極秘開発だったSM6ミサイルの空中発射型AIM-174Bが運用されていることが明らかになった(写真:柿谷哲也) 極秘開発だったSM6ミサイルの空中発射型AIM-174Bが運用されていることが明らかになった(写真:柿谷哲也)
ハワイでリムパック演習を鋭意取材中のフォトジャーナリスト・柿谷哲也氏から一報が入った。

「米空母・カールビンソンに乗艦取材をしていたんですが、世界初公開の空中発射型のイージスミサイル『SM6』を撮りました。AIM-174Bといいます」

なんと、この写真は日本のマスコミでは初公開となった。撮影できたのは柿谷氏含めて2名のみ。

「演習では記者に対する乗艦機会を提供することがあり、今回は乗艦希望を出していたので撮影が叶いました。

このミサイルを撮影できる予定は聞かされていませんでしたが、期待はしていました。4日前に乗艦した他のメディアは見ることができなかっただけに、運が良かったです。

正直、このミサイルが今回のリムパック演習で最大のニュースといえるので、撮らないとハワイに来た意味がないと不安でした。それだけに、FA-18ホーネットの翼に白いミサイルを確認した時はアドレナリンが放出しました」(柿谷氏)

その写真が冒頭のものだ。

艦載戦闘機FA-18の右翼の下に一発、長射程汎用ミサイルSM6が搭載されている。本来、SM6はイージス艦に搭載されてミサイル防衛(MD)を担当する。

「日本の海上自衛隊のイージス艦にも、この艦載用のSM6の搭載を予定しています。SM3を対弾道ミサイル迎撃に使い、射程240~300kmのSM6は中距離弾道ミサイルから巡航ミサイルの迎撃、さらに対空戦、対水上戦に使えます」(柿谷氏)

つまり、海自イージス艦は、日本本土へ宇宙空間から飛来する弾道ミサイルや、海上を低空で飛来する各種巡航ミサイルなど、中国軍のあらゆる飽和攻撃に対して対処が可能になる。

「艦載型のSM6は日本だけなく、オーストラリア、韓国も導入する予定で、今後、アメリカの同盟国が持つイージス艦に次々に輸出されます。

また、将来は各国空軍が使用するF-15ストライクイーグルなどの戦闘機にも搭載できるようになるでしょう」(柿谷氏)

そのイージス艦用ミサイルSM6を、なぜ戦闘機に搭載するのだろうか。

「まず、イージス艦からSM6を撃つ場合、上空に打ち上げるブースター部分が必要です。そのブースターは大型化していて、全長6.55m、重さ1.5トンです。

空中発射型はそのブースター部分を装着せずに搭載されていました。その目的は艦隊防空が第一です。E-2D早期警戒機の支援の下、随伴するイージス艦より前線に出ることができます。つまり、FA-18はイージス艦より前に出て、対空戦や対水上戦、そして弾道ミサイルへの対処に使えます」(柿谷氏)

イージス艦から発射されるSM6。激しく発射炎を噴出している部分が、ブースター。空中発射型はブースターが不要(写真:アメリカ海軍) イージス艦から発射されるSM6。激しく発射炎を噴出している部分が、ブースター。空中発射型はブースターが不要(写真:アメリカ海軍)
かつて米海軍F-14に搭載されていた長射程150kmのフェニックス空対空ミサイルは重さ450kgだった。

(写真:柿谷哲也) (写真:柿谷哲也)
「FA-18搭載用のSM6の重さは不明ですが、発艦したFA-18が上空からこのSM6を撃てば、射程距離が伸びます。明らかになっているデータでは、250~460km以上とされています。

また、SA6にはレーダーが搭載されており、目標を探知追尾できるアクティブレーダーホーミングです」(柿谷氏)

FA-18の戦闘行動半径は空母から740km。空母から前進しそこからSM6を撃てば、空母から1200km先の中国空母を攻撃可能となるのだろうか。

「1200㎞先までは分かりませんが、1000㎞先の目標は撃破できることになります。まさにアメリカ海軍はそれをこのミサイルに期待していると考えます」(柿谷氏)

