バイデン前政権の多くの施策を否定し、オセロのように次々と反転させていきそうな第2次トランプ政権 バイデン前政権の多くの施策を否定し、オセロのように次々と反転させていきそうな第2次トランプ政権
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「ドナルド・トランプの人気」について。

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「米国優先主義へ」。ドナルド・トランプが第47代米国大統領に就任し、新聞各紙にはそんな言葉が並んだ。

インテリはアメリカ・ファーストを叫ぶ氏に総じて批判的だった。しかし「自国を優先しないでくれ」って言われても困るだろう。日本の政治家にも、見事なディールで外国から国益を引っぱってきてほしいと願う日本国民もいるはずだ。

大統領在任中は何度も暗殺を企てられるかもしれない。毎日のように誹謗(ひぼう)中傷が届くだろう。そして海外からさまざまな工作が降り注ぐ。世界でもっともタフな仕事に突っ込む男性が78歳とはすごい。というか、呆(あき)れる。

就任当日、大統領令に次々とサインして支持者=信者からの声援をうけるさまはアイドルのようでもあった。ジョー・バイデン前大統領の施策を、オセロのように次々と白から黒に裏返していく。

民主主義のダイナミズムともいえるし、壮大な茶番とも、エンタメともいえる。ともあれ、正当な選挙で選ばれた同盟国の大統領だ。応援しよう。

ただ、私のまわりのビジネス関係者はざわついている。

当稿執筆時点では各国への関税やロシアへの制裁がどうなるかは不透明だが、宣言通りにパリ協定からの離脱を表明。気候変動対策の資金拠出も控える。また、ほんとうにメキシコ国境の入国を一時停止し、軍を派遣してまで食い止めるという。

さらに、電気自動車(EV)の普及策は撤回。エネルギー価格を抑えるために石油を掘りまくり、天然ガスも採掘しまくる。

旧ソ連のゴルバチョフ元書記長、ロシアのエリツィン元大統領が失脚したのは原油下落による財政危機がきっかけだった。だからプーチン大統領の失脚を狙う地政学的な戦略か......というよりも、一義的には消費者物価を引き下げるためだ。

関税アップは消費者物価を押し上げるので、政策が矛盾する。ただ、それぞれ宣言した政策を実施しようとしているのは確かだ。

環境関連のビジネスを主とする企業は、米国での後退や停滞は間違いない。

EVからの揺り戻しも起きるだろう。むろんイーロン・マスクは政権に近いところにおり、設備や研究投資は推進するだろうし、BYDのような新興勢が出現するなか、EVシフトが長期的に止まるとは思わない。

ただ、当面は旧エネルギー(原油、天然ガス、もしかすると石炭も?)が見直されるだろう。物価下落に寄与するので私は歓迎する。

おそらくトランプ大統領の人気の理由はここにある。

シンプルに「言った政策をほんとうに実行する」。

日本は投票率が低い? そりゃそうだ。放送局の独自解釈で選挙期間中はまともな選挙報道をしない。さらに国民民主党を例外として、「投票しても社会は変わらないし、政治家は公約を守らない」と有権者が思っている。投票に行くはずがない。

米国の分断とトランプ人気の底流には、良くも悪くもメディアの煽(あお)りと、公約の実行性からくる「有権者の一票が社会を動かす」感覚がある。

4年毎(ごと)に社会が変わる異常さと劇的さが狂った才能を呼び寄せる。格差は広がるばかりだが、おそらく新たなビジネスも生まれるだろう。政府効率化省ではイーロン・マスクが官僚機構をぶっ壊す。もう日本政治もトランプがぶっ壊してほしいよ。Trumpの邦訳は「切り札」だっけ?

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坂口孝則

坂口孝則Takanori SAKAGUCHI

調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

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