川喜田 研かわきた・けん
ジャーナリスト/ライター。1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。自動車レース専門誌の編集者を経て、モータースポーツ・ジャーナリストとして活動の後、2012年からフリーの雑誌記者に転身。雑誌『週刊プレイボーイ』などを中心に国際政治、社会、経済、サイエンスから医療まで、幅広いテーマで取材・執筆活動を続け、新書の企画・構成なども手掛ける。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。
今年7月に大統領選から撤退し、民主党候補の座を副大統領のカマラ・ハリスに譲って以来、すっかり影が薄くなったバイデン大統領だが、来年1月20日に予定される新大統領就任式までは彼がアメリカ合衆国大統領であり続ける。
残り2ヵ月半という限られた任期で何をするのか? 政権末期のバイデンに期待できることはあるのだろうか?
「『大統領選後のバイデン政権は、もはやレームダック(死に体)だ』と簡単に切り捨てる人は少なくありません。しかし、私は大統領選という"政治的な足枷"が外れる残りの任期が大変重要だと考えています」
そう語るのはアメリカ大統領選に詳しい明治大学政治経済学部の海野素央教授だ。「足枷」とはどういうことか?
「最も注目したいのが、混迷を極める中東情勢へのバイデン政権の対応です。民主党のハリス陣営もユダヤ系の票を逃すわけにはいかないため、バイデン政権も選挙期間中はイスラエルに対して強硬な姿勢は取りにくい。
これが選挙の足枷で、当然、イスラエルのネタニヤフ首相はそうしたバイデン政権の弱みを見越して、ガザだけでなく、レバノンやイランにまで戦線を拡大しているわけです。
しかし、11月5日の投票日が過ぎれば、そうした足枷が外れますから、バイデン政権はこの地域の停戦を実現しようと、イスラエルに対して従来よりも強い態度で臨めるようになる。
バイデン自身としても、自分の政権中に停戦を実現し、この地域の平和への道筋をつけたというレガシーを歴史に刻みたいと思っているはずですから」
そのため、大統領選の前から彼は残りの任期で停戦に動くつもりだったはずだという。
「彼からすれば、新政権が民主党なら、その新たな船出に向けた大きな置き土産になる。
そして、それが共和党だったとしても、むしろ共和党だったらなおさら、停戦を実現することは重要な意味を持つことをわかっているでしょう」
というと?
「ご存じのように、トランプはあからさまにイスラエル寄りの姿勢を見せ続けていて、ネタニヤフとも非常に近い関係にあります。
そのため、彼が大統領選で勝利すれば、ネタニヤフ政権はバイデン政権の停戦に向けた圧力を適当に受け流しつつ、来年1月の新政権誕生を待とうとする可能性が高い。それなら自分の任期で停戦に尽力すべきだと考えているはずです。
そして、そんなバイデン政権には、まだ有効なオプションが残されています。
例えば、アメリカがこれまで躊躇して踏み込まなかったイスラエルへの武器供給停止や、兵器の種類に制限をかけるなどの強い圧力を行使できれば、イスラエルも無視することができず、なんらかの形で停戦の実現につながる可能性はある」
また、ウクライナ情勢に関しても、バイデン大統領は引き続きウクライナに対する厚い支援を続けるだろうという。
「それは、ロシアによる侵攻が始まって以来、バイデンが一貫して『この戦争は権威主義的なロシアからウクライナの民主主義を守る戦いだ』と言い続けているからで、おそらく任期の最後まで、"民主主義の守護者"としての大統領職を全うしたいと思っているのではないでしょうか」
そして、もうひとつ、実はバイデン政権の残り任期に厄介な大仕事が残っている可能性がある。それは、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件のように、大統領選の結果に納得できない人たちが暴力などの実力行使に出る可能性も否定できないからだ。
「今回の選挙結果を受けて、4年前と同じような混乱が起きる可能性も十分にあります。そのような事態に陥ったとき、"民主主義の守護者"を自任するバイデン大統領がどう対処するのか? というのも、バイデン政権に残された最後の大仕事になるかもしれません」
史上最高齢の大統領のラストラン。最後まで頑張って、バイデンさん!
ジャーナリスト/ライター。1965年生まれ、神奈川県横浜市出身。自動車レース専門誌の編集者を経て、モータースポーツ・ジャーナリストとして活動の後、2012年からフリーの雑誌記者に転身。雑誌『週刊プレイボーイ』などを中心に国際政治、社会、経済、サイエンスから医療まで、幅広いテーマで取材・執筆活動を続け、新書の企画・構成なども手掛ける。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。