元独首相メルケル(左)とプーチン露大統領(右)。もし独露日三国協商会談が実現するならば、黒い犬の位置に石破首相がいることになるのか?(写真:タス=共同) 元独首相メルケル(左)とプーチン露大統領(右)。もし独露日三国協商会談が実現するならば、黒い犬の位置に石破首相がいることになるのか?(写真:タス=共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――この連載で過去に何度も引いているエマニエル・トッド氏の著作『西洋の敗北』にこうあります。

<ブレジンスキーの『地政学で世界を読む―21世紀のユーラシア覇権ゲーム』は、(中略)共産主義の崩壊によって、アメリカが用なしになれば、日本、そして、ドイツという二つの局がロシアと手を結ぶ可能性がある。すると、ユーラシアにおいて、巨大な勢力の塊が現れ、アメリカはのけ者にされる>(P368)

「独露日三国同盟」と呼んでいいのでしょうか。この三国連合でユーラシア大陸を支配する可能性はあり得ますか?

佐藤 中長期的に見ると、エネルギーに関してだったらあり得るかもしれません。

――といいますと?

佐藤 昨年、オラフ・ショルツ首相の信任投票が議会で否決され、ドイツでは2月に総選挙が行なわれます。そこで「キリスト教民主同盟」と「ドイツのための選択肢」の2つの政党が台頭するでしょう。

うち(同志社大学)のゼミの学生が最近、ドイツに行ってきたんですが、「先生、ドイツがすごい状態でした。ハンブルクはホームレスでいっぱいでした」と言っていましたよ。それから、若い奴らが大麻吸って、大酒を飲んでいるらしいです。

――米国みたいになってるじゃないですか。

佐藤 ドイツの状況は2年前とは全く違います。理由は簡単で、米国からガスを買わざるを得なくなったからです。

――ロシアとドイツをつなぐ海底天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム」が何者かによるテロで破壊され、ロシアから天然ガスが来なくなった。

佐藤 そのため、ガスの値段が4倍になりました。基本的にドイツ企業はどんな形でも雇用は確保するんですよ。しかし、それも維持できなくなっています。フォルクスワーゲンでさえ首切りをせざるを得なくなっているんです。

――そのうち化学合成のすさまじいゾンビ麻薬が某国から入って来ますよ。

佐藤 そんな状態になっているドイツで選挙が行なわれれば、「ドイツのための選択肢」が議会の第二党になります。

すると、もう一度パイプラインを元に戻してロシアからガスを購入することで、エネルギー価格を安くして経済を復興させようという動きが出てきます。ウクライナ戦争のことなど知ったこっちゃない、ということです。

そして移民も排除し、汚いキツイ仕事もドイツ人でやろうじゃないか、となっていきます。

――なんだか戦前のドイツらしくなってきますね。

佐藤 そういう国家主義的かつ現実的なアプローチに変わっていきます。しかも「ドイツのための選択肢」の拠点は旧東ドイツです。

――それは元ソ連のロシアとは相性がいい。

佐藤 一方、日本では千葉県印西市にGoogleのデータセンターができました。そしたら、ものすごい電力需要が生じています。

――なんと!!

佐藤 国民民主党なんかは、原発再稼働、原発新設と言っていますが、そんな時間の余裕はありません。そうしたら何が必要かというと、液化天然ガスの確保なんです。

――納得です。

佐藤 となると、中東とロシアから購入する必要がありますが、中東は不安定ですよね?

――はい。

佐藤 なので、北極海に面したロシアのヤマル半島を動かすことになります。ここは日本もエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と三井物産が参画して、権益を持っていますからね。

そう考えると、日独露のエネルギー共闘という可能性はあります。要するに、日独でロシアの安いエネルギーを買おうということです。政治問題は脇に置いて、エネルギーだけは別だと。

――以前、佐藤さんが提案していた米露日下田条約の変型版ですね。

佐藤 そうです。ただ、そこにはアメリカは入りません。アメリカは、シェールガスもあって、エネルギーを自給自足できますから。日独は、ロシアから安いエネルギーを確保することで生き残りを図ります。

