
佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
何かをわかりあっているトランプとプーチン(写真:AFP=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――前回イスラエルに関して、最後に佐藤さんは「結局、下手に和平を目指さず、力による解決で正しかったわけです」と言われました。この意味についてお聞かせください。
佐藤 「力で物事を解決する」という時代がありましたよね。
――それはいつも佐藤さんがおっしゃっている「帝国主義」ですよね。
佐藤 そうです。つまり、東アジアで戦争のない帝国主義体制をどうやって維持するか、ということです。
――戦争せずに帝国主義を掲げると。新しい「大東亜非戦争共栄圏」でありますね。
佐藤 そういう意味では現在の状況で、日本は上手く立ち回っていますよね。
――景気はよくないけれど、安寧には暮らしている。
佐藤 若者が大麻を吸って飲んだくれているドイツでは、失業者が街にあふれていますからね。
――ドイツは2月の選挙で政権が変わり、第二党に極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進しています。
佐藤 彼らはさらに支持を集めて、もうすぐドイツのトップに立つでしょうね。
――「いまの状況は最低だ!」と言い放つ若者たちが変わっていくのですか?
佐藤 みんなスキンヘッド(※)になるでしょうね。(※ネオナチズムの隠語)
――ヤバいですね。ドイツはすでに"ヨーロッパの主人公"だという意識を失くしています......。
佐藤 ロシアと繋がる天然ガスのパイプラインを壊され、米国から4倍の値段でガスを買わされただけでそうなったわけですよ。
――アメリカにしたら、デカい顔をしてきたドイツを終わらせることができたからOKなんじゃないですか?
佐藤 そうだと思います。
――「ドイツよ、第二次世界大戦であれだけの悪事をはたらいておきながらヨーロッパの盟主になるだと? ふざけるな!」というのが米国の本音で、そうなる前に防げたということですね。
佐藤 日本も危うくその轍を踏むところでした。しかし、うまく切り抜けられました。
――イタリアもなんとかうまくやっているわけですね。
佐藤 イタリアも右派政権ができて、なんとかなっています。
ある意味、右派政権が各国の救いの星なんですよ。とにかく、グローバリゼーションの価値観などは捨てて、自国を先進させています。
――韓国もこれから右派政権になるのでしょうか?
佐藤 韓国はなりません。というよりも、韓国はとても厳しいです。国内の体制がもうグチャグチャですから、これはどうしようもありません。だから極力、関わらないようにするだけですね。
――ややこしい人とは交渉を持たないという?
佐藤 親子喧嘩や夫婦喧嘩のように、家中で喧嘩をしているようなものですよ。
――そのどちらかに口出しすると......。
佐藤 そう、どっちかに肩入れしていると勘違いされます。
――するとますます、石破政権が推進する"楽しい日本"は世界に通じる感じになってきますね。
佐藤 だから、「どうやってこの楽園を維持するか」」、つまり「戦争に巻き込まれないようにするか」ですよね。
――どうすればよいのでしょうか?
佐藤 トランプと上手に付き合うしかありません。例えば、防衛費をGDP比5%と打てばいいんですよ。
それには、ひとつでも基地がある都道府県の道路建設補修費用を全額、防衛費に回すことです。米作りも農業安全保障として防衛費に繰り込みます。トランプは内側まで見ていませんから、付け替えの得意な財務省がうまく予算を回して5%を達成すればいいんです。
――日本全土を高速道路で結び、拡張する。
佐藤 軍事移動でも使えますからね。
――ならば、陸自普通科隊員の高速移動のため、日本全土在来線を新幹線化するとか。
佐藤 空港をはじめとした交通インフラは、全て軍用として使えます。
――全空港を戦闘機が運用できるように3000m滑走路を2本作る。仕上げは、F35Bステルス戦闘機が着陸できるよう、全国のコンビニ駐車場を舗装にする。ただし、必ず100mの直線道路が滑走路として整備できる場所にあるコンビニに限定します。
佐藤 とにかくそういった形で予算の付け替えをして、トランプと喧嘩しないようにすればいいんです。
――「大東亜非戦争共栄圏」を作り上げるためには、中国との関係はどうなりますか? いま日中は仲良くしているから大丈夫なんですか?
