
「高校授業料無償化」などで自公維が合意の一方、国民民主が要求する 「年収の壁」見直しは交渉決裂!
日本維新の会が与党案に賛成して、2025年度予算案が衆院で可決された。当初は国民民主党が与党と手を組みそうに見えたが、最後に政策実現をしたのは維新だった。予算案を巡る攻防で"勝った"のは誰なのか?
■維新は負けて、国民民主は勝った!?
与党の自民党・公明党と野党の日本維新の会は「高校授業料の無償化」や「社会保障改革」などの政策について2月25日に合意した。
そのため、維新は与党が提出した2025年度予算修正案に賛成することを決め、予算案は3月4日に衆議院本会議で可決された。
しかし、昨年から与党との交渉を進めていたのは国民民主党だった。「年収103万円の壁」といわれる所得税の支払いが発生する年収を103万円から178万円まで引き上げれば、国民民主が与党の予算案に賛成して予算案が可決するシナリオも見えていたのだ。
にもかかわらず、最終的に与党が手を結んだのは維新だった。
では、この予算案可決を巡る国会で、勝者となったのは誰なのか? そして敗者となったのはどの党なのか?
まずは、政策実現を引き寄せた維新から見ていきたい。元厚生労働大臣で政治評論家の舛添要一氏が語る。
「維新は自分たちの公約である『高校授業料の無償化』を実現させたということは評価できます。
国民民主党が主張する『103万円の壁の引き上げ』を実現すると7兆~8兆円の税収減になりますが、『授業料無償化』なら6000億円程度の減収で済む。それをセールスポイントとして、うまくのませたという印象です。
一方で『与党に助け舟を出した』『延命させた』という批判もあります。ですから、維新は政策を実現させたことでプラスになったけれども、与党と手を組んだことでマイナスにもなった。予算案の可決に関してはプラマイゼロではないでしょうか」
ジャーナリストの鈴木哲夫氏はもっと厳しい意見だ。
「維新は『授業料無償化』と『社会保障改革』を実現させたということで"自分たちでは"評価しています。でも、社会保障改革についていえば合意文書に『今後3党で協議する』『検討を進める』とあり、具体的なことは明記されていません。これでは、社会保障改革はなかなか進みません。
授業料無償化にしても、私立高校の授業料も今以上に支援することになれば"公立高校離れ"が起きるわけです。高校の先生はどうなるのか。また、私立に行きたいとなると、合格するために子供を塾に通わせる家庭が増えるでしょう。その負担はどうするのかなど、新たな問題が出てきます。そういう議論がほとんどされていないんです。
本来なら、こうした問題を国会で議論するわけですが、自公と維新の3党だけでコソコソ話していた。103万円の壁にしても、自公と国民民主だけで話している。これでは密室政治と同じです。こうした問題が今後、追及される可能性があります。
さらに維新は、与党と手を組んだことで有権者から『維新は与党なのか、野党なのか』と見られています。中途半端でいると夏の参議院選挙への影響が大きい。
そこで、3月1日の党大会で前原誠司共同代表が、あえて『自公の補完勢力ではないかという人もいるが、われわれは野党です』と強調したんだと思います。
ですから、今回の与党との合意が世論にどう受け止められるかは冷静に見なければなりません」
日本維新の会は、意外にも負け組だったのかもしれない。
昨年12月に「103万円の壁」見直しの確認文書を交わし、協議を続けていた国民民主党、自民党、公明党だったが、最終的な合意には至らなかった
では、103万円の壁問題で最後まで妥協しなかった国民民主党はどうか?
