早くも野党に押され気味な石破茂首相 早くも野党に押され気味な石破茂首相

元日に突如石破首相から飛び出た「大連立構想の選択肢はある」発言。この大構想について、今のところ永田町では現実的な話としては受け止められていない。しかし、与野党の内部では微妙な空気が流れているようで......。

その本音を探ると"少数与党"に苦しむ自民党を軸にした、政界の力学の現在地が見えてきた!

■波紋を呼んだ首相の「大連立」発言

政界がざわついたのは元日放送のラジオ番組で、石破茂首相がこう発言したことがきっかけだった。

「大連立? 選択肢としてありえるでしょうね」

大連立とは国会の第1党と第2党が連立政権を組み、その圧倒的な議席数で国内の政治基盤を安定させる政治手法だ。少数与党(与党の議席数が衆議院で過半数に届かないこと)で政治が不安定化したり、戦争や大災害などの有事に迅速な政治決定が求められるときに用いられることが多い。

もし、首相の言うとおりに大連立となれば、自公政権にとって最初に想定されるパートナーは野党第1党の立憲民主党ということになる。政界の枠組みが激変する大きな政治的事件といえるだろう。

「ひとりしか当選できない小選挙区制下で大連立へと動けば、国会第1党と第2党の間でどちらの党の候補を優先するかで大混乱となる。出馬する議員にとっては生きるか死ぬかの話で、永田町がざわつくのは当然でしょう」(全国紙政治部デスク)

騒ぎが大きくなったことを受け、石破首相は1月6日の記者会見で「今の時点で大連立を考えているわけではない」と火消しに走った。

政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏がやんわりとこう批判する。

「石破さんは理詰めで語るタイプ。『大連立は?』と問われ、その可能性があれば、『ありうる』と答えてしまう人なんです。本気度は低いでしょう。

実際、その後に続く発言で『一歩間違えば、大政翼賛会になる』と、大連立に慎重な姿勢を見せている。

とはいえ、首相の発言ともなれば注目度も高い。もっと自分の発言に気をつけるべきでした」

この石破会見に先立つ4日に、大連立相手となる立憲の野田佳彦代表も「大連立は大きな危機があったときの選択肢。平時で私はそういうことは考えない」と全否定したこともあって、その後、この大連立騒動は沈静化することとなった。

ただ、これで一件落着とならないのが今の政界。永田町ではいまだに「本当に大連立があるかも?」と疑心の声がくすぶっているのだ。

元自民衆院議員の安藤裕氏もこううなずく。

「石破さんと立憲の野田代表は政治家として相性がいい。ふたりとも保守中道で、消費増税に積極的な根っからの財政再建論者でもある。財務省との距離も近く、互いにシンパシーを感じているはずです。

その石破さんと野田さんが国会第1党と第2党のトップにいる。この際、ふたりで大連立を組んで財政再建に道をつけようとするかもしれない―そう永田町が考えるのは当然でしょう」

前出の政治部デスクも言う。

「政界に強い影響力を持つ財務省が大連立を歓迎していることも大きい。石破首相、野田代表とも増大する社会保障費を確保するために、消費税アップは不可欠というのが基本スタンス。

そのふたりが大連立に動けば、財務省にとって悲願の消費税12%、さらには15%、18%という数字も見えてきますから」

■交渉カードとしての大連立構想

党内基盤の弱い石破首相に代わり、国会対策に当たる森山裕幹事長、坂本哲志国対委員長らの面々もまた、大連立話を歓迎しているフシがある。

現在、自公の衆院議席数は過半数の233を下回る220(自民196、公明24)。野党の協力なしでは予算案などの法案を通せず、自公にとって苦しい国会運営が続いている。

その象徴が所得税の発生する「年収103万円の壁」引き上げを巡る国民民主党との交渉だった。

「交渉に応じなければ、通常国会での与党予算案に賛成しないと迫る国民民主に押され、123万円への引き上げを渋々受け入れることに。

独占的に税制の枠組みを決めてきた、『インナー』と呼ばれる自民税制調査会のメンバーも『国民民主の圧力で、頭越しに引き上げが決まってしまった。こんなことは初めて』と、少数与党の悲哀を嘆いていました」(自民国会議員秘書)