佐藤 全然問題ありません。
――素晴らしい!
佐藤 ビザも出ましたし、福島の処理水問題も近く解決します。それから、中国で拘束されているアストラス製薬の日本人社員も、おそらく不良外人の追放という形で処理するので、懸案はなくなります。
――米中の付き合い方のバランスを考えた場合、最初に米国と「今度こんな事しますよ」と事前に中国に報告せず、事後報告でも大丈夫でありますか?
佐藤 全然問題ないですよ。
――日中は問題ないですが、米中は関税の掛け合いです。中国の王外相は堂々と、売られた喧嘩は買うことを宣言していますが、大丈夫なんでしょうか?
佐藤 ただ、「喧嘩を売る」と言われて「買いますよ」と答えるものの、実際に買うかどうかは別ですよね。
考えて欲しいのはトランプの戦略です。本気で産業を米国に戻そうとしています。家電も自動車も外国から安いモノが入ると困るから、「関税を掛けるしかない」と言うのは当たり前です。
――国内産業を守るためですね。
佐藤 そうです。そして、各国がそれぞれ自国内で産業を発展させていくことが重要になります。
理論的には19世紀のドイツの経済学者、フリードリッヒ・リストの「経済学の国民的体系」で展開された考え方なんです。つまり、関税によって国内産業を振興することです。自由貿易は当時の最強国・イギリスだけに都合が良いルールだとして、リストは批判していました。だから今回、トランプたちは目覚めたわけですよ。
これまで米国は自由貿易によってGDPだけが膨らみました。一方で、米国内でモノを実際に作る能力や機能は全て空洞化してしまい、ノウハウも消えました。そのため、金融資本だけが集まって、実態の力として戦争に勝てなくなってしまったのです。
そこで、「戦争に勝つためにはモノ作りがないとダメだ」「必要なのは二次産業なんだ」
ということに気が付いたということです。
――そこでエマニュエル・トッドさんは、トランプ政権が失敗する分析をして、その根拠を下記のように提示しています。
《フリードリッヒ・リストは、保護主義がうまく機能するために最も必要なことは熟練労働者の存在だと言っています。ところが、今のアメリカはその熟練労働者がいないのです。
(中略)
アメリカはロシアよりも人口が2倍以上も多いのに、ロシアよりエンジニアを輩出できていません。
(中略)
イスラエルもアメリカ帝国の一部と言えると思いますが、イスラエルの技術の一部にもアメリカは完全に依存している状況があります。したがって、中心部分の弱体化という問題があるのです》(AERA2/17号より)
トランプ政権は今後、失敗して短命政権になるのですか?
佐藤 いえ、短命政権にはなりません。その理由は米国がヨーロッパのように「宗教ゼロ」の国になっていない、まだ宗教的な国家であるからです。
ここがトッドのズレているところですね。フランスのような状態、特にパリオリンピックの入場式のレベルで考えたらダメです。ヨーロッパは本当にシニカルになっています。
――するとトランプ米大統領、石破首相とこの神に選ばれた2トップが世界を率いていく可能性はありますか?
佐藤 そういう超越的な価値観を持っている人間が強いわけです。プーチンもそうだし、強いのは神様を信じている人です。習近平が強いのは、中国の夢という超越的なモノを信じているからです。信じる対象は神様でなくてもいいんですよ。
――世界の3トップ、プーチン、トランプ、石破が世界をリードしていく可能性があるわけですね。
佐藤 彼らは神を信じる人だし、それゆえに恐れているモノがありますからね。
次回へ続く。次回の配信は2025年4月4日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。