立憲民主党代表選に立候補した4人。左から野田佳彦元首相、枝野幸男前代表、泉健太現代表、吉田晴美衆院議員 立憲民主党代表選に立候補した4人。左から野田佳彦元首相、枝野幸男前代表、泉健太現代表、吉田晴美衆院議員

世間の注目は自民党総裁選に集まっているけど、野党第1党の立憲民主党もやっているんです、代表選! 候補者決定に至る党内のドタバタ&ドロドロの裏側を取材しつつ、4人の候補者の中に「結局、自民党」な空気を打ち破るようなポテンシャルがあるのは誰か、検証した!【どうなる自民党総裁選、どうなるニッポン】

■進次郎にはドジョウで対抗

「現代表の泉健太氏、そして女性で当選1回というフレッシュな吉田晴美衆院議員が立候補できてホッとしています。もし出馬が野田佳彦元首相、枝野幸男前代表のふたりだけなら目も当てられなかった」

立憲民主党の関係者がこう胸をなで下ろす。泉代表の推薦人に名を連ねる米山隆一衆院議員(新潟5区)も4候補がそろった意義をこう語る。

「保守層にもアプローチできる野田さん、リベラル層の支持が厚い枝野さん、その中間にいる泉代表、そして女性の視点を大切にする吉田さんと、多彩な候補が出馬したことで充実した論戦がされるはず。

政治資金の透明化、格差解消や中低所得層への支援策、選択的夫婦別姓実現といったジェンダー平等策など、自民党の総裁選では熟議されそうにない論点に注目してほしいです」

すでに各地で4候補による演説会が始まっているが、現状はどの候補に勢いがあるのか? 4候補によるネット討論番組で司会を務めたジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。

「議員票を集める野田さんがリードし、党員・サポーター票で根強い支持のある枝野さんが続いています。泉、吉田のふたりは推薦人集めが難航して出馬表明が遅れた分、やや出遅れているという印象です」

次の立憲代表にふさわしい人を問う直近の世論調査(9月6~8日、NHK調べ)では野田35%、枝野14%、泉9%、吉田6%と、野田元首相が頭ひとつ抜けている。

ただ、野田元首相は8月中旬頃まで、「自身を含め、昔の名前が出るという路線は良くない」と、自らの代表選出馬には慎重な姿勢だった。にもかかわらず、結局は代表選出馬に踏み切り、しかもレースの先頭をひた走っている。その理由を鈴木氏はこう分析する。

「今年11月初旬にも総選挙が予想されているように、今回の代表選は衆院選とセットになっていることが影響している。1位だけが当選する衆院選小選挙区では野党がバラバラでは自公には勝てず、まとまることが必要。その野党連携の顔として野田さんに期待が集まっているんです」

野党第2党の日本維新の会は、立憲との選挙協力には否定的とされている。しかし、「維新の中には『保守色の強い野田さんとなら、組める可能性がある』という声もある」(全国紙政治部記者)という。

そこで「目前に迫った衆院選で議席を死守したいという立憲議員の心理もあって、にわかに野田待望論が高まっている」(鈴木氏)というわけだ。

さらにこうした野田推しの動きを加速させたのが、自民党総裁選における"進次郎旋風"だ。小泉進次郎元環境相が自民総裁選に立候補し、今や最有力候補として注目を浴びている。前出の立憲関係者が言う。

「立憲内でもこうした自民党総裁選を巡る動きを横目に、進次郎氏のように40代の若い候補を擁立して対抗しようという動きはあったんですが、結局は実現しなかった。無理に若い候補を押し立てて対抗するのでなく、むしろ重厚で安心感のある野田元首相で進次郎氏の経験不足を突こう、というムードが党内に流れているんです」

野田元首相はかつて自らをドジョウにたとえたことから"ドジョウ首相"とも呼ばれた。野田元首相が代表レースで優勢な背景には、「自民が若い進次郎でくるなら、こちらは老練で経験豊かなドジョウで戦おう」という衆院選を意識した立憲内の駆け引きがあるのだ。

■自民党にも負けない権力闘争ぶり

党規則で立憲は代表選に出馬するための条件を「20人の推薦人」としているが、人員確保に苦労した候補もいるようだ。例えば、泉代表が20人を確保し、報道陣に出馬を明言できたのは告示日2日前の午後11時50分。吉田氏に至っては告示当日、それも立候補届け出締め切りのわずか30分前、書類を提出したのは5分前と超ギリギリだった。

そんな中で注目すべきは推薦人名簿だ。「なぜ、この人が?」と首をかしげる名前が目につく。

まずは泉代表。推薦人の主力は泉グループとされる「新政権研究会」(約25人)。ところが、よくよく調べると枝野氏を推す党内最大のリベラルグループ「サンクチュアリ」系議員の名が見える。この理由について、前出の立憲関係者が答える。

