
佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
廃墟のガザ地区、これがリビエラになり得るのか......(写真:EPA=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――佐藤さんはトランプ王を「頭が良い」と判断しています。しかし、その佐藤さんがいま一番怒っているのが、イスラエル・ガザ地区に関してのトランプの発言です。
トランプは、なんとそこを「リビエラ」にすると明言しました。佐藤さんは「単に常軌を逸脱しているだけの戯言に過ぎない」と評していますが、このガザ地区はどうなるのでありますか?
佐藤 アメリカ人はひとつの家に一生住まず、よく引っ越しますよね。
――はい。土地に対して、あまりこだわりがなく、気分次第であちらこちらに引っ越しています。
佐藤 だから、ガザ地区をリビエラにするという発想も、そのイメージの延長線上にあるんですよ。
ただし、パレスチナ人がガザ地区に集中して住んでいますが、彼らは元々そこに住んでいたわけではありません。それが最大の問題です。ガザ地区に集まっている遠因は、エジプトですから。
――エジプト?
佐藤 第一次中東戦争で、エジプトはガザに居座っていました。それで、あそこにパレスチナ人が集まってきたんです。だから、ケツ持ちをしなくてはならないのはエジプトなわけです。ところが、エジプトは絶対に責任を持ちません。
――ハマスの大元は、エジプトに本部を置いていたムスリム同胞団ガザ支部ですからね。そのムスリム同胞団とエジプトは、ずっと敵対してきた。そんな彼らがもう一度エジプト国内に戻るのは、なんとか避けたい。それがエジプトの本音でありましょう。
佐藤 だから、こういう場所はもう解決がつかない状態になっています。ハマスを追い出す、それしかないわけです。
――すると佐藤さん、ガザ地区は今後、どうなるのですか?
佐藤 ガザ地区はやはり、力と力の均衡点で収まっているから、イスラエルに対して反抗しない連中が細々と生きる、そういう形になると思います。逃げられる人は逃げる、逃げる先のない人はあそこで細々と生きていくことになるでしょう。
――ガザ地区220万人全員を、シナイ半島に逃すというのは?
佐藤 エジプトが了承すると思いますか?
――承諾なしでやると、皆殺しになるんでしょうね。
佐藤 そうなってしまうでしょう。
――さらに、その220万人にはハマスが混在してますからね。
佐藤 もう、ガザに関してはシナリオ無しですよ。
――シナリオが無い!
佐藤 存在しません。
――着地点がない。どうなるか不明だという......。
佐藤 イスラエルとしてはいまの版図だけを維持することで精一杯ですから、『あとは知らない』ということです。
――最強の『あとは知らない態勢』です。ネタニヤフ首相が自らの権力を維持することが第一でありますね。
佐藤 ネタニヤフだって、下手にこけたら刑務所行きですよ。
ただそれよりも、人口600万人のイスラエルは、すでに一年半も戦争をしています。だから、イスラエル自体がいっぱいいっぱいな状態です。
――イスラエル建国以来、初の長期の大戦争ですからね。
佐藤 イスラエルは総力戦をした経験がありませんからね。
――せいぜい長い交戦期間は、第四次中東戦争の17日間ですからね。
佐藤 第三次中東戦争なんて一番短くて6日ですから。
――ハマスを根絶する、これは不可能なのでしょうか?
佐藤 ハマスは中立化されましたから、もう関係ありませんよ。最大の問題であったヒズボラを除去できて、そしてシリアのアサド政権も倒れました。
その意味において、イスラエルの長年の懸案はハマスからスタートしたけれど、北の方の最大の脅威を全て吹き飛ばしたというのが現状です。だから、逆にいまはシリアが大混乱に陥るほうが怖いんですよ。
――シリアがリビアのような諸派入り乱れての内戦になるという。
佐藤 そうです。ただもう、時間の問題です。
――シリアにはISなどの恐ろしい組織が全部います。
佐藤 だから、イスラエルには余裕がない状態です。「勝手に考えて下さい」となるしかないんです。「とにかく、我々を攻撃してこなくていいから」と。
――「どうぞ、そちらさんはイスラエル以外の地で戦争してください。こっちに来ないでね、」。
佐藤 でも、結局は下手に和平とかしないで、力による解決で正しかったわけです。
――その通りですね...。
次回へ続く。次回の配信は2025年3月28日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。