尹大統領の弾劾で混乱中の韓国だが、日本人として注目すべき点はほかにもある。大量の日本人女性の売春斡旋に携わった現地の業者が逮捕されたのだ。
同国には日本人女性を"寿司女"と呼ぶネットスラングがある。そして近年、寿司女を抱きたい韓国人男たちが急増中らしい。ソウル在住の韓国人ジャーナリストがその実態を明らかにする!
* * *
■『列島の少女たち』は"表"のサイトだった
10月29日、韓国で売春グループ『列島の少女たち』の経営者たちへの判決が下った。
今年5月、ソウル警察庁は、日本人女性の"出稼ぎ売春"を斡旋(あっせん)した経営者らを検挙。その後、ソウル中央地方裁判所は性売買処罰法違反などの罪で逮捕・起訴された、主犯格である30代のユン被告に懲役2年、罰金5000万ウォン(約550万円)、追徴金2億8000万ウォン(約3080万円)、パク被告には懲役1年8月、罰金3000万ウォン(約330万円)を科した。
ソウル中央地方裁判所では、売春に絡んだ裁判は日常的に行なわれている。しかし『列島の少女たち』事件は、雇われた日本人女性が延べ80人に上った。これだけの人数の組織的な日本人女性売春の摘発は韓国では初めてのことで、警察は背後の組織解明にも動いているようだ。
韓国では売春は全面的に違法とされている。そのため斡旋業者は、繁華街近隣のオフィステル(商業ビル内の宿泊施設)などを借りて、そこに女性を住まわせ、特殊な経路でしかアクセスできない闇サイトで集客、というスタイルが一般的だった。
だが、ユン被告らは通常の検索でもアクセスできるサイトとして『列島の少女たち』を立ち上げた。同サイトは今年初頭からネットコミュニティで話題になっていた。
ある男性は、主に男性が集まる親日系サイトで、買春の相手を探している途中で、『列島の少女たち』に出合う。そして後日、こんな内容のレビューを投稿した。
【半信半疑で予約して、指定されたホテルの部屋で女性に会った。本当に日本人女性が現れて驚いた。外見やサービス、話し方も本物の日本人。値段が高くても大満足でした】
話題になってから、警察の摘発まで5ヵ月かかった。遅れた理由を、全国紙の記者がこう明かす。
「『列島の少女たち』は表のサイトでしたが招待制で、身元が確認された少数の会員だけが利用できた。この閉鎖的な運営がサイトの実態を把握するのに時間がかかった背景です。
また、客の予約に応じて、高級ホテルの部屋を確保し、日本人女性と客をホテルの部屋で会わせるスタイルでカップルを装ったことも、警察の内偵が手間取った要因のひとつになりました」
■日本人女性を抱きたい心理的背景
先述したレビュー投稿のとおり、料金は高い。1回80万ウォン(約8万8000円)から250万ウォン(約27万5000円)。ソウルでの外国人売春は、東南アジアやロシア人女性が多く、10万ウォンから高くても100万ウォンが通り相場だが、日本人女性はその数倍である。
日本人女性は儲かる――韓国の裏社会に広まった意識の背後には、韓国人男性の日本に対する意識が潜む。コロナ禍が終わった頃から、韓国料理店で働く日本人女性を見かけるようになった。たいていが日本人留学生だ。
ある程度、年齢を重ねた韓国男性にとって日本は豊かな格上の国というイメージがあった。かつて円高ウォン安時代、日本に留学した学生たちは苦労した。
しかし、近年は急激な円安や韓国の物価高で状況は逆転しつつある。そんな中で、日本人女性を抱くのは、国威発揚......とまでは言わないが、少なくとも気分はアガるのだ。
1年ほど前から、ソウルでは20代の日本人女性の買春を誘う違法広告が目立つようになった。顔にモザイクがかかった日本人女性の写真が掲載された情報にネットのコミュニティサイトがざわついた。
記者も一度、接触を試みたことがある。通常の通信アプリではなく記録が残らず匿名性が高いテレグラムを使用したが、事前に身分証と会社の名刺などを送る必要があった。そして許可が出ると、ようやくその闇サイトに入ることができる仕組みだった。
『列島の少女たち』も、この手法を応用したが、裏サイトになるとなかなか目に触れなくなる。そこで招待制にして表サイトとしてネットに上げたようだった。
■人気のオプションは「AV撮影風プレイ」
一部の韓国人男性は、ネット上で日本人女性のことを"寿司女"と呼ぶ。これは一種の愛称で、韓国人男性の間では好意的に受け止められている。
対して韓国人女性は"キムチ女"という侮蔑的な呼び方が一般的だ。そこにあるのが、韓国人男性が日本人女性に抱く「韓国の女性より優しく、従順で男を大切にしてくれる」という幻想だ。
