直井裕太なおい・ゆうた
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。
第102代内閣総理大臣に選出された石破 茂氏。彼が防衛大臣時代、週プレに熱きプラモデル愛を語ったインタビューを復刻掲載します。週刊プレイボーイ2007年10月29日号に掲載された「石破防衛大臣、60分間プラモを語る」を掲載当時の本文のまま配信!
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戦艦、戦車、戦闘機など、作ったプラモデルはなんと200体オーバー。そんなプラモと軍事に造詣が深い石破 茂防衛大臣を週プレが直撃。プラモを通して語る幼き日の思い出、軍事、洋上給油、世界平和...。初披露の秘話に敬礼ッ!
テロ特措法の期限切れ直前。そのキーバーソンとして耳目を集めるのが石破 茂防衛大臣だ。周囲から軍事オタクとまで呼ばれる大臣。だが、週プレはその原点にある〝プラモ愛〟に注目。いったい、どうしてプラモを愛し、軍事にのめり込み、そして国家を考えるようになったのか。稀代の戦略家が本気で語る、プラモと軍事の60分。
――週プレ読者の多くもプラモデルが大好きなのですが、まず大臣がプラモや軍事に輿味を持たれたキッカケを。
「小学校1~2年生の頃。ちょうど当時は戦記漫画が大プームで、『ゼロ戦レッド』『紫電改のタカ』『サプマリン707』などが連載されて、小松崎茂先生のイラストが各少年漫画誌に掲載されている時代でしたね。だから、私も含めた当時の子供たちは、みんな大和やゼロ戦に憧れてました。まだ戦争が終わって20年も経たない頃でしたけど、不思厳な時代でしたね」
――そこで戦記物の洗礼をモロに受けた石破少年はプラモ・デビュー!!
「でもね、その頃はまだソリッドモデル(木製の模型)が全盛で、ちょうどプラモデルがちらほら発売され始めた時期。まだまだ値段も高かったですね。なかでも一番の憧れだったモデルは、68年に日本模型が発売した『1/200スケール戦艦大和』です」
――おお、大臣。いきなり大物狙い!
「これは7500円でした。当時、小6の私は、もう『どうやって小遣いを貯めるか?』を目的に生きてましたね(笑)。そしたら親が『中学に内部進学の際、1番で入ったら買ってやる』と言うんです。当時は鳥取大付属小に通ってて、そりゃ勉強したよ!」
――やりましたね。当然、1位通過で「戦艦大和ゲットだゼ!」ですよね。
「......4位でした(笑)。でも、あまりにも悔しくって『家出してやるっ!』と言ったら、さすがに親もあきらめて買ってくれたんです(笑)」
――とんだワガママ息子ですなっ! で、さっそく憧れの大和を制作した?
「いや、すぐには作りませんよ。箱開けてパーツを眺めているだけで、1ヵ月は楽しめますから(笑)」
――でも、大和の後期型などは対空機銃が162門もあって、パーツを外すだけでもメンドくさいですよねえ?
「全然!(キッパリ)。あの短い対空機銃は実戦ではほとんど役に立たなかったといわれてますが、細かい造形を再現するのもプラモデルの楽しみなんですよ! でも、全長130cm以上ある大きな模型ですから、塗装して完成させるまでに3ヵ月はかかりましたね」
――作った後は、艦首にデッカイ穴が開いて『宇宙戦艦ヤマト』になるぐらいジックリ鑑賞ですか?
「もちろん鑑賞もしますが、今度は『海で走らせたい!』と野心が生まれて。当時から水中モーターはありましたが、あれは不恰好ですから。キットのスクリューを活かしつつモーターを動力にして走行できるようにして、夏休みにそれを烏取の海に浮べましたよ」
――うわ~~っ! それって『男たちの大和』を超える感動ストーリーですよ。もちろん、その制作総指揮を務めた石破少年は女子にモテモテっスね。
「そりゃ......モテねえだろ(笑)」
――し...失礼いたしました! ところで、プラモといったら〝改造〟という大テーマがありますが、よく架空戦記みられるような『戦艦大和近代化改修』なんて改造はしなかったんですか。例えば、大和にイージスシステム載せちゃうような魔改造なんかは...⁉
「それはしないよ! イージスは船としてキレイじゃないんですよ(笑)。でも、大和の主砲の射程は40km。もしロサンゼルスまで大和が出てって、主砲をブッ放せば効果はあったのでは?とか空想したりはしましたね。戻ってはこれなかったと思いますけど」
――プラモだけでなく、実在の戦艦大和にも深い思い入れがあるのですね。
「大和型は戦後日本の造船技術だけでなく建築技術の近代化にも貢献したエポックメイキングな戦艦。大和も武蔵も当時、世界最高の船で日本の象徴でしたが、2隻とも儚い最後を迎えました。そのあたりが日本人の心に訴えて、いまだに人気なんでしょうね。でも、機能的なものは美しいし、感動します」
――その後はどんなモデルの制作を?