――ヤマルからの天然ガスは、夏季は北極海航路で日本に運ばれます。そして、日本が権益を持つもうひとつの天然ガスはサハリンにあります。中国が支配する南シナ海を、日本はLNGタンカーで通らなくて済みますね。

佐藤 そう、ロシアから購入することで中国との関係を気にしなくて済みます。あと、中東から購入するより、なによりもコストが圧倒的に安いんです。ペルシャ湾岸から持って来るのではなく、サハリンと非常に近いですからね。

――はい。

佐藤 だから、アメリカが一番恐れているのは、ロシアを中心としたエネルギーですよ。しかし、この流れは止めようがありません。

――そうですね。

佐藤 だから、三国同盟までいかない、商売に関係することは協力する「三国協商」みたいな感じになってくると思います。

――15世紀にキリスト教のヴェネチア共和国とイスラム教のトルコで結んでいた協商条約ですね。

佐藤 そうです。共通の利益のための条約です。

――ここには"トランプ王"は文句を言ってこないんですか?

佐藤 文句は言いませんよ。別にアメリカの利益にマイナスになっていないんですから。

むしろ、トランプが文句をつけるとしたら、日英伊の次期戦闘機共同開発のようなことでしょう。ただ、トランプはその開発のことは知らないと思いますよ。

――F3の開発ですね。しかし、それに関しては報道されています。トランプ王は御覧になってないのですか?

佐藤 過去に安倍(晋三)さんから直接聞いた話なんですが、トランプは日露戦争を知らなかったそうです。「シンゾウ、ロシアと戦争したのか? どっちが勝ったんだ?」と。「日本が勝った」と答えたら、「良かったな」と言われたそうです。

――マジですごいお話......。

佐藤 だから、安倍さんは「お前、日露戦争も知らなかったのか」と顔に出ないように注意した、と言っていましたよ。

――すさまじいポーカーフェイスです。

佐藤 だから、そんな日英伊の戦闘機の話なんて知りませんよ。

――絶対に知らないと思います。

佐藤 もしそんな話を聞けば、その瞬間に「アメリカの雇用は何人増えるんだ?」と聞いてくるでしょう。そこで「0人です」と答えたらトランプはどう言うと思います?

――「アメリカから買えよな」でしょう。

佐藤 そうです。

――外交ジャーナリストの手嶋龍一先生はかつて『たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て』を出版しましたが、そのパート2が書けそうですね。『再び、たそがれゆく日米同盟―F3は米国から買え』という。

佐藤 大いにあり得ますね。

――実は、F3の話が持ち上がった頃に、米国から「F57にしないか」との話があったそうです。

佐藤 なんですか、それは?

――F22のドンガラ(機体)に、F35のシステムを組み込んで融合させた戦闘機の売り込みです。F22にF35を足して、F57と呼ばれていましたね。

佐藤 F22の引き渡し価格はいくらなんですか?

――ネット上だと1機3億5000万ドル、現在のレートであれば547億5750万円です。日本はF35Aを1機240億円で買っています。そして、F3は1機300億円になると言われています。

佐藤 その倍の値段を米国は取るでしょうね。

――F22が1機547億円ですから。しかし、F22は1980年代のステルス技術を元に開発されています。機体は45年前のステルス技術なんですよ。それを第6世代機の機体とするにはちょいと無理があります。

佐藤 ただ、日本はトマホークミサイルを買ってますよね。

――亜音速のマッハ0.8で飛ぶ巡航ミサイルです。

佐藤 現在では極超音速の巡航ミサイルも開発されていますよね?

――はい、マッハ11でございます。

佐藤 でも、「トマホークを買わないと日本の米軍基地に中距離弾頭ミサイルを置くぞ」と脅されたから購入せざるを得なかったわけですよね。

――これからの日米関係は、前回の連載にあった「『トランプさん、お手伝いできることは何かございませんか? 御下命ください』と揉み手摺(す)り手」が基本ですので......。今後どうなるか未知に満ち溢れています。

佐藤 そうですね。

次回へ続く。次回の配信は2025年1月31日(金)予定です。

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佐藤優

佐藤優さとう・まさる

作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

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小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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