選挙、あなたの一票が決めるんです、みたいな姿勢で報道するべきだと思います」
横山緑(よこやま・みどり)は「コンビニのポリ袋、紙袋をなくしたい。性犯罪者により強い罰則規定を作りたい」
前田太一(まえだ・たいち)は「元警察官です。交番にあるテレビを撤去する。警官は努力目標に追われて小さい犯罪ばかり追いかけている。ノルマを下げて凶悪犯罪捜査に人を当てられるようにしてほしい」
みなみ俊輔(しゅんすけ)は「これまで3度無所属で選挙に立候補してきた。若い人に政治に参加してほしいというところで一致したので参加した」
ふくはらしるびは「NHKを解体して、本来の報道機関に戻して、日本人が誇りを持てるような報道をしてほしいと思っています」
木村(きむら)よしたかは「チューナーレステレビを街中に設置して人を街に呼び戻したい。そしてバブルのような好景気にしたい」
三輪陽一(みわ・よういち)は政見放送の収録後に会うと「NHKをぶっ壊す!」とポーズ。独自政策は「社長になりたいです。業種は決めていません」
フリーランスエンジニアの松尾芳治(まつお・よしはる)の独自政策は「まんが図書館を作る。日本保守党の有本香さんを副知事に」などがある。
この後はN国党以外に戻る。
ホカリジンには告示日に出馬の理由を聞いた。
「小池さんがまた4年やるのは良くないなと思って。だったら自分が出たらいいじゃないかとささやくのよ、私のゴーストが」
49番目からはポスター枠がないが、どうするのか。
「ポスターは作らない」
小林弘(こばやし・ひろし)は届け出番号が50番目になった。しかし、東京都選挙管理委員会が用意したポスター掲示場の枠は48。選挙前からポスターを準備していた小林は、ポスターを張る枠がないというまさかの事態に直面した。
都選管が49番目以降の候補者に用意したのは大型のクリアファイル、画鋲、ガムテープ、ビニール袋。これを使ってすでにある掲示板に固定し、枠を自作しなければならない。最初の一枚に同行すると、小林は「かえって目立つね。でも手間がかかる」と感想を述べた。無情にもその日の夜は雨。翌日になるとポスターはしおれていた。
そんな小林の政策は「東京を綺麗に! ゴミ箱の設置、スモーキングエリアと公衆トイレの増設」だ。
加藤健一郎(かとう・けんいちろう)もポスター枠を自作せざるをえなくなったひとり。21年の千葉県知事選挙では、政見放送で小池知事にプロポーズをして話題をさらった人物だ。しかし、今回話を聞くと衝撃の事実が発覚。
「あれは本心ではありません。地盤もないから利用させていただいた。僕の好きなタイプではないんで」
え! 訴えたいことは?
「危機管理。科学技術の進歩で危ない時代になっているから対策を訴えたいなと。まだいいアイデアが出ているわけじゃないけど」
ひまそらあかねは代理人が立候補を届け出た。取材したい旨を伝えると「取材はXのDMで」と指定された。編集部を通じて「都民に訴えたいこと」を聞いてみた。
「東京都の公金事業不正会計疑惑と戦い1億6000万円のカンパが集まりましたが報道されませんでした。僕が都知事になったら、『公金チューチューをなくす』『東京都をデジタルで楽しませる』、そして『政治献金一切ゼロ』の3つの公約を必ず実行します。Twitter(現X)@himasoraakane」
向後真徳(こうご・まさのり)は「小池さんは次の衆議院総選挙で国政に戻られたほうがよいのでは」と提言する。政策として教育改革、子育て支援に力を入れたいという。具体的には?
「年中無休の学校を造る。土日が仕事で家族の時間を持てない人もいるでしょうから、親の都合で休んでください」
うしくぼのぶおには立候補届け出会場で会った。
どんな政策を?
「東京都の防災は当たり前のようにやりつつ、ベーシックインカム(毎月10万円支給)ですね。それから、東京都庁内に都道府県人会のサロンをつくって各県のつながりを強化します」
立候補届け出を終えたばかりの古田真(ふるた・まこと)は、大きな声で記者に向かって吠えていた。
「簡単な操作で! ATMで! 振り込まれると思って振り込んじゃう!」
テニスが好きな古田は大柄で体格もよく声も大きい。怒りの形相には威圧感がある。どうやら自分が振り込め詐欺の被害に遭ったことに憤っているようだ。途中から話に加わって「何回だまされたんですか?」と聞いてみると、古田の表情が一気に崩れた。
「1回に決まってるだろ! 2回も3回もやってられるかよ(笑)」
アキノリ将軍未満(しょうぐんみまん)は名前も独特ならいでたちも独特だ。
なぜ「将軍未満」なのか。
「ちょっとおちゃめな感じが出るんじゃないかと」
「政治活動に芸術を取り入れたい」との思いから、頭にはアクリルで作られたカブト「そらびかり」をかぶっているという。「表現としてやっている。自分たちが面白がれることをやって、選挙をお祭りにしていきたい。私は必ず当選しませんので」
供託金の半分は寄付。半分は借り受けたという。なぜそこまでして立候補を?
「私の師匠は外山恒一(政治活動家)。師匠より知名度を獲得したいと思ってます」
紙幅の都合で細かい政策まではカバーできなかったが、ほかにも各候補が掲げるオリジナリティあふれる政策はたくさんある。ぜひ、宝探しのような気持ちで探してほしい。自分がいいと思える政策を、自分が推す候補者に伝えていくのも民主主義だ。
選挙は候補者だけでなく、有権者も試されている。
*文中敬称略、年齢は投票日当日の年齢です。
1973年生まれ、愛知県出身。フリーランスライター。2017年『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社文庫)で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。ほかに『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)などの著書がある