「人の話をよく聞くのが特技」と語り、首相に就任した岸田文雄氏。次の自民党総裁選への不出馬を表明し、退陣することが決定した。国民の話をどれほど聞いてきたのか。岸田政権の3年間を評価する。
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■外交以外に3年間で評価できるものはない!?
「総裁選には出馬いたしません」。8月14日、岸田文雄首相は会見で次の自民党総裁選挙(9月12日告示、27日投開票)への不出馬を表明した。これで岸田政権は約3年で終わることになる。
また、岸田首相は「この3年間で『賃上げと投資促進』『エネルギー政策の転換』『少子化対策』『防衛力の強化』『日韓関係の改善』に大きな成果を上げた」と強調したが、実際はどうなのか。国際政治学者で元厚生労働大臣の舛添要一氏に岸田政権の3年間の評価を聞いた。
「まず、経済的なことでいえば、就任当初に2万8000円ほどだった日経平均株価は、現在3万8000円程度で1万円くらい上がっています。株価で見れば経済はそんなに悪くはありません。
では、これは岸田首相の経済政策が良かったからなのかというと、そうではありません。GDP(国内総生産)約550兆円の6割は個人消費です。個人消費が伸びない限り、経済は良くなりません。
では、個人消費が伸びた原因は何かというと、新型コロナが2類相当から5類に移行したからです。行動制限がなくなり、みんなが外食したり、旅行をしてお金を使ったからです。
本来なら、5類への移行はもう1年か半年早くても良かったと思います。しかし、岸田首相は『自分が責任を取るから早く5類にしよう』というリーダーシップが取れなかった。多くの国が行動制限を解除しているし、流行も収まってきているから、日本もそろそろ解除するかということでやったわけです」
では、岸田首相の取り組みで、一番評価できるものは?
「外交でしょうね。まず、日韓関係がめちゃくちゃ良くなりました。そしてウクライナ戦争で海外から『日本の支援が足りない』と叩かれたことはほとんどありません。
1991年の湾岸戦争のときに日本は支援額が少なく、追加支援を求められたことがありましたが、今回は1兆円を超える支援をしているからでしょう。だから、海外から『ダメな首相が辞めて良かった』という反応はありません」
外交以外に良かったのは?
「それが、あまりないんですよね(笑)。強いて言えば、原子力発電所の運転期間延長などを盛り込んだ原発推進方針の決定でしょうか。原発はないに越したことはないんです。
ただ、ウクライナ戦争のような世界的事件が起きて、石油や石炭などのエネルギー資源の供給が止まったときに、猛暑でめちゃくちゃ暑かったらどうするのか。再生エネルギーだけでは不十分です。
かといって石炭、石油などの化石燃料も使えない。そんなときに原発をある程度使えるようにしておいたほうがいい。原発の活用を少し前に進めたのは、評価してもいいのかもしれません」
逆に、これはダメだったというのは?
「政治とカネの問題です。自民党の安倍派や二階派などの政治資金パーティで、収入の一部を収支報告書に記載しないで裏金にしていた。この対応が間違っています。
岸田首相は、この問題で派閥を解消していますが、派閥が問題なのではありません。収支報告書に載せないで裏金として処理していたことが問題なんです。
改正政治資金規正法で、パーティ券の購入者の公開基準額を20万円超から5万円超に引き下げてもあまり意味がないでしょう。もっと裏に潜ってしまいます。だから、この改正は非常に間違っていたと思います」
ほかにはありますか?
「安全保障問題で、敵基地攻撃能力を保有するというのは、北朝鮮みたいな国があるので、仕方ないと思います。でも、2023年度からの5年間で43兆円という防衛予算の増大は問題なのではないでしょうか。そりゃ、アメリカは日本からお金をたくさん出させたいでしょう。
でも、日本政府は戦後ずっと『防衛予算はGDPの1%以内にします』と言ってきたわけです。それで『アメリカさん、申し訳ありません。1%以内じゃないと選挙に負けちゃうんです』と防衛予算の増額を拒否してきたわけです。その防衛政策上の制約を岸田首相は破った。これは野党も含めて、もっと議論するべきだったように思います。
マスコミにも責任があるんじゃないでしょうか。ひと昔前だったら、朝日新聞などは1面で『軍国主義の復活か!?』などと批判したはずです。
そして、防衛予算を増大するならば、憲法9条の改正の問題も出てきます。『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』と明記してあるんですから、憲法の改正も同時に行なわないと論理整合性がつきません」
ということは、岸田首相のこの3年間は、5段階評価だといくつになるのか?
「良くいえば3だし、悪くいえば2なので、間を取って2.5というところでしょうか」
■被爆地選出の首相がなぜ原発を推進する!?
もっと厳しい評価をするのはジャーナリストの横田一氏。
「5段階評価の通信簿ならオール1です。就任時に成長と分配を実現する『新しい資本主義』を掲げて、市場や競争に頼るアベノミクスから転換するような印象を与えたんですが、その期待を裏切りました。
岸田首相は40人程度の弱小派閥だったため、90人を超える最大派閥の長である安倍晋三元首相の言うことを無視できなかったんです。結局、安倍政治をそのまま引き継ぐしか道はなかった。
日経平均の株価が上がったと評価する人もいますが、お金持ちが株や不動産で儲けて、さらに投資するだけで、労働者の給料は増えていません。実質賃金は、この5月まで26ヵ月ずっとマイナスなんです。
18歳以下に10万円の給付をしたり、ひとり年間4万円の減税をしたりしていますが、あまりにも額がしょぼい。防衛予算を倍増するのだったら、子育て世代や若者への予算も倍増しろと言いたいです。
また、東日本大震災以降『脱原発を図るとともに核兵器根絶を目指す』ということがよく言われています。そして、それができるのが被爆地である広島選出の岸田首相だと期待されていたのですが、原発再稼働を推進して運転期間を延長するという真逆の方向に向かってしまった。すべての評価が最低です。
ただ、岸田首相は政権誕生後に1週間前倒しで解散・総選挙をして単独過半数を得る勝利をしたように〝機を見るに敏〟で勝負勘がいいんです。
今回も自分の傷が深くならない時期に不出馬の発表をして、新総理総裁への影響力を保とうとしています。
実はこの発表も、自民党若手の小林鷹之氏が総裁選に出馬表明をするという話を聞いて『小林氏が出馬表明すると、〈勝ち目がないから不出馬にした〉と思われないように、小林氏より先に不出馬表明した』という噂もあります。岸田首相のそうした計算高さは評価できるかもしれません」
週プレが独自にアンケートを行なった結果、岸田政権を評価すると答えたのは24.33%だった。また、5段階評価では「2」の「ダメだった」が一番多かった。さて、あなたは、どう評価する?