ミャワディ近郊で詐欺に従事していた日本人男性は日本へ強制送還予定
日本人の関与もあり、話題になったミャンマーの詐欺拠点。しかし、当地とそれに連なる"危ないエリア"を精力的に取材しているルポライターの安田峰俊氏は、「詐欺のホットスポットはミャンマーだけでなく東南アジア全体に広がっている」と話す。
その背景にあるものとは? 現地の"悪い人たち"の話と併せて、ガッツリ解説してもらった!
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■中国との国境地帯に「詐欺の巣」
――最近、ミャンマー東部の詐欺拠点が話題ですね。
安田峰俊(以下、安田) そうですね。今年1月に日本人が詐欺拠点にいたことがわかって、日本のマスコミで「ミャンマー詐欺拠点」とか大きく報じられています。
ただ、拠点自体はずっと前からあって、ミャンマーにとどまらず広範囲でヤバいんですよ。2022年頃から、中国語圏のメディアでは有名でした。ほかにもカンボジアとかラオスとか、東南アジア全域に広く存在してるものなんです。
――じゃあ、ミャンマー東部だけ騒ぐのはおかしいと。
安田 はい。ただ、現時点でいちばん規模が大きい場所なのも確かです。2月末に現地で取材したら、ミャンマーのタイ国境地帯にあるミャワディっていう街の周囲、だいたい半径10㎞ぐらいの範囲に、30~50拠点はあるみたいなんです。工業団地が丸ごと拠点だったり、オフィスビルに入っていたり。
――なぜそんなに?
安田 もともとはカンボジアで、中国系の"悪い人たち"が大量にオンラインカジノ詐欺の拠点をつくってたんですよ。でも、19年にカンボジア政府が規制をかけた。結果、詐欺に関わっていた人たちが、大量に近くのミャンマーに流れたっていう経緯があるんですよね。
そこからまずミャンマー東北部の中国との国境地帯が「詐欺の巣」になった。でも、ここも23年10月に、現地の軍閥に討伐されました。中国政府が「自国民が詐欺にやられすぎてる」ってブチ切れて、現地の軍閥に武器を供与したらしいんです。
結果、カンボジアやミャンマー東北部で商売がやりにくくなった詐欺業界の人が、ミャンマー東部のミャワディに流入したっていうわけですね。
■「ちょっと悪い人」と「すごく悪い人」
――国境を超えていますね。
安田 そうなんです。そして、東南アジアがそういった詐欺のホットスポットになったもうひとつの理由として、中国政府の対外進出政策「一帯一路」の影響があります。
中国は東南アジア各国に経済特区をつくって、そこを中国企業に管理させたんですが、そうした地域が軒並み無法地帯化して詐欺の拠点になった。
今話題のミャンマー東部の詐欺拠点「亜太新城(ヤータシティ)」とか「KK園区(パーク)」は、もともと一帯一路の開発計画でつくられた経済特区や工業団地。似たような街は、ラオスやカンボジアにもたくさんあって、ほとんどが詐欺、売春、賭博、薬物にまみれた極悪地帯になっています。
ミャンマー東部ミャワディ近郊の詐欺拠点の建物に集められた外国人たち
――めちゃくちゃだ。
安田 私はこれを「中華暗黒ベルト」って呼んでいます。そして、東南アジア各地の中華系都市を拠点にする中国系の悪い人たちは、情報も人脈も広範囲でつながってる。基本的に現地で会う中国人は、「ちょっと悪い人」か「すげえ悪い人」、あと「悪い人の友達」の3種類しかいない(笑)。誇張ではなくマジでそうなんですよ。
例えば、ミャンマーの有名な詐欺拠点「KK園区」の管理職と友達だっていう人とラオスで会いました。彼の本職は蛇頭(密航コーディネーター)。彼にメシ行くぞって言われて一緒に行ったら、「中国国内の腐敗した官僚のマネーロンダリングやってるおじさん」とか、「ミャンマーの翡翠(ひすい/宝石)を中国に密輸してる兄ちゃん」とかヤバイ人とたくさん出会えました。
――悪い人たちの博覧会だ。
安田 この蛇頭アニキと、ラオスのボケオにある「ゴールデン・トライアングル経済特区」っていう中国系の都市(詐欺拠点)に行ったんです。
夜にタクシーで走ってると、オフィスビルの明かりがいっぱいついていて、それら全部が詐欺拠点だっていうんですよね。完全に産業と化してる。この街では、詐欺一発で100万元(約2000万円)をダマし取ったヤツが出ると、街のヒーローとして打ち上げ花火で祝ってたらしくて。
――詐欺に対する罪悪感は、完全にゼロですね。
安田 ちなみに中華暗黒ベルト世界の共通通貨は、中国の人民元です。銃は1万~2万元(約20万~40万円)で買えて、「今なら銃弾100発を無料サービス!」とか言ってる。
夜になると旅館のスタッフが受付カウンターの中でマリファナとか卡痛水(代用アヘン)あたりのソフトドラッグを平気でキメてる。いずれも日本なら違法の薬物です。イカれた世界ですよ。
覚醒剤(氷毒/ビンドウ)も普通に出回ってますが、中国人に人気なのは、吸ったらダラーッとなるドラッグのケタミン(K粉/ケイフェン)。中国人はダウナー系の薬物のほうが好みだそうで。現地の風俗店の広告を見たら「女のコが一緒にK粉をキメてくれるサービス」とかついてました。
