石破新首相が誕生した。外交にどのように取り組み、安倍派を主とした自民党の裏金問題とどう戦っていけるのか?(写真:時事) 石破新首相が誕生した。外交にどのように取り組み、安倍派を主とした自民党の裏金問題とどう戦っていけるのか?(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――9月23日、露軍の哨戒機IL38が、北海道礼文島付近の日本国領空を3度に渡り侵犯。スクランブル発進した空自の戦闘機は、対領空侵犯措置が始まって以来、初めてフレア発射による警告を行ないました。

フレアは本来、エンジンなどの熱源をロックオンして発射されたヒートミサイル(赤外線誘導ミサイル)に対して、熱源を放出することで攻撃を避けるもの。ただし、対領空侵犯としては、無線警告、翼を振るなどの手段でも領空侵犯を止めない場合、フレアを発射します。その次の手段は「信号射撃」といって、20mm機関砲による威嚇射撃となっています。

佐藤 軍事専門家の一部からは、「米潜水艦がいたため、それを追跡していたのでは」という見方が出ているようですね。

――はい、そうなんです。空自戦闘機が撮影した露軍哨戒機の写真を見ると、低空を飛んでいる対潜哨戒機で、腹部のウェポンベイ(爆弾倉)が開いています。さらに空域の真下は、宗谷海峡の入り口付近。御存知のように、オホーツク海は露海軍ICBM核ミサイル搭載原潜の聖域です。

佐藤 そういう見方もありますが、領空侵犯は常に戦争になる行為です。だから、注意して領空侵犯をしないように監視するはずです。しかし、この段階で領空侵犯もやむを得なしとしたということは、大きな判断があると思います。

――それよりも大きな判断とは?

佐藤 政治的な意図です。まず、現在の日露関係は悪化しています。それから、日本の内政も混乱しています。そして、岸田文雄総理大臣はちょうど米国に行っていました。

――はい。

佐藤 そういう時に日本の防衛体制に何か隙や穴があるのかどうか、この潜水艦のグチャグチャにあわせて見ようとしたのだと思います。

――すると、日本の空自がフレアで対応したというのは正しかったのですか?

佐藤 正しいです。

――「これはやべぇ」と、ロシアは思ったわけですね?

佐藤 そういうことですね。ちゃんと機動できて、フレアで対応しています。これは銃撃の一歩手前ですよね?

――そうです。次は信号射撃です。過去に一度だけ、沖縄の領空を侵犯したソ連爆撃機に向けて、F4ファントムから撃っています。

佐藤 すると、かなりきついことになるから日本が怯(ひる)む、とロシアは思っていたはずです。しかし、空自はマニュアル通りに警告しました。だから、「軽く見ることはできない」、そうロシアは判断したと思います。

――いずれにしても、宗谷海峡の海中に何かいたということなんですね。

佐藤 それは間違いないと思います。常識的に考えて、米国の潜水艦です。米国潜水艦が、ここでロシア海軍の原潜を覗いているのは普通の話ですよね。

――はい。2022年の報道によると、露海軍によって米海軍原潜が探知され、「適切な措置」で退去させたとあります。オホーツク海では昔から、米露原潜のせめぎ合いが続いています。今回も何かいたのだろうと。

佐藤 何かはいたのでしょうが、確実には掴めていないということですね。

――しかし、この日本の対応は素晴らしいことなんですか?

佐藤 ごくごく普通の対応ですよね。

――普通なんですね。

佐藤 そういうことです。ただし、外交的には不十分なところがありました。

――フレアの後ですか?

佐藤 はい。やはり、リエゾン(窓口)をちゃんと置くことです。軍事リエゾン、つまり、日本の防衛省在官と在京ロシア大使館の武官の間で話ができないとなりません。偶発的なものなのか、意図的なものであったのか、などの話し合いが必要です。

――モスクワでそれが行なわれるのか......。

佐藤 あるいは東京ですね。

――東京......。

佐藤 モスクワ、東京のどちらでもいいです。本当はそれが必要です。偶発的な事故なのか意図的なものなのかをちゃんと瞬時に分けないとなりません。

――それをやらないと、偶発戦争になる。

佐藤 そうです。

――そこまでしていれば、一人前の国家ですか?

佐藤 そうですね。

――今回、この事件が起きた際に訪米していた岸田首相は退陣。自民党総裁選挙の結果、石破茂新首相となりました。

佐藤 小泉(進次郎)さんなら自民党は従来の路線を維持しました。石破新首相となれば、裏金議員に相対します。

――それは、安倍派の裏資金問題ですね。

佐藤 そうです。ただし、安倍派だけではなく自民党全体です。

――記者会見で、「安倍派の議員の選挙での公認はどうするのか?」の問いに、石破新首相は明確に答えませんでした。

佐藤 10月6日に石破首相は、裏金議員に対して一部非公認、残りは比例重複を認めないという厳しい姿勢を示しました。それから、石破さんは選挙期間中に「日米の地位協定の改定に着手する」と言っていましたよね?

――言ってました。

佐藤 日本にある在日米軍基地に関して、鳩山(由紀夫)さんがその昔、普天間基地を「少なくとも県外移設」と発言して大変なことになったでしょ。あれと同じになるかもしれません。ああいうのは、閉ざされた扉の中で米国と十分に協議した上でやらないとね。

――公の場での発言はヤバいと。

佐藤 米国という相手があることだから、展望があればいいんですが、一方的な発言であれば問題です。

――なるほど。

佐藤 裏金問題をきちんとやると言っています。石破さんは裏金で傷つきません。逆に、他の政治家たちはどんどんと傷つくわけですから、それで自分の権力基盤を強化できます。だから選挙で厳しい姿勢をとったのです。

――それって、自民党崩壊になるんじゃないですか?

佐藤 それはわかりません。

――進次郎候補の父、小泉純一郎元首相は「自民党をぶっ壊す」と言って首相になりました。今度は本当に石破新首相が壊すのですね。

佐藤 その可能性はあります。それから、色んなディベートを続ける中で、「野田(佳彦)だったら、大丈夫ではないか」と言う声が出て来る可能性があります。そうなると、政権交代の準備をすることになるかもしれません。

――自民党は崩壊し、政権交代となる。

佐藤 その可能性も排除されません。すべては10月27日の総選挙の結果次第です。

次回へ続く。次回の配信は2024年10月18日(金)予定です。

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佐藤優

佐藤優さとう・まさる

作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

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小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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