「本来なら、枝野支援に回るべき石橋通宏、鬼木誠、柴愼一(いずれも参院比例)といったサンクチュアリ系の議員が名を連ねている。取りまとめたのは逢坂誠二代表代行と聞いています。その意味するところはサンクチュアリが泉陣営に推薦人を貸し出したということ。

狙いは決選投票での見返り支援です。代表選では1回目の投票で1位候補が過半数に満たないとき、1位と2位による決選投票になる。現状は野田、枝野のふたりが決選投票に残る可能性が高く、そのときに貸し出しの見返りとして泉票を枝野候補に乗せてもらい、野田陣営に競り勝つ作戦なのでしょう」

吉田候補についても同様だ。推薦人名簿に花斉会(かせいかい/野田グループ約10人)の奥野総一郎(衆院千葉9区)、小西洋之(参院千葉選挙区)、谷田川元(衆院比例南関東ブロック)といった名前が見える。

「吉田さんが20人の推薦人集めに成功したのは江田憲司元代表代行が出馬を断念し、吉田議員と一本化したためというのが一般的な解釈です。でも、実際にはそれ以前に野田グループ、それも議員の署名を添えた出馬要請書を野田さんに手渡す役目を任されるほどの野田側近である奥野さんらが吉田さんの出馬を手助けしていたということです」

その狙いは3つあると、ある立憲議員秘書が言う。

「ひとつは女性候補の出馬を支援したことで、野田さんの株が上がる。ふたつ目はリベラル色の強い吉田さんが出馬すれば、ライバルの枝野さんのリベラル票を削れるという計算。そして3つ目が決選投票にもつれ込んだ際の吉田陣営からの支援への期待です。野田グループによる吉田陣営支援は一石三鳥の効果が見込めるのです」

■4候補の政策の温度差

野党第1党の党首は首相になる可能性を秘めている。政権交代が起きたとき、与党に代わって政権を担うことになるためだ。つまり、立憲の代表選候補の選挙公約は、政権交代後の新与党の公約になるかもしれない、ということ。

それだけに4候補の公約の違いにも注目したい。同じ党の政治家だけに大きな路線の違いはないが、それでもそれぞれの主張を精査するとその温度差に気づくはずだ。

まずは消費税。野田、枝野の両氏は消費税減税に慎重だが、吉田候補は5%の消費税率の引き下げ(3年間の時限付き)に加え、食料品非課税も主張している。また、泉代表も食料品に限っての税率引き下げはアリという立場だ。

野党共闘への姿勢も温度差がある。

「次の衆院選で野党が結束し、裏金問題を起こした自民議員への対抗馬として野党統一候補を立てることや政治資金の透明化などの基本政策では4候補とも一致するものの、それ以外では微妙にニュアンスが異なっている。

例えば、野田さんは野党勢力の最大化を目指すべきという立場ですが、枝野さんは全国一律でなく、地域の事情に応じて連携の可能性を探るという立場。泉さんは現状では維新、共産党との連携は難しく、国民民主党となら可能だが、あくまでも立憲単独での政権交代が基本というものです。

吉田さんは自民と一対一の構図をつくるため、あらゆる野党との連携が必要というもので、その物言いからは共産党との協力もいとわない意思を感じます」(前出・立憲関係者)

原発への対応もさまざまだ。党綱領に「原発ゼロ」を掲げているが、野田氏はデジタル需要の増大を理由に、状況によっては原発再稼働を認める考え。泉代表も原発が必要な現状を踏まえ、再稼働には前向きな姿勢を表明している。

これに対して、枝野氏は再稼働を一切認めないという立場には立たないものの、「原発ゼロ」の綱領は維持しつつ、原発に依存しない社会構築を急ぐとする。野田、泉両氏よりは原発へのまなざしは厳しいというべきか。

そして、それよりもさらに脱原発色の強いのが吉田候補だ。一日でも早く原発ゼロの日本を目指すと断言している。4候補の政策を前に、前出の鈴木氏が言う。

「各候補の政策チェックも大事ですが、自公にとって最も手ごわく、戦うのが嫌な野党第1党党首は誰かという視点から立憲代表選を見るのもいいかと思います。目前に迫った総選挙で与野党が政権交代をかけて激突することが予想されるわけですから。そう考えれば、自民総裁選に埋もれがちな立憲代表選も興味深くなるはずです」

その意味では現実路線+百戦錬磨な野田氏が期待値で一歩リード......といったところだろうか?

立憲代表は9月23日に開催される臨時党大会で選出される。