七尾市内にある能登生国玉比古神社で行なわれた近藤氏の出陣式の様子 七尾市内にある能登生国玉比古神社で行なわれた近藤氏の出陣式の様子
新政権発足後、即解散・総選挙に踏み切った石破茂新首相。各地で慌ただしく戦いへの準備が進む中、15日に公示日を迎えた。裏金問題が尾を引く与党・自民党、野田新代表で巻き返しを図りたい野党・立憲民主党。候補者たちは目がギラギラ。現場は熱気ムンムンだ。衆議院議員選挙2024、その注目選挙区の人間模様をナマ取材した!【衆院選"人間激場"注目選挙区全力ルポ 石川3区】

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元日の大震災、先月の大豪雨と2度の大規模災害に見舞われた奥能登2市2町(輪島市・珠洲市・穴水町・能登町)を含む石川3区は自民・西田昭二氏(55歳)と立憲・近藤和也氏(50歳)との事実上の一騎打ち。

前回は約3900票(2.4%)の僅差で西田氏に軍配が上がったが、奥能登では約5700票をリードしていた(近藤氏は比例で当選)。

奥能登は自民党にとっての票田であり、選挙戦の命運を握る地域だ。

ところが公示日の前日、輪島市で有権者に話を聞いて回ると、自民党支持の声は明らかに大きくない。水害で収穫米の大半が失われた女性は冷淡な口調でこう言う。

「復旧もまだ進んでいないのに、選挙なんかやってられるかって思います。石破さんは被災地に視察とか来ているけど、そもそも奥能登の状況を考えているのなら、こんな慌てて総選挙なんかしなかったはず」

輪島市でポスターを張る選挙陣営の関係者たち。右奥には地震の影響で横倒しになった五島屋ビルが見える 輪島市でポスターを張る選挙陣営の関係者たち。右奥には地震の影響で横倒しになった五島屋ビルが見える
震災で転居を2度経験した、ある小売店の店長は「投票券、ちゃんと届くんかな?」と選挙のタイミングに苦言を呈した後、声をひそめてこう語った。

「自民党には申し訳ないけど、近藤さんに入れます。行動力あるし、知りたい情報をSNSで発信してくださるし。輪島はずっと自民(の勝利)がカンカン(堅い)だった地域ですけど、今回は違うと思いますよ」

一方で、長期休業中の飲食店経営者の男性はこうため息をつく。

「選挙自体はいつかやらなくちゃいけないし、復旧を待っていたらいつになるかわからないので仕方ないなとは思います」

輪島市では立憲・近藤氏への支持が広がっている印象があるが......。

「私らのような年配の層はどうしても、人より党で選びがちなので、やはり自民党支持が多いと思いますよ」

ほか、「国政とのパイプが太い西田先生と、地域密着の近藤先生」という対比は聞かれたものの、奥能登では全体的に西田氏の存在感が薄く感じられた。


そして迎えた公示日の15日。両候補の街宣は七尾市内から始まった。市内の能登生国玉比古(いくくにたまひこ)神社で行なわれた近藤氏の出陣式には30人ほどの支援者が集まった。近藤氏は上下とも青の防災服でおはらいを終えた後、第一声のマイクを握る。

「本来なら被災者の皆さまに寄り添っていなければならない時間を、選挙に勝つためにマイクを持たざるをえない自分が情けない。選挙なんかやってる場合か!と。これは能登の総意だと思います。

でも選挙だから勝たなくてはなりません。石川3区だけの戦いではありません。日本全国の皆さまに、能登をいま一度助けてください!と主張していく選挙だと思っています」

今回、この選挙区での取材で自民・西田氏の取材をすることはかなわなかった。

現場で話を聞くにつれ、自民党にとって奥能登は、もはや票田としての確かさは失われつつあると実感する。勝敗の行方に注目だ。

前川仁之

前川仁之まえかわ・さねゆき

1982年生まれ、埼玉県立浦和高校卒業、東京大学理科一類中退。人形劇団、施設警備などを経て、立教大学異文化コミュニケーション学部に入学。在学中の2009年、スペインに留学。翌年夏、スペイン横断自転車旅行。大学卒業後、福島県郡山市で働いていたときに書いた作品が第12回開高健ノンフィクション賞の最終候補に。近著は『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』(インターナショナル新書)

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