ウクライナ軍の本拠地があるドネツク州ドブロポーリエで撮影した第411独立UAV大隊の偵察ドローン部隊。中央にあるのはグライダーのような形をした固定翼の偵察ドローン、通称「シャーク」 ウクライナ軍の本拠地があるドネツク州ドブロポーリエで撮影した第411独立UAV大隊の偵察ドローン部隊。中央にあるのはグライダーのような形をした固定翼の偵察ドローン、通称「シャーク」
ロシア軍の陣地から約3㎞。敵地の目と鼻の先にウクライナ軍の前線がある。今回、報道カメラマンの横田徹氏が、この基地で戦うドローン部隊に密着。ロシア軍がウクライナへの全面侵攻を開始してから約3年、終わりの見えない泥沼の戦争を彼らはどう戦っているのか。

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2022~23年のバフムート攻防戦で多くの兵士と領土を失い、アメリカからの武器支援の先行きが読めないウクライナ軍にとって、唯一の解決策となっているのがドローンだ。特に、カメラが搭載されたFPV(*1)ドローンはなくてはならない存在になっている。

(*1)First Person View(一人称視点)

首都キーウに到着した日、ロシア軍が飛ばしたイラン製のシャヒード・ドローンがビルに激突し、隣の民家が大被害を受けた。攻防は続いている 首都キーウに到着した日、ロシア軍が飛ばしたイラン製のシャヒード・ドローンがビルに激突し、隣の民家が大被害を受けた。攻防は続いている
その用途は多岐にわたり、高高度から作戦区域を偵察するドローン、時速60キロ以上で敵の兵士や車両に突っ込んで自爆するドローン、建物の上から爆弾を落とすドローンなどがある。

ウクライナ軍の第411独立UAV(*2)大隊は東部の激戦地、ポクロウスクの近郊にある廃屋の地下室にいた。ロシア軍の陣地から3㎞の最前線だ。

(*2)Unmanned Aerial Vehicle(無人航空機)

ウクライナ東部ポクロウスクの近くにある地下室。廃屋と化した農家の家の貯蔵庫をそのまま使用している。ジェネレーターでPCや照明はついているが、雪が降る時期にもかかわらず暖房器具がないため寒い。部屋の後方に座る兵士は電波を中継するドローンを操作している ウクライナ東部ポクロウスクの近くにある地下室。廃屋と化した農家の家の貯蔵庫をそのまま使用している。ジェネレーターでPCや照明はついているが、雪が降る時期にもかかわらず暖房器具がないため寒い。部屋の後方に座る兵士は電波を中継するドローンを操作している パイロットはゴーグルを着けて、手元のコントローラーでFPVドローンを操作する。奥のモニターにはドローンに搭載されたカメラからの映像がリアルタイムで届く パイロットはゴーグルを着けて、手元のコントローラーでFPVドローンを操作する。奥のモニターにはドローンに搭載されたカメラからの映像がリアルタイムで届く
ゴーグルを着けたパイロットがコントローラーで自爆用FPVドローンを操作し、そこから届く映像がリアルタイムでモニターに映し出される。地面の草木や石までもが鮮明に見えるカメラの性能に驚く。

「トラックを見つけた」と司令部から無線報告が入った。

「トラックを確認。移動し始めた。西へ向かっている」

FPVドローンに気づいたロシア軍のトラックは逃げ出したようだ。突然、映像が乱れ始め、画面が真っ黒になった。

「クソ、電波妨害されている」

パイロットは何も見えない中、機体が落ちないように操作する。使用する電波の周波数を変えて数分で映像が回復したが、トラックの姿はなくなっており、バッテリーが切れたドローンは地面に墜落した。

現在のバッテリーでは15~20分の飛行が限界だ。その時間内に目的地まで飛び、標的を探し、攻撃する。電波妨害をされればさらに時間の制限がかかる。

実際に飛ばしたFPVドローン。青い部分がバッテリー。ドローンの下部に爆弾が搭載されているため、地下室内は火気厳禁。コンロが使えないため、ドローン部隊はフランス軍などのレーション(戦闘糧食)を冷たいまま食べていた 実際に飛ばしたFPVドローン。青い部分がバッテリー。ドローンの下部に爆弾が搭載されているため、地下室内は火気厳禁。コンロが使えないため、ドローン部隊はフランス軍などのレーション(戦闘糧食)を冷たいまま食べていた
兵士が次のFPVドローンを持って外に出ていく。飛行準備をする兵士を撮影していると、どこからかドローンのモーター音が聞こえた。兵士は作業の手を止めて空を見上げると「走れ!」と民家に向かって走り出したので私も一目散に逃げた。

不気味なモーター音は消え去り、兵士は作業に戻った。200m先にある味方のドローン部隊が任務を行なっていたようだ。ロシア軍のFPVドローンも同じモーター音を発するため、見分けがつかないのが難点だ。

次のターゲットはロシア兵が隠れている塹壕(ざんごう)だった。廃屋の庭に塹壕が掘ってあるというのだ。目的地上空に着き、機体の高度を下げると、ノイズが出てきて頻繁に映像が遮断される。パイロットは周波数を変えて映像の復元を試みる。

再び映像が現れると地面に穴が見えた。パイロットがコントローラーから突き出した2本のスティックをミリ単位で動かして、機体をそのまま穴に突っ込ませると、画面が消えた。

「これで、あそこにいたロシア兵はあの世に行ったぜ」と声を上げるパイロット。

裏返しにしたFPVドローンに対車両用の爆弾を装着している兵士。爆弾のピンにヒモをくくりつけ、それを地面にくいで打ちつけておくことで、飛んだときにピンが抜けて爆発できる状態にする。繊細な作業なので素手で行なう 裏返しにしたFPVドローンに対車両用の爆弾を装着している兵士。爆弾のピンにヒモをくくりつけ、それを地面にくいで打ちつけておくことで、飛んだときにピンが抜けて爆発できる状態にする。繊細な作業なので素手で行なう
別のモニターでは、その穴から白煙が上がる映像が流れた。離れた場所で偵察ドローンが撮影していたのだ。映像を見ていても、人が死んだという実感は湧いてこない。まるでYouTubeでも見ているような感覚だった。たった今、3㎞先の塹壕ではロシア兵が遺体となって横たわっているか、破片を体に受け苦しみ悶(もだ)えているのだ。

8時間に及んだ任務で18機のFPVドローンを飛ばし、そのうち8機がターゲットを破壊した。爆弾を精密に命中させるという、砲兵とスナイパーを組み合わせたようなFPVドローンは、歩兵戦術に革命を起こしたと言っても過言ではない。

●横田 徹 Toru YOKOTA
1971年生まれ、茨城県出身。97年のカンボジア内戦をきっかけに報道カメラマンとして活動を始める。インドネシア、東ティモール、コソボ、アフガニスタン、シリアなど、世界各地の紛争地を28年にわたり取材している