日本の未来の命運を握るふたり、野田立憲民主党代表と石破茂首相。安部元首相に「絶対に首相にしてはいけない」と言われた石破首相。そして、民主党政権を瓦解させた野田元首相。因縁の対決になるか、刎頚(ふんけい)の友となるのか......(写真:時事) 日本の未来の命運を握るふたり、野田立憲民主党代表と石破茂首相。安部元首相に「絶対に首相にしてはいけない」と言われた石破首相。そして、民主党政権を瓦解させた野田元首相。因縁の対決になるか、刎頚(ふんけい)の友となるのか......(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――衆議院選挙で与党自公は215議席で過半数割れ、立憲民主は148議席と大躍進でありました。石破茂首相の路線は正しかったのでしょう?

佐藤 石破さんの路線は基本的に間違っていません。要するに、自民党はいままで長く権力に就きすぎていたため、相当腐った部分がありました。そして、それをどこかで処理しないといけませんでした。

考えてみましょう。もし、裏金議員に手を付けずに、岸田政権のまま選挙を行なっていたら、もっと負けていたと思いますよ。

――そりゃそうです。

佐藤 そして、石破さんが裏金問題に手を付けていなかったら、やはりもっと負けていました。

――100議席を切っていたかもしれない?

佐藤 その可能性は十二分にあったと思います。石破さんの基本路線は正しかったんですが、問題は選挙中にあった「しんぶん赤旗」報道(10月23日)ですよ。

――非公認の衆院選候補の党支部に2000万円支出していた問題でありますね。

佐藤 そうです。それが決定打でした。もしその報道がなければ、過半数に達していたでしょう。

――共産党にやられてしまった?

佐藤 そうです。だから、石破さんの基本路線は二重の意味で正しくて、戦術的にも正しいんです。

――なるほど。

佐藤 日本国家全体を見た場合、戦略的には自民党内の変な人たちを淘汰しないとなりません。なので、それを実現すると言っていた立民の野田(佳彦)さんの路線も正しいわけです。今回、共産党が213ヵ所から候補者を立てたのは"立憲潰し"ですよね?

――そうです。

佐藤 共産党は10月23日に2000万円報道を爆発させましたが、この爆弾は共産党に裨益しませんでした。共産党は議席数を10から7に減らしています。だから、今回もっとも敗北したのは共産党ですよ。200カ所以上で候補を立てたから、供託金の数億円は没収されます。

あの2000万円問題の情報は、自民党の中にスパイを送っていないと取れない情報です。アドバイザーという形でスパイを入れているから得られたわけです。

共産党は総力戦を仕掛け、自民から流れた票が共産党に来るかと思ったら、来ないで票を減らしてしまった。結局、その分はれいわ新撰組と立民に流れたという結果でした。

――ですね。

佐藤 重要なのは基本的戦略であって、「石破戦略」は間違っていないと僕は考えています。2000万円報道は、不可抗力です。

しかし、永田町の常識と国民の常識は違うということです。選挙において2000万円なんて、これは必要なガソリン代です。立民にとってもそうです。ただ、国民にそれは通用しません。

――永田町の近くのホテルで牛丼とかき氷を注文すれば1万円が飛ぶ。そういう世界にいる方々ですからね。

佐藤 そうです。そこで、一杯数千円する牛丼の世界と一緒です。そういうことですよ。

――それでこの先、日本政界はどうなっていくのでしょうか?

佐藤 政局の流れはどうなるか、分かりません。しかし、自民党としては裏金の無所属を狩り込むでしょう。

それから、3人いる参政党とは統一会派を組めばいいと思います。3人だけでは院内会派になりませんから。統一会派に入ることで参政党に政党助成金が入ってきます。それで釣れるでしょう。

そして、日本保守党は面倒でうるさいので入れません。閣外協力で国民民主党を取れるかどうか探求するはずです。そうでなければ、少数与党で走っていくと思います。

――どう走るのですか?

佐藤 橋本徹氏が『政権変容論』(講談社+α新書)という書籍を出しています。

そこで『自公が過半数割れして、あえて政権を獲らない。個々の法律、予算などを通じて、政策で影響を与えて政権を変容させる。その後、権力を取る』ということを言っています。

そういう感じになってくるんじゃないかと思います。

――TV番組でも発言していましたが、自民党が割れて、石破首相と近い野田代表の立憲民主党と、新・政党自由立憲党を作って野田政権にしちゃうんですか? 自民党が割れてしまうのですか?

佐藤 自民党はそのままですが、実態は自民党が割れるということです。しかし、高市(早苗)さんにしてもそこまでの胆力はありません。党が終われば、金がなくなりますからね。

――高市さんでは金を引っ張ってこれない。すると、仮に野田政権となると、昔の民主党政権みたいになるのですか?

佐藤 もし、自民立憲党として野田政権になった場合、継続性を重視した安全運転になるでしょうね。そして石破政権はほとんどないに等しいので、岸田政権の路線を踏襲すると思います。

――何だか難しそうな......。

佐藤 安倍派の影響力を継いだ岸田政権でしたが、その安倍派の影響力はすでに削げてしまいました。

――安倍派はほとんど全滅状態であります。

佐藤 そういう状態ですよね。

――すると、野田政権になっても日米同盟は存続するんですか?

佐藤 そこは変わりません。いま日本ができる内政、外政上の閾値が非常に狭い状況です。だから、誰が首相になっても大きく変わりません。

それは投票率が低い理由と一緒です。国民はそれが分かっているから、どうなってももう変ることはないと思っています。

――いまの日本が分かってきました。

佐藤 それは裏返せば、日本の政治が相対的に安定しているということなのです。

――今回の選挙は激変ではなかったのですか?

佐藤 いえ、「お灸をすえる」感じですかね。

――で、少数与党の自公政権は変容するのでありますか?

佐藤 まず、政治文化を変えないといけません。ひとつひとつの事を丁寧に、野党と立民、特に国民と合意を得ることが大事になってきます。そして、国民のコンセンサスに近い所で、政策を作っていく、と言うやり方に変える必要があります。

安倍さんは争点を作って、侃々諤々(かんかんがくがく)で議論して、力で押し切っていく形でした。そして岸田さんは後ろでコソコソやるという感じです。

だから、これからは国会で堂々と議論しながら、コンセンサスを作っていかないとですね。今後は、そうせざるを得なくなります。

――丁寧な国民目線から次の政策を作っていく。

佐藤 そうせざるを得ないんですよ。そうしないと、さらに追い込まれます。

――石破首相にそれができますか?

佐藤 石破さんだったら、その辺りのことは出来るんじゃないですか。

次回へ続く。次回の配信は2024年11月15日(金)予定です。

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佐藤優

佐藤優さとう・まさる

作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

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小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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