自由民主党/石破茂首相 自由民主党/石破茂首相

30年ぶりに少数与党で迎える国会は、野党が賛成しないと法案が通らない。だからこそ議員たちは真剣に議論する。実は、これが本当の国会の姿なのかもしれない。そんな「ガチ国会」のヤマ場や見どころを徹底解説。見逃せない!

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■予算案は通るのか? 企業献金の禁止は!?

1月24日から通常国会が始まった。

今国会は大きく分けて3つのヤマ場がある。最初のヤマ場は石破 茂政権が「令和7(2025)年度予算案」を成立させられるかどうかだ。

元厚生労働大臣の舛添要一氏が解説する。

「予算は政権にとって最重要法案です。これが通らなければ国民の生活は混乱します。

通常、与党は過半数の議席を持っているためすんなりと予算案は通るのですが、現在は少数与党なので野党の協力が必要です。そこで、石破政権は、24年度の補正予算に賛成した国民民主党と日本維新の会に手を伸ばしています。

しかし、国民民主党の協力を得るためには、同党が主張している『年収103万円の壁の見直し法案(178万円までの引き上げ)』を受け入れなければいけない。昨年、与党は123万円までの引き上げを決めましたが、国民民主党はそれでは納得していません。

玉木雄一郎代表(役職停止中)が『150万円以上は絶対だ』と言っているように、与党が150万円以上まで引き上げるのかがポイントになります。

一方の日本維新の会は『高校授業料の無償化』を求めています。財源でいうと103万円の壁の見直しには約7兆円必要ですが、高校授業料無償化は約6000億円で済みます。そのため予算の修正がラクです。

また、今年は大阪で万博が開催されますが、これが失敗に終わると大阪維新の会は大きな批判を受けます。そこで『政府が万博をさらにバックアップしますよ』と申し出れば、日本維新の会は揺れるでしょう。

ただ、自民党は昨年の衆院選の大阪府内の選挙区で維新に全敗しています。自民党の大阪府連からすれば『なんで維新に協力するんだ』ということになる。

石破政権は国民民主党と組むのか、日本維新の会と組むのか。今、さまざまなところで駆け引きが行なわれているはずです」

国民民主党/玉木雄一郎代表(現在、役職停止中) 国民民主党/玉木雄一郎代表(現在、役職停止中)

日本維新の会/前原誠司共同代表 日本維新の会/前原誠司共同代表

予算案は衆議院で2月中に採決され、その後、参議院に回されるが、参議院は与党が過半数を持っており、ここで否決されることはないため、衆議院での成否が焦点となる。

ちなみに否決されると、石破首相は解散・総選挙を選び政局になる可能性大。また、野党の反対で予算が成立しなかったとなれば、国民生活に大きな影響を与えたということで野党も批判の的になる。

果たして、予算案はどんな結末を迎えるのだろうか。

次のヤマ場は、予算案の決着がついた3月末頃からだ。ここでは「政治とカネ問題」がポイントになってくる。

ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう話す。

「この頃から東京都議会議員選挙(6月22日投開票)、参議院議員選挙(7月20日投開票で調整)を視野に入れた選挙モードになってきます。

都議会自民党の〝裏金作り〟が明るみに出たばかりだし、野党は国会のあらゆる場を使って、自民党の政治とカネの話を追及するでしょう。

自民党は『企業・団体献金を存続し、透明化を高める法案』を主張していますが、立憲民主党や日本維新の会などは『企業・団体献金の全面禁止』を掲げています。

また、国民民主党などは、政治資金をチェックする第三者機関を国会に設置する法案を提出する予定です。

野党が提出した法案に対し、自民の法案は甘く感じられます。『なぜ、全面禁止にしないんだ』と攻め込まれると、なかなか反論しにくい。そうなると自民党のイメージは悪くなるでしょう。都議選や参院選での戦いに大きな影響を及ぼします」

立憲民主党/野田佳彦代表 立憲民主党/野田佳彦代表

また、鈴木氏によれば、企業・団体献金禁止法案のほかにもうひとつ重要な法案があるという。

「それは立憲民主党が提出予定の『選択的夫婦別姓』制度を導入する法案です。これは野党だけでなく、与党の公明党も賛成しています。圧倒的に賛成が多いのですが、実は自民党の中で反対する人が多い。

