フィリピン東方沖に展開する日米仏の空母。米海軍は巡洋艦1隻・ 駆逐艦2隻・哨戒機、仏海軍は駆逐艦1隻・フリゲート2隻・補給艦・哨戒機、海上自衛隊は護衛艦「あきづき」・哨戒機を伴って訓練に臨んだ(写真/海上自衛隊) フィリピン東方沖に展開する日米仏の空母。米海軍は巡洋艦1隻・ 駆逐艦2隻・哨戒機、仏海軍は駆逐艦1隻・フリゲート2隻・補給艦・哨戒機、海上自衛隊は護衛艦「あきづき」・哨戒機を伴って訓練に臨んだ(写真/海上自衛隊)

米空母カール・ヴィンソンから対抗戦訓練のために発艦する艦載戦闘機FA-18。空母の飛行甲板には実弾ミサイルを搭載した戦闘機が並んでいた 米空母カール・ヴィンソンから対抗戦訓練のために発艦する艦載戦闘機FA-18。空母の飛行甲板には実弾ミサイルを搭載した戦闘機が並んでいた

2月10~18日、フィリピン東方沖で行なわれた日米仏の海軍共同訓練。中国海軍の情報収集艦が偵察する中、フォトジャーナリスト・柿谷哲也氏が海上自衛隊の艦載ヘリコプターに同乗して米海軍空母に着艦。艦上で撮影した貴重な写真から、訓練の"本気度"を読み解く!

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■実弾ミサイルを積んだ艦載機がアラート待機

フィリピン東方沖の西太平洋海域で2月中旬、延べ9日間にわたって行なわれた「パシフィック・ステラー」は、日米仏の〝空母艦隊〟による初の共同訓練となった。

参加したのは米海軍の原子力空母「カール・ヴィンソン」、仏海軍の原子力空母「シャルル・ド・ゴール」、日本の海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「かが」(2027年度頃までに〝軽空母化〟が完了予定)。そしてもちろん、それぞれが率いる駆逐艦や護衛艦なども随伴した。

わざわざ西太平洋まで顔を見せた「シャルル・ド・ゴール」は、現在では世界で唯一、核戦力(艦載機から投下するいわゆる〝戦術核〟)を搭載している水上艦で、この訓練が台湾をはじめ周辺国・地域への軍事的圧力を強める中国に対する牽制を兼ねていることは明らかだった。

それぞれの艦載ヘリが他艦へ人員を移送する「クロスデッキ」と呼ばれる訓練の際、海自ヘリに同乗して米空母「カール・ヴィンソン」に降り立ったフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は、ある異変に気がついたという。

「私は米空母を70回以上取材してきましたが、例えばハワイ周辺で行なわれる多国間演習『リムパック』など過去に取材してきたケースでは、米空母の艦載機は実弾を装していませんでした。

しかし、この日は飛行甲板を見渡してみると、翼端に実弾の熱線追尾ヒートミサイル『サイドワインダー』を搭載したステルス戦闘機F-35C、戦闘機FA-18がズラリ。言うまでもなく、今回の訓練海域が中国の軍事的勢力圏に近いからこその〝本気度〟です」

配備機数を大幅に増やすことが発表された米海軍の最新鋭ステルス戦闘機F-35C(中央の2機)。タテに畳んだ状態の主翼に装着されている空戦用の熱線追尾ヒートミサイル「サイドワインダー」(弾頭部にオレンジ色のカバーがついた細長いミサイル)は夜間も取り外されることなく、昼夜アラート体制を取る 配備機数を大幅に増やすことが発表された米海軍の最新鋭ステルス戦闘機F-35C(中央の2機)。タテに畳んだ状態の主翼に装着されている空戦用の熱線追尾ヒートミサイル「サイドワインダー」(弾頭部にオレンジ色のカバーがついた細長いミサイル)は夜間も取り外されることなく、昼夜アラート体制を取る

赤いヘルメットと胴着を着用した武器担当のフライトデッキクルー(写真右端の集団)が、戦闘機FA-18の翼端にヒートミサイル「サイドワインダー」を装着している 赤いヘルメットと胴着を着用した武器担当のフライトデッキクルー(写真右端の集団)が、戦闘機FA-18の翼端にヒートミサイル「サイドワインダー」を装着している