「国民民主は自公との協議で、あれだけ世間から注目を浴びたにもかかわらず、最終的には合意できませんでした。政策を実現した維新と比べると負けの印象が強いでしょう。
しかも、与党は今回の予算案で課税最低限を160万円まで引き上げています(負担軽減の対象となる年収の上限を850万円に引き上げ)。これで多くの納税者は2万~3万円の減税になります。
これを国民がどう判断するか。『178万円にこだわらなくても2万~3万円得するならいいじゃないか』と思う人が多いような気がします」(舛添氏)
国民民主は負け組という意見がある一方で、逆の考えもある。鈴木氏が語る。
「個人的には国民民主が自公と決裂したのはプラスになっていると思います。『178万円にこだわりすぎて維新に手柄を取られた』という意見があるかもしれませんが、160万円で妥協していたら、『結局、与党入りしたかったのか』という批判が出ます。
一歩も引き下がらないことで『与党にはならない』という意思を示したんです。
これは国民民主を支持している人たちからすると『よく頑張った』と評価されるのではないでしょうか」
自公と交渉決裂の国民民主党は、勝ち負けの判断が大きく分かれる。
■真の勝者は、政党ではなかった!?
ではまったく見せ場がなく、"蚊帳の外状態"だった立憲民主党はどうだろう。
「維新や国民民主のように"高校授業料の無償化"や"103万円の壁"などの目玉政策を持っていなかったことは失敗だったと思います。
ただ、立憲は野党第1党なんです。自分たちの政策を自民党がのんでくれればいいというのではなく、政権交代を目指さなければいけない。夏の参院選に向けて野党がひとつになっていく流れをつくることが先決です。
野田佳彦代表は以前、私にこう言っていました。『立憲は野党の長男なんです。だから、次男や三男を見守ってあげなければいけない。
そして、ここぞというときには責任を持ってまとめていかなければいけない』と。今回の予算案への対応としては、そういう姿勢が見えた気がします」(鈴木氏)
立憲民主党は、勝敗つかずといったところか......。
最後に与党の自民党と公明党はどうだろう。
「自民党は少数与党のため、予算案では野党の要求をいろいろ受け入れて、多くの部分で妥協しました。そこでは果たして与党としてのプライドを示せたのかどうか。党内の反石破議員は『譲りすぎだ』など早速批判をしています。
公明党も自民と手を組んで与党になっているにもかかわらず、高校授業料の無償化や夫婦別姓問題には賛成して野党を助けている。チグハグな動きも出てしまい、存在感を示せなかった。
そういう意味では、自公共にマイナスのイメージがあるのですが、『あえて勝者は誰か?』ということになると、やはり自公の与党なんです。理由は『25年度の予算案を通したから』です。
予算は『1年間この国をこう動かしていく』という指針です。細かいところを野党に譲ったとしても予算を通せたことは勝ちなんです」(鈴木氏)
舛添氏も同意見だ。
「現在は少数与党ですから、どこかの野党と組まなければ予算が通りません。そのときに『国民民主の103万円の壁の引き上げに合意すると7兆~8兆円の税収減になる。維新の高校授業料の無償化だと6000億円で済む。
だったら安いほうと手を組んだほうがいいじゃないか』という考え方に『ずるい』というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、多くの政治家たちは『よくまとめたな』『よく我慢したな』という評価をしているんです。
ですから、今回、自公は予算を通したことで勝者と言えるのではないでしょうか」
ただ、その陰に"真の勝者"もいると舛添氏は言う。
「結局、今回の予算案を巡る攻防は財務省の筋書きどおりだったと思います。与党が過半数を取っていれば、財務省の作った予算がそのまま通るわけです。でも少数与党の場合、どこかに野党の政策が入って修正することになる。
そこで財務官僚は自公の責任者のところに行って、どの党と組めばいいかというアドバイスをするんです。『国民民主の103万円の壁の引き上げは7兆~8兆円の税収減になるので予算を作り直せません。とても無理です。維新の6000億円ならなんとかなります』などというように。
一方で維新の責任者にも財務省の官僚がこっそりと行って『維新さんの案だったら財源をなんとかできます。ですから、自公との交渉を頑張ってください』と言っているはずなんです。私の経験からすると、財務官僚はそれくらいしたたかです」
なんとか衆議院を通過した新年度予算を巡る政党間の攻防は、実は財務官僚の手のひらの上で転がされた"勝者なき決着"で終わったのかもしれない。
