国境に沿って1㎞ごとに、機関銃が配備された陣地がある。撃ち切った後は、熱くなった銃身を水冷し、オイルを差してから弾帯を装填する 国境に沿って1㎞ごとに、機関銃が配備された陣地がある。撃ち切った後は、熱くなった銃身を水冷し、オイルを差してから弾帯を装填する
ウクライナとロシアの終わりの見えない戦い。その中ではドローンを利用した攻防も激化している。今回、報道カメラマンの横田徹氏はウクライナの"ドローン迎撃"部隊に密着。彼らは自国に飛来する無人兵器と、どう戦っているのか? 今年3月の前線のルポルタージュをお届けする。

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ウクライナの頭越しで進められてきた停戦交渉が停滞している中、依然としてウクライナ東部の最前線では激しい攻防戦が続いている。

今年3月、ロシアのクルスク州に国境を接するスームィ州に入った。ここでは毎日のように空襲警報が鳴り、ロシア軍によるミサイルやドローンの空爆によって、住民が恐怖の中で生活をしていた。

密着した防空部隊「シャヘド・ハンター」。ロシアから飛来するイラン製自爆ドローンを、第2次世界大戦でも使われた機関銃で迎撃する 密着した防空部隊「シャヘド・ハンター」。ロシアから飛来するイラン製自爆ドローンを、第2次世界大戦でも使われた機関銃で迎撃する 戦争が始まってから入隊した人が多い領土防衛隊。この部隊では、20代の兵士も50代の兵士も一緒になって寝食を共にしていた 戦争が始まってから入隊した人が多い領土防衛隊。この部隊では、20代の兵士も50代の兵士も一緒になって寝食を共にしていた
私は国境付近で飛来するドローンを食い止める防空部隊「シャヘド・ハンター」に密着した。ロシア軍が多用するイラン製自爆型ドローン・シャヘドは、最長2500㎞の航続距離を持ち、首都キーウも射程に収める。"小型で安価な巡航ミサイル"と呼ばれ、多いときには1日に150機のシャヘドがロシア領内から飛来してくるという。

そんな、対空ミサイルより安価なシャヘドの迎撃に使用されるのは機関砲や機関銃だ。私が同行した第117領土防衛旅団では、アメリカ軍が第2次世界大戦時から使っているブローニングM2重機関銃が使われている。

1884年に開発された世界初の機関銃・マキシム機関銃に、最新のサーマル暗視スコープをつけてドローンを狙う。ロシアからの空爆は、真夜中から朝にかけて行なわれることが多いという 1884年に開発された世界初の機関銃・マキシム機関銃に、最新のサーマル暗視スコープをつけてドローンを狙う。ロシアからの空爆は、真夜中から朝にかけて行なわれることが多いという
機関部には最新のサーマル暗視スコープが装着され、夜間でも敵機を見つけることができる。傍らでサポートする観測手のスマートフォンと連動させれば、手元の画面でも確認可能だ。

ブローニングM2は12.7㎜の弾を使い、2㎞の射程内ならシャヘドを撃墜できるという。「もっと古い機関銃を使っているから見てみませんか」と兵士に別の陣地に案内されると、そこでは日本製のピックアップトラックの荷台の銃座に、2連のマキシム機関銃が据えつけられていた。

マキシム機関銃は1884年に世界初の機関銃として開発され、日露戦争でもロシア軍が使用していた。これにもサーマル暗視スコープが装着されており、夜間の射撃を可能にしている。博物館でしか目にすることができないような"骨董品(こっとうひん)"が現代の戦争で使われていることに驚きを隠せない。

写真の右端の光は重機関銃のマズルフラッシュ。その左の光は、奥にある軽機関銃のマズルフラッシュ。併用してドローンを狙い撃つ 写真の右端の光は重機関銃のマズルフラッシュ。その左の光は、奥にある軽機関銃のマズルフラッシュ。併用してドローンを狙い撃つ
待機所で兵士と紅茶を飲みながら談笑していると、タブレットの地図にロシア領内からシャヘドが発進してこちらに向かっているのが表示された。外に出ると数㎞先の防空陣地から赤い曳光弾が夜空に向かって吸い込まれていくのが見え、銃撃音が飛んできた。

「こっちに向かってくるぞ! 2機だ! 撃て!」

年老いた機関銃手はブローニングM2重機関銃の銃口を夜空に向けて連射する。銃座のそばでカメラを構える私の体が発射による爆音と衝撃波で震える。隣の兵士が青いレーザー光線でシャヘドの飛ぶ方向を指示する。銃撃音とともに兵士たちの叫び声が周囲に響き渡る。

シャヘドから不気味なプロペラ音が鳴り、あちこちにレーザー光線と曳光弾が飛び交う。それは映画『スター・ウォーズ』や『ターミネーター』で描かれていた、未来の戦闘シーンを見ているかのような幻想的な光景だった。プロペラ音が大きくなり、近くにいることを知らせると、手持ちの軽機関銃を持った兵士が頭上に向けて連射する。

一瞬、光に包まれると「ドカーン!」と爆発音がこだました。「やったぜ!」と歓喜の声を上げる兵士たち。シャヘドを撃墜したのだ。すぐに墜落現場に向かい、壊れた部品を回収する。

撃墜されたドローンは、爆発の音と光を発しながら落ちていく。500㏄のエンジンを積んでいるシャヘドの残骸は回収され、研究などに使われる 撃墜されたドローンは、爆発の音と光を発しながら落ちていく。500㏄のエンジンを積んでいるシャヘドの残骸は回収され、研究などに使われる
「どこかに突っ込まなくてよかった。われわれの任務はドローンが街や住宅に飛んでいかないように阻止することですから」

停戦交渉の行方がわからない今も、防空部隊は24時間態勢でウクライナを守り続けている。

首都キーウにあるマイダン(独立広場)では、戦死者の数だけ国旗が飾られている。写真の女性はしばらくの間、そこで立ち尽くしていた 首都キーウにあるマイダン(独立広