そんな緊張下で行なわれていたのが、まずは対空訓練。仏「シャルル・ド・ゴール」から発艦した戦闘機を巡航ミサイルに見立てて、海自「かが」が対応をチェックする。

続く対潜水艦訓練は、「シャルル・ド・ゴール」がEMATと呼ばれる模擬潜水艦を水中に放ち、それを日米仏艦隊の水上艦が探知する想定の下で進んだ。艦同士はNATO(北大西洋条約機構)が使用するデータリンクで、さまざまな周波数の電波、衛星回線、インターネットなどの通信によって情報を共有する。

そして、柿谷氏が米空母の艦上にいるときには、米仏の艦載戦闘機4機が実際に飛び立ち、レッドチーム(敵役)とブルーチーム(味方役)に分かれて、〝虎の子〟の空母艦隊を防御する訓練が行なわれていたという。

■空母艦隊の後方で偵察していた中国艦

ただし、実際に敵が来襲した場合、米空母から飛び立つのは先述した艦載戦闘機F-35C、FA-18だけではない。

両機がスクランブルで発艦すると、まず後を追うのが電子戦機EA-18G。翼下の電子戦用ポッドから各種電波を発し、敵がレーダーで味方機を探知するのを妨害する役割を担う。

艦載戦闘機F-35C、FA-18の後を追って発艦するのは電子戦機EA-18G。翼端の装置で敵の各種電波を探知し、翼下に装着したプロペラがついた電子戦用ポッドから妨害電波を発する 艦載戦闘機F-35C、FA-18の後を追って発艦するのは電子戦機EA-18G。翼端の装置で敵の各種電波を探知し、翼下に装着したプロペラがついた電子戦用ポッドから妨害電波を発する

また、戦闘機FA-18E/Fの主翼下に計4基の燃料タンクを搭載した〝FA-18タンカー〟も重要な存在だ。

複座型の戦闘機FA-18E/Fの機体下にポッド式給油装置を備え、さらに翼下にも4個の燃料タンクを装着したFA-18タンカー。空中給油機の役割を担う 複座型の戦闘機FA-18E/Fの機体下にポッド式給油装置を備え、さらに翼下にも4個の燃料タンクを装着したFA-18タンカー。空中給油機の役割を担う

「敵艦・敵機が突っ込んできた場合、長射程の対艦ミサイル攻撃を避けるために空母は後方に退避し、敵との間にイージス艦が入って対空防御を行なうのですが、そうすると前方空域に飛ばした艦載機はすぐに空母へ帰還することができません。そこで〝FA-18タンカー〟が空中給油を行ない、飛行時間を延ばすことが重要になるのです」

さらに、これらの〝スクランブル編隊〟を空中で指揮・統制する早期警戒機E-2D、何かあった場合に海上に脱出したパイロットを救出するCSAR(戦闘捜索救難)ヘリも空母から飛び立つ。これが空母飛行隊の基本的なスクランブル体制だ。

日米仏艦隊の後衛に配置された海自護衛艦「あきづき」の後方、約4マイル(約6.4㎞)の距離を空けて追尾・監視する中国海軍のドンディアオ級情報収集艦。訓練海域へ向かう仏空母を南シナ海から追跡・偵察し続けていたという 日米仏艦隊の後衛に配置された海自護衛艦「あきづき」の後方、約4マイル(約6.4㎞)の距離を空けて追尾・監視する中国海軍のドンディアオ級情報収集艦。訓練海域へ向かう仏空母を南シナ海から追跡・偵察し続けていたという

ところで、海自護衛艦「あきづき」の後方にうっすらと見える大型艦の姿を写している。実は、これは中国海軍の「東調級情報収集艦」だ。

「同艦は訓練期間中、ずっと日米仏艦隊に張りついていたようです。かつてアフガニスタン紛争の際も、米仏の空母は『不朽の自由作戦』の一環として作戦行動を行なったことがありますが、当時はまだ中国にそれを偵察する能力がなかった。

しかし今は海軍が増強し、まさに空母3隻体制を構築しようとしているところです。日米仏の動きから3隻の運用を学ぶ、そして対抗手段も考えるという二重の目的があったのでしょう」

今回の訓練海域からフィリピンを挟んで西側にある南シナ海では、中国軍が常時活発に活動を展開している。緊張は続く。