バイデン米大統領に「選挙から下りろ」と社説で批判したニューヨークタイムズって何者だ?(写真:EPA=時事) バイデン米大統領に「選挙から下りろ」と社説で批判したニューヨークタイムズって何者だ?(写真:EPA=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――トランプ前大統領、バンス副大統領候補、ジョンソン米下院議長。その「ウクライナ終戦三銃士」が幕引きを目指すウクライナ周辺には、さまざまなノイズと情報が錯綜していますね。

まず、7月3日にはフィンランドの大統領が「ロシアは現在、中国にとても依存している。習主席からの電話一本でこの危機は解決するだろう」と発言しました。これは効き目がありますか?

佐藤 フィンランドの大統領はプレイヤーではありません。影響力はないので、田んぼの中で蛙が鳴いているようなものです。無意味な発言です。

――ノイズですね。次に、7月8日にインドのモディ首相が訪露してプーチン大統領と会談。そこで「ウクライナは対話で解決」と発言しましたが、これはどうでしょうか?

佐藤 これはいつも言っているので、「言い続けている」ことに意味があります。インドはロシアと喧嘩することに利益を見出していませんからね。

――古い話になりますが、5月8日にゼレンスキー大統領暗殺計画が阻止されました。ウクライナ保安庁がウクライナ国家警備局の大佐ふたりを逮捕しています。トランプは殺されかけましたが、ゼレンスキー大統領も暗殺される危険性が高いですよね。

佐藤 ウクライナ政権の内紛ならばあるかもしれません。

――この暗殺計画が上手くいけば、この逮捕された大佐のどちらかが大統領になるということ?

佐藤 そんな人相手に誰が降伏交渉をするんですか?

――交渉相手にならない元大佐......。

佐藤 ゼレンスキーはとりあえずウクライナをまとめています。いまのウクライナでゼレンスキー以外にまとめられる人間はいません。

ウクライナの誰と交渉して、誰が降伏文書にサインをするのか。少なくともゼレンスキー体制が残っていることが前提です。ロシア側も暗殺での混乱はまったく望んでいません。

――終戦の最後は降伏文書調印ですよね。

佐藤 降伏ではなく、停戦合意になるでしょう。ただ、ロシアはウクライナ全州を統治したいとは考えていません。だから、いま併合している4州とクリミアに留まります。

――仮にいまゼレンスキーが亡命すると、それを受け入れてくれる国はどこですか?

佐藤 米国です。米国は自分たちが作ったエージェントを最後まで大切にします。旧南ベトナムのグエン・バン・チュー大統領とか、グエン・カオ・キ首相などがわかりやすい例ですよね。

――懐かしいベトナム戦争の方々! 大統領、首相としてベトナム共和国を治めていたふたりですね。

その亡命先の米国では、6月にニューヨークタイムズ(以下、NYT)である社説が掲載されました。トランプとの討論会に失敗したバイデンに対して、選挙戦から撤退しろという内容です。

佐藤 これはおかしいことですよ。NYTにそんなことを言える資格があるのか?という話です。

――NYTは新聞メディアですよね。

佐藤 新聞報道のメディアで、しかも一民間企業で株式会社、営利の追求が目的です。そんな企業に「バイデン降りろ」とか「お前だとトランプに勝てない」と言う資格はありません。

となると、トランプ支持者たちの「ディープステート(影の政府)はある」という主張は本当だとなりますよね。

――マジでありそうですね。NYTを読むと「影の政府は実在する」となりますね。

佐藤 まさにそういうことです。アメリカのエスタブリッシュされたメディアは異常なんですよ。

――バカ丸出しで聞きます。影の政府ってあるんですか?

佐藤 影の政府に関してはこう考えてください。

どの民主主義国家でも、政治には2通りの人間が関わっています。ひとつは選挙で選ばれた人です。もうひとつは資格試験によって登用された人です。

しかし、例えば政治部記者のような政治家と属人的な信頼関係を持っている人が存在します。そして彼らは選挙の洗礼も受けず、資格試験で登用されたわけでもなく、政治に影響を与えます。

こういった非公式に国家の意思決定に影響を与えるものを「ディープステート」と言っているんです。それが影の政府ですよね。だから、民主的統制に服していない人たちは、おかしいのです。

――なぜNYTはあんなことを言い始めたのですか?

佐藤 彼らはトランプが怖いんですよ。NYTはトランプのいない4年間、実際に権力を握っていました。共産党政権ができることに対する恐怖に近い感覚ですよ。

――米国のマスコミエリートたちは、トランプが大嫌い。

佐藤 それから経済人も皆、危機感を持ちます。だからトランプ政権ができるというのは、共産主義政権の誕生と同じくらいのインパクトがあります。

――さらに、暗殺未遂の銃撃からサバイバルして、トランプは神憑(がか)りになっている。

佐藤 トランプはカルヴァン派です。なので、神憑っているというより、神から選ばれた人間だという確信をより強めているはずです。大統領になるのも確実だし、米国のために使命があるから自分が選ばれたと、そんな感覚になっていると思いますよ。そうすると、おのずと独特のオーラが出てくるんです。

――だから、NYTは怖がる。

佐藤 そうです。それでNYTはビビり上がっているわけですよね。

次回へ続く。次回の配信は2024年8月23日(金)予定です。

★『#佐藤優のシン世界地図探索』は毎週金曜日更新!★

佐藤優

佐藤優さとう・まさる

作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

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小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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