世論は『企業・団体献金はやめろ』『選択的夫婦別姓はやるべきだ』という声が多いので、石破首相としては企業・団体献金の禁止ができないのであれば、選択的夫婦別姓はどうしても成立させたい。自民党内をまとめられるかが試されています」

石破政権にとっては「一難去ってまた一難」といったところか......。

■内閣不信任案は各野党の踏み絵になる

最後のヤマ場は、6月会期末だ。通常だと野党は会期末に「内閣不信任案」を出す。

「会期末に内閣不信任案が提出された場合、野党が全員賛成すれば可決します。ですから、これまでのように『恒例だから出しましょう』というのとは、ちょっと意味が違います。そして、立憲民主党の野田佳彦代表は、会期末に内閣不信任案を出すという腹をもう決めていると思います。

では、この内閣不信任案を出すことでどうなるかというと、すべての野党の踏み絵になります。

どういうことかというと、予算案がすでに通っているとすれば、国民民主党か日本維新の会が予算案に賛成したということです。それは、与党が出したこの国の1年間の方針に賛成したということです。それなのに野党の立憲民主党が出した不信任案に賛成して石破政権を否定するのは矛盾があります。

逆に不信任案に反対すれば、石破政権を認めることになり、やはり与党にくみすることになる。とても判断に苦しむわけです。

さらに、最大の踏み絵になるのは立憲民主党自身です。

内閣不信任案を提出して可決したら、石破首相は解散・総選挙を選ぶでしょう。参院選とのダブル選挙になります。昨年に続き、もう一度衆議院選挙をやることになる。野党協力なども含めて、立憲民主党は、その準備ができているのか。そこまで考えて、不信任案を出さなければいけません」(鈴木氏)

会期末に立憲民主党の野田代表は、内閣不信任案を提出するのかしないのか。注目だ。

立憲民主党の野田佳彦代表は、会期末に内閣不信任案を出すのか。夏の参院選で野党が過半数を獲得し、政権交代が実現するのか。今年は政治に注目だ 立憲民主党の野田佳彦代表は、会期末に内閣不信任案を出すのか。夏の参院選で野党が過半数を獲得し、政権交代が実現するのか。今年は政治に注目だ

鈴木氏が続ける。

「結局、この3つのヤマ場のゴールは7月の参議院選挙なんです。『どうしたら国民のイメージが自分たちに良くなるのか』ということで駆け引きが起こる。

103万円の壁で妥協したらイメージがマイナスになるのではないか。企業・団体献金や選択的夫婦別姓で揉めたらマイナスになるのではないか。そういう視点で考えているわけです。

そして、参院選では与党が18議席減らすと過半数を割ります。専門家は『さすがに18議席減らすことはないんじゃないか』と言いますが、野党が候補者を一本化して32ある1人区で14勝したら残りは4議席です。2人区や3人区で十分に狙える数です。そうなると政権交代が現実味を帯びてきます」

最後に、今国会の鍵を握る国民民主党はどう考えているのか。同党政調副会長の長友慎治衆議院議員に聞いた。

「103万円の壁の見直しについて、国民民主党としては178万円は譲れません。それは30年前と比べて最低賃金が1.73倍になっているというきちんとした根拠がある数字だからです。

ただし、予算が成立しないと国民に対する手当てが遅くなるのであれば、本意ではありませんが178万円を取りにいく過程で150万円以上で予算案に賛成するということは考えられます。

内閣不信任案に関しては、たぶん、立憲民主党さんが出すのでしょうが、予算案に賛成したとしても、不信任案の賛成が国民のためになるのであれば賛成するのではないでしょうか。

また、参院選で野党統一候補を立てられるのかという指摘もありますが、自民党政権を延命させるつもりはないので、1人区はできる限り統一候補を出すべきだと思っています」

少数与党となるのは約30年ぶりだ。今国会では、これまでのような結果の見えた論戦ではなく、各政党によるガチの戦いや駆け引きが見られそうだ。いい意味で政治を楽しみたい。