すると、中国軍御自慢の本土から発射する長距離地対艦ミサイルを、最初にFA-18に搭載のSM6で迎撃したうえに、米空母と輪形陣を組むイージス艦搭載のSM3とSM6で撃ち落とせる。さらに、1000km圏内にいる中国艦艇を撃沈可能となる。

「中国軍からの各種ミサイルの飽和攻撃に対するMD防御力と、1000km以内の対艦攻撃力が大幅にアップします。SM6搭載FA-18は、米空母艦隊の防御と攻撃能力を激変させるということです」(柿谷氏)

今回、アメリカ海軍が新型ミサイルを公開した理由は何か(写真:柿谷哲也) 今回、アメリカ海軍が新型ミサイルを公開した理由は何か(写真:柿谷哲也)
1990年代に沖縄302飛行隊でスクランブル任務に就き、当時の米空母の実力を大空で体験した元航空自衛隊空将補の杉山政樹氏はこう言う。

「90年代に私が沖縄で経験したのは、いま話題になっている南大東島の西太平洋上に国籍不明の飛行機が飛んでいるから、そのID(視覚確認)を取ってきてくれ、という任務でした。

スクランブルで上昇し、空母から100マイルも離れた洋上で、空自のレーダーサイトからの情報なしに、いつのまにか自分たちの両サイドをF-14に取り囲まれていた。そうして向こうからIDを取られた、という次第です。その当時、F-14は能力的に最高域の戦闘機でしたから」(杉山氏)

そのF-14に搭載されていたフェニックスミサイル(射程150km)とは、当時どう伝わっていたのだろうか。

「F-14のレーダーとコンピューターで24個の標的を確認して、そのうち脅威になるものを2個ぐらい選び、そこにその対空ミサイルを撃つ。

格闘戦で一対一の空戦をする前、これから戦闘空域に入るぞという段階で、バシバシと撃ち始めるのが当時のF-14の考え方でした」(杉山氏)

まさに最強の戦闘機がF-14だったのだ。

「攻撃型空母というのは、基本的に兵器のパワープロジェクション(戦力投射)能力、つまり、自分たちの力をどのように相手に知らせるかがその役割です。

米空母のその能力を発揮したのが、1996年3月、第三次台湾海峡危機の時です。米軍は二個空母機動隊を台湾海峡に入れて、中国の台湾侵攻を思い止まらせました」(杉山氏)

では2024年の現在、この米空母艦載機FA-18にSM6を搭載する意味はなんなのだろうか?

「米海軍大将であるインド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官が、『台湾海峡を無人機で火の海にすると、米軍が来援するのは一ヵ月先』と発言しました。

しかし、米国防省からも日米同盟として、少なくとも自分たちの戦力を投射できるような形を維持しないとならない。そんな判断からこのSM6搭載につながったと思います。

空母輪形陣がいま対処したいのは、弾道ミサイル、巡航ミサイルなど、空からの攻撃にどう備えるかです。その確率を上げるためには、発射機の数を増やさないとならない。すると、イージス艦を1、2隻増やすよりSM6をFA-18に搭載すれば、もっと数の多い発射手段が持てる、という流れだと思います」(杉山氏)

すると、このSM6搭載のFA-18を矢面に立てて、台湾海峡に米空母艦隊は再び突っ込むのであろうか。

「米空母艦隊はいま、そうした運用の練習をしています。しかし、これが作戦に組み込まれるかは疑問ですね。中国沿岸部の攻撃で、米空母が1隻やられるのは厳しいと思います。

ただし、戦闘が始まる前にすでに台湾海峡に米空母が入れる可能性は無きしにもあらずです。その状況なら、米空母は中国に先制攻撃するわけです。そして、そんな決戦を請け負った場合には、SM6搭載のFA-18というツールがあるということです。

軍人は必ず事前に訓練をして、演習などいろいろな可能性を必ず探ります。今回のお披露目は、そういった範疇だと思います。

要するに、危険領域に入っていく可能性もありますと演習で見せて、入っていくとは言っていない。米海軍は、米海兵隊、米空軍と同じ歩みをしていますよ、という意思を見せているのだと思います」(柿谷氏)

小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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