「護衛艦『あまつかぜ』『やまぐも』『あさぐも』『たかつき』...。戦車や戦闘機を含めて200体以上は作ってます。特に『たかつき』は大好きですね(前ページの写真の艦船)。マストと煙突が一体化したMAC構造を採用したデザインがいい。これで一番美しい仕上がりなのは手すり。素人の私でもパーツを伸ばして加工しますが、これはとてもできがいいですよ。やはり戦艦が一番好きですね」
――ど~して、そんなに戦艦フェチになっちゃったんでしょうか?
「小6の時に体験航海というのがあって境港から護衛艦に乗ったんですが、これが当時最先端の近代的な船で感激しましたね。それが原体験にあるから、やたら海自好きになったのかな。だから、大臣になった今も気をつけてバランスよく陸・空も見るようにしていますけど、どうしても海にウエイトが偏りがちなんですよ(笑)」
――ところで、プラモを通して兵器を理解するってことはありえますか?
「あるよ。例えば、90式戦車(※1990年に採用された陸自の主力戦車。実戦経験はないが、米国の軍事専門誌での世界戦車ランキングで3位獲得の実力車)のプラモデルを作ることで、一般の人は『こんな狭いところに3人も乗るのか』と驚くことがあると思います。それもプラモの効用のひとつです。しかし同時に、私は『なぜ3人乗りなんだ⁉』と考えるのですね。日本の戦車は人員不足で弾の装援を自動化した結果、3人乗りに。でも、世界の戦車はほとんどが4人乗りなのです」
――自動装填だし、3人で十分なんじゃないですか?
「いや、4人乗りなら2名戦死しても戦える。ところが3人乗りだと、2名ダウンしたら残り1名では戦えないんですね。プラモを通して、そういうことを考えられるんです。
ちなみに、私はどこの国へ行ってもなるべく多く戦車や戦闘機に乗ることを心がけています。もちろん自衛隊のF15やF2戦闘機にも乗りました。なぜなら、戦車や戦闘機に乗ることで、その国の軍事的な思想や開発理念がよくわかるからです。人間と違って、兵器はウソをつかないんです。そして防衛大臣としては、戦車に乗って『スゴイ!』『なにコレ?』と驚いてるだけではマズイんです。軍事を統制する者は兵器を理解していなければならないと確信しています」
――なるほど! プラモデル作りが国防にもシッカリ役立ってるんですね!!
「防衛の仕事に就いて、思わぬところでプラモデルで培った知識が生きていると感じます。作品を作るために『タミヤニュース』や『丸』など専門誌をいっぱい読み込みましたからね。プラモデルを作ることで、その兵器のイメージができて、運用方法を理解することができるんです」
――ひょっとして、そのほかにもプラモが大活躍のケースがあったりして?
「以前、防衛庁長官時代のこと。ロシアの国防大臣が来日することになって、当時の長官室に来られるという時に、長官室に展示されていたプラモデルが問題になったのです」
――ま、まさか。日本海海戦のジオラマとか⁉ 『皇国の荒廃、このプラモにあり』な大事件で国際問題に発展⁉
「いえいえ。でも、当時は海自や米軍の艦船ばかり飾ってあったわけで、さすがにロシアの国防大臣の前でこれはマズイだろうと(笑)。で、ロシアの戦艦のプラモを展示しようと思ったんだけど、日本にはまったくない。その時、訪ロの際にモスクワ日本大使館の駐在武官にもらったプラモがあったということで、いくつかの中からやっぱり空母だよねと、『アドミラル・クズネツォフ』を選びました」
――す、すごい。『亡国のイージス』の仙石先任伍長(※『亡国のイージス』(福井晴敏著)の主人公。テロリストに占拠されたイージス艦を救った海自のヒーロー)に匹敵する大活躍で日本のピンチを救いましたね。
「いや、ここからがさらに大変で。たった2日しかないのに何色に塗っていいのかもわからない。でも、必死で専門誌をめくってカラーリングを見つけて、2日徹夜してなんとか完成させた。これにはロシアの国防大臣も喜んでくれた。『日本の防衛責任者に会いに行ったら楽しかった』と思ってもらえるだけでうれしいですよね。プラモは接待の小道具にもなるんですよ(笑)」
――さて、話は変わります。ここで週プレが大臣に物申す! 今モメてるテロ特措法って、オレらにはイマイチわかりづらかったりするんですが...。インド洋で『軽油満タン入りま~す!』ってやってるアレはなんなんですか?