実際、違法広告で使われていた日本人女性の写真は、顔こそモザイクではっきりわからないものの、化粧は薄そうで、髪は真っすぐに伸びた黒髪。清楚(せいそ)そうなフリース姿の若い女性である。おそらくこれが、韓国人男性が抱く日本人女性のイメージなのだ。
しかし、韓国人男性は、清純そうな日本人女性は、実は韓国人女性に比べて性には開放的だというイメージも刷り込まれていた。それは日本のAV(アダルトビデオ)の存在が大きいという。
『列島の少女たち』はさまざまなオプションが用意されていた。それをオーダーするたびに値段は上がっていったが、その中でも人気があったのが「AV撮影風プレイ」だ。
その内容は、「女性にセーラー服を着せてプレイ」「疑似レイプ体験」などで、オプションを追加すれば、その様子を撮影することもできた。判決文にも、「一部の日本人女性はAV撮影の経験があることは明確」と書かれている。
『列島の少女たち』も、元AV女優が在籍していることを売り文句にしていた。
日本のAVは韓国では表向き見ることができないことになっている。しかし、P2Pなどを利用したファイル共有ソフトを介し、違法コピーしたAV動画を簡単にダウンロードできることは多くの韓国人男性が知っている。韓国の映画やドラマは著作権侵害のチェックが厳しくシェアできないが、日本のAV動画は事実上、シェアし放題だという。
日本のAV女優や男優が韓国向けに開設したユーチューブチャンネルの登録者数も多い。女優では小倉由菜がその代表格とされ、彼女のチャンネル『오구오구(オグオグ) OGUOGU』は登録者数が20万人に迫る。番組内では韓国語を話す同氏は、韓国では「オグユナ」と呼ばれるほどの人気だ。
AV男優のしみけんも韓国専用のユーチューブチャンネル『しみけん TV』を開設。登録者数は73万人を超えている。番組では毎回、日本のAV女優が登場し、そのトークが韓国語の字幕になって表示されている。
この日本のAV人気が、『列島の少女たち』の料金をつり上げていった。250万ウォンという最高額料金も、AV女優に支払われた。判決内容などから推測すると、その約半分が本人に支払われたようだ。
1回の料金が100万~150万ウォンだったとすると、その半分、50万~75万ウォン(約5万5000~8万2500円)になる。日本のソープランドは高級店でもサービス提供1回につき、4万~5万円のバックがだいたいの相場なので、ソウルのほうが稼げる。
■AV事務所にとっても"おいしい"案件?
『列島の少女たち』が雇用したのは、延べ80人に上ったが、摘発されたときには多くが帰国していた。取り調べを受けたのは3人だけで、全員が20代だった。彼女らは、韓国への再入国を永久禁止になって日本に帰国した。稼いだ金の大半はすでに日本の口座に送金されていたという。
延べ80人の日本人女性は、AV女優グループと風俗系に分かれるようだ。日本のAV業界関係者はこう言う。
「250万ウォンか......。AV女優でいったら中の上クラスだね。有名女優になると日本円で100万円、200万円になるからね。
この種の話は相手国から来る。作品の2次使用を通して付き合いがあるメーカーに入り、それがタレント事務所に流れる。表向きはイベントのナビゲーターとかホステスとしてAV女優を希望してくるんだけど、その裏にはホテルでの別枠オプションを含んでいることは珍しくない。中国、ドバイ、ラオス、ベトナムあたりの話は聞いたな。
要望は有名AV女優になることが多いから、人気女優を抱えたタレント事務所が料金交渉に当たるんですよ。女優や事務所にとってはおいしい案件です」
『列島の少女たち』もこの流れだった可能性が高いという。韓国では女優の取り分は半分ということになっているが「実際はもう少し高いのでは」と同氏は話す。これらの交渉はとても女優個人ではできない。
風俗系はグレーだ。会員制の「交際クラブ」などの中には、ソウルの風俗業界とつながっているところもあり、風俗嬢は韓国への"出稼ぎ"にアクセスしやすい状況になっている。例えばネットを検索してみると韓国の風俗関係の求人情報が簡単に見つかる。
【韓国での秘密のアルバイトを提案します。60分コースを1回終えると10万円から15万円を稼ぐことができます。5回やれば50万円から75万円を稼ぐことができます】
こんなうたい文句で、LINEやX経由で応募するスタイルだ。
『列島の少女たち』が摘発された後も、韓国では、買春を誘うサイトが新たに生まれ続けている。