新政権発足後、即解散・総選挙に踏み切った石破茂新首相。各地で慌ただしく戦いへの準備が進む中、15日に公示日を迎えた。裏金問題が尾を引く与党・自民党、野田新代表で巻き返しを図りたい野党・立憲民主党。候補者たちは目がギラギラ。現場は熱気ムンムンだ。衆議院議員選挙2024、その注目選挙区の人間模様をナマ取材した!【衆院選"人間激場"注目選挙区全力ルポ 愛知1区】
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「総理を狙う男、アゲイ~ン」と、前名古屋市長の河村たかし氏(75歳)が出馬表明したことで注目区となった愛知1区。自民・熊田裕通(ひろみち)氏(60歳)と立憲・吉田統彦(つねひこ)氏(49歳)の現職2人に、維新の新人・山本耕一氏(47歳)を加えた4候補で議席を争う。
2012年以降は自民・熊田氏が4期連続でトップ当選するも、前回選挙(21年)は吉田氏と惜敗率97%の大接戦となった。今回はそこに河村氏が参戦する三つどもえの構図だが、現状は「高い知名度を誇る河村氏が一歩リード、総務副大臣まで務めた実績を持つ熊田氏が2番手で追走している」(地元紙記者)との見方が強い。
熊田陣営は、強い危機感を持って公示日を迎えた。
「河村さんとは争いたくなかった」とこぼすのは、熊田氏の後援会関係者だ。
「愛知1区では熊田さんの地元の(名古屋市)西区でさえ河村ファンが多い。市長報酬削減や、市民税5%減税といった市長時代の実績は、『河村さんにしかできん』と好意的に受け止められています。特に高齢層では、金メダルをかじった程度では揺るがない、根強い人気がある」
ただ、強敵・河村氏を前に、熊田氏本人は「相手にとって不足なし。必ず河村さんを倒してみせます!」と前向きだ。
JR名古屋駅東口に行くと、河村氏がいた。彼が歩くと、その後ろを30人ほどの取材陣がゾロゾロとついていく。大勢の聴衆が集まる中、河村氏は駅前の歩道で演説を始めたが......。
「やってまいりま(ガガッ)日本で一番給料が安い前名古屋シチョ(ガガガー)河む(バリバリ、ピー)です!」
公示後初の街宣で、あってはならない音響トラブル。選挙スタッフや聴衆に緊張感が走ったそのとき、河村氏は「なんだぎゃ!? 雑音だらけだがや!! 今の世の中みたいに。なぁ?」と笑って聴衆に語りかけ、その場を和ませる。"河村節"絶好調である。
国政で何をやりたいのか? 記者の質問にはこう答える。
「俺は庶民派なんていわれちょーけどよ、庶民派じゃなく庶民そのものだがよ。従業員4人くりゃーの紙くず屋の息子だもんで。でもこの世界はボンボンばっか。地方議員は年収2000万円ぐらいあるでね。
政治が家業化しちょーから、いつまでたっても裏金がなくならん。国政に行ったら、まず地方議員の給与を市民並みに減らしたい。地方自治法を変えりゃあすぐだがね」
御年75歳、「もう後期高齢者だぎゃ」と自嘲気味に笑う河村氏は、公示日の第一声の後、大勢の聴衆に見送られ、恒例の"ママチャリ街宣"に出発した。
ヨロヨロと走るその後ろを小走りで追うと、100m先で左折、30m先でまた左折......小回りで事務所に戻ろうとしていることはすぐに察した。その後、上り坂の手前で河村氏は自転車を降り、街宣車で並走していた選挙スタッフにバトンタッチ。街宣車で事務所へ戻り、プリウスに乗り換え、次の街宣会場へと向かった。
その姿に、地元の支持者は「かつては1日50㎞を走ったものですが......」と苦笑する。河村氏にとって、長い選挙戦は"老い"との戦いにもなりそうだ。