「そんな、ガソリンスタンドみたいに簡単な話じゃないんですよ。まず、艦隊を持った国のなかで、遠洋での給油任務をパーフェクトに行える国はアメリカ、イギリス、日本ぐらいしかありません。テレビや新聞の報道では、船同士がパイプをつなげている場面しか出てきませんが、何十kmも移動しながら給油を行なうのは本当に過酷な任務なんです。しかも、船舶は補給中が一番弱く、敵に狙われやすい。そこへなにか飛んできたらアウト。補給を行なう技術がどれほど大変なことで、気象環境がどれほど劣悪なことか。
今はなによりもそれを務める海自がどれだけ優秀かということを日本の国民のみなさんにご理解いただけるよう努力しなければいけないと考えています」
――そこで、大臣! 週プレから提案が。用意したコチラの動画をちょっと見てくださいっ!
(記者が大臣の前にパソコンをセット。映画『パイレーツ・オプ・カリピアン』のテーマに乗って陸海空の自衛隊兵器が登場する、まるで大作映画のような大迫力のプロモ映像が流れる。大臣はそれを見ながら沈黙...。)
――こちらはインターネットの動画共有サイトにある『日本国 自衛隊』という有名な映像で、世界的に人気なんです。制作者は一般の方で......大臣。ちょっと大臣、寝ちゃったんですか⁉
「......。心底、感動ですっ! ハッキリ言って、私の100万回の言葉よりこの映像のほうがわかりやすいね!」
――そこで、例えば、このような動画の『洋上給油バージョン』を作って国民にアビールしては、とご提案を...。
「よし! 早急にこれの洋上補給版を検討しよう」(と、大臣の横にいた広報担当者に命令を下す大臣)
――おお、やってくれますか! 著作権フリーの動画を防衛省のHPにアップして開放すれば『自衛隊動画コンテスト』などもできて盛り上がるのでは? あと、大臣主催のプラモデルコンテストなどにも期待してます!
「動画のコンテストはやりたいね。ただし、プラモデルはちょっとね...。私がやると『また石破の趣味か!』って叩かれちゃうし(笑)。でも、一般の人たちの『もっと自衛隊のことを知りたい』っていうニーズには応えていきたいし、それをすれば国民の認識も変わってくると思う。野党もこんな問題を〝政局〟にしちゃいけないよね」
――では、大臣として、自衛隊の広報活動を盛り上げようというプランは?
「自衛隊を舞台にしたドラマなどがあったら積極的に協力したい。『海猿』では海保の活躍をカッコよく描いていましたが、自衛隊のコメディだっていいんです。そうだ、自衛隊ドラマの脚本募集をやったりも」
――ところで、大臣は週プレを読んでらっしゃったりしたんですか?
「高校生の時、週プレ読んでまして、それがひとつの楽しみでしたもん。今でも当時と変わらないコンセプトで若い人に読まれているのはうれしいよね。でも、『これを読めば大臣になれる!』とまでは言いませんよ(笑)」
――そこで最後にお願いを。週プレのアイドルグラビアをぜひ自衛隊の施設や車両を使って撮影させてください!
「ちなみに、当時の私のアイドルは栗田ひろみさん(70年代に週プレでも活躍した清純グラビアアイドル)だよ」
――それはちょっと...。できれば現役のアイドルでお願いしたいのですが!!
「じゃあ、眞鍋かをりさん! 広報がNGでも私はオッケーです!」
――了解いたしました。その作戦を実現できるよう最善を尽くします!
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長時間にわたり、時に頬を紅潮させて熱くブラモを語った石破大臣。この情熱で、国会論戦でも野党や国民をナットクさせることができるのか⁉
ライター。尊敬する文化人は杉作J太郎。目標とするファウンダーは近藤社長。LINEより微信。生活費の支払いは人民元という国境を越えるヒモおじさん。ガチ中華はブームじゃなくって、主食です。