――ハマり込んだら帰ってこられなくなりそう。
安田 日本の報道だと、詐欺拠点で働く人たちって「拉致された」とか言われてますが、成功すると稼げるのも確からしく、自分から来ている人もかなり多いようです。
事実、今年2月にKK園区で見つかった日本人も、当初は「日本に帰りたくない」と言っていたみたいです。詐欺拠点付近にはレストランやカラオケ、性風俗店も格安レベルから超ゴージャスなのまでいろいろありますし、成功してる人なら帰りたくないでしょう。
もっとも、儲けられない人は暴行される。場合によっては血液や腎臓を売られて、会社が損害を回収するという噂もある。そういうのは10年くらい前までの中国国内ではありがちな話でしたから、現在の東南アジアの詐欺拠点では現在でも続いていてもおかしくないところです。
ミャンマー東部の詐欺拠点「KK園区」はタイとミャンマーの国境地帯にある
――確かに、詐欺従事者への暴行が報じられていましたね。
安田 園区(詐欺パーク)の内部の中国語テレグラムチャンネルを見ていても、暴行写真や動画が多数アップされています。
ただ、投稿をよく読むと「上司が殴る」「ここはひどい会社だ」などという、"労働問題"の告発だったりするんです。詐欺拠点は、表面上は企業なので、従業員たちは「この職場はブラックだ」とか情報共有をしているんです。
ということは、労働環境が"ホワイト"な詐欺拠点で働きたいというニーズがあるというわけで......。
■現地の有力者が言う「救えないヤツ」
――詐欺グループってどんな人たちがやってるんですか?
安田 内部事情に詳しい中国人によると、ミャンマー東部の拠点の場合、経営層は福建省南部の人が多いそうです。
というのも、この手の詐欺はもともと、台湾の悪い人たちが考案してフィリピンを拠点に始めたそうなんですよ。その手口が、台湾の対岸の福建省を経由して東南アジアに広まったみたいです。もっとも、「儲かる」ことがわかって、ほかの地域から経営層に参入する人も多いみたいですが。
働いているのも、実は大部分は中国人。ミャンマーだけで30万人以上いるとか。多くは福建省、江西省、湖南省など中国南部の人たちらしく、コロナ禍のロックダウンや、近年の中国の不景気で借金を抱えてしまい、一発逆転を狙って詐欺拠点にやって来たような人が多いといいます。
――詐欺の手法は?
安田 例えばオンラインカジノ詐欺。そもそもオンカジは、別に詐欺じゃなくても賭ける側がすごく不利です。レートも、どう勝たせるかも、全部運営側が決められるわけだから。これで詐欺サイトになると、絶対に勝てない。
手口としては、最初の2、3回は100人民元(約2000円)ぐらい勝たせてくれるんですよ。そこに"アドバイザー"を名乗るヤツがチャットで話しかけてきて「今がチャンス!」ってあおる。
で、アホな人だと何千万円とかぶっ込んで、そこで負けて全財産取られる。簡単に言えばそういう仕組みです。
あとはヌードチャット詐欺ですね。エロサイトの広告を押したら、すごくきれいなお姉さんとチャットが始まる。お姉さんは「興奮しちゃった」とか言って服を脱ぎ出してオナニーを始めて「あなたもやって」とか言い出す。
で、男が相互オナニーを始めたらそこで人生終了。動画が録画されてて「ネットにバラまかれたくなければカネ払え」と脅されるわけです。
ちなみに画面の向こうにいるエッチなお姉さんは全部AIです。甘い声で話しかけてくる声も、実は男がしゃべってて音声を変換してるだけのことも多い。ほかにもロマンス詐欺とかフィッシングサイト詐欺とか、いろんなことをやってます。
ミャンマー詐欺拠点からの押収物について、説明するミャンマー少数民族武装勢力の幹部
――日本人が被害に遭わないためには?
安田 当然ですが、変なサイトにアクセスしない、変な儲け話に乗らないのが大事です。
最後に、向こうで会った詐欺グループに近い有力者が言っていた、印象的な言葉を紹介します。
「そもそも勤務先がミャンマーで月収100万円なんて、まともな仕事じゃないのはアホでもわかる。なのに、ダマされた、強制労働だ、などと騒ぐようなヤツはハナから救いがない」
●安田峰俊 Minetoshi YASUDA
1982年生まれ、滋賀県出身。ルポライター。中国の闇から日本の外国人問題、恐竜まで幅広く取材・執筆。第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第5回城山三郎賞を受賞した『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』、第5回及川眠子賞を受賞した『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(共にKADOKAWA)など著書多数。新著は『民族がわかれば中国がわかる-帝国化する大国の実像』(中公新書ラクレ)