驚くのはその後の国民民主の支持率の急上昇だ。自公から減税の手柄を挙げたと有権者から好感され、立憲(8.2%・1月4、5日、JNN調べ)をしのぎ、野党トップ(11.0%・同)に躍り出た。

この成功体験をほかの野党が見逃すはずがない。今月24日からの通常国会では国民民主に続けとばかりに、与党予算案への賛成を条件に自党の政策を採用せよとゴリ押ししてきてもおかしくない。

「そこで、『これ以上野党にやられ放題にならないように』と、森山幹事長らが打ち出したのが教育無償化に向けた日本維新の会との実務者協議の場を設定することでした」(前出・政治部デスク)

このところ維新の支持率は2.5%(同調査)とジリ貧が続いている。そんな低調の維新が党勢回復の起爆剤にと掲げるのが全国の高校無償化(予算規模6000億円)などの教育無償化策だ。

昨年末にスタートした維新との実務者協議は1月10日にすでに3回目を数える。かなりのスピード感だ。

「森山幹事長らの狙いはズバリ、維新と国民民主の両てんびんです。通常国会で国民民主がまたぞろハードルの高い要求をしてきても、『それなら教育無償化を話し合っている維新を新しいパートナーとし、予算を成立させる』と突き放せる。

ただ、ふたつの選択肢しかない両てんびんだと維新と国民民主がタッグを組んで交渉に臨んでくる恐れがある。そこで『立憲との大連立』という3つ目の選択肢を加えて3てんびんにし、野党を分断しようという作戦です。

石破首相、野田代表がそろって否定したのにもかかわらず、大連立話が永田町でいまだにくすぶり続けるのは森山幹事長らのしたたかな国会対策、野党分断策という側面も否定できません」

前出の鈴木氏も言う。

「永田町では2月政変、3月政変という言葉が根強くささやかれています。3月2日までに与党の予算案が衆院を通過しないと、自然成立(衆院で議決された法案が参院で議決されない場合でも一定の期間後に成立すること)できない。

つまり自然成立のリミットとなる2月末から3月2日までが今国会の最初の山となるということ。ここで野党の反対で予算が成立せずに立ち往生すると、途端に石破政権の先行きは怪しくなる。場合によっては不信任案可決、内閣総辞職または解散・総選挙というシナリオもありえます。

そうならないように両てんびんよりも3てんびんで野党を競わせて牽制し、自公有利の立場で交渉しよう――。森山幹事長らにはそんな計算もあるのでしょう」

■与野党に必要な大義名分とは?

ただし、大連立が実現するとしても、それは通常国会終了後の今夏以降という見立てが支配的だ。前出の安藤氏が言う。

「大連立はあるとしても今夏の参院選後になるでしょう。新たな国会勢力が定まらないと、各党とも政党同士の大きな枠組み変更につながる動きはできません。

特に野党にとって、大連立は自公との一体化を意味します。それでは野党政権を望む従来の支持者に見放され、参院選で大敗しかねませんから」

前出の自民秘書も「大連立は先のこと」と断言する。自公が衆院で過半数を占めるために必要な議席数はあと13議席だ。

「それくらいの少数なら、自民が大連立に動くことはないでしょう。法案ごとに野党と交渉し、法案を成立させる部分連合のやり方で切り抜けるはず。

ただ、7月の参院選で自公の獲得議席数に国民民主や維新を足しても過半数に届かないような大敗を喫すると話は別。大連立がにわかに現実味を帯びてきます。

自民には過去にも1994年に野党第1党の社会党、さらにはさきがけを加えて『自社さ連立政権』をつくった歴史がある。与党にとどまるためなら、立憲との大連立を躊躇することはありません」

残る問題は大連立を正当化する大義名分だ。大連立は「大政翼賛会になりかねない」と石破首相自身が懸念したように、それ相応の大義名分が必要となる。野党にとっては政権欲しさの野合と批判されかねない。

「まずは野田代表には財政再建とセットになった社会保障の見直しを呼びかける。実現できれば、いずれも政治史に名が残る大仕事。野田さんにとっても魅力的な呼びかけでしょう。

そして、野田代表と距離を置く立憲内部のリベラル派議員には夫婦別姓の導入を約束すればいい。大連立の期間も次の国政選挙までの限定措置とすれば、リベラル派議員も納得するはず」

大連立話の急浮上は政治が大きく変動する兆しでもある。今年は政界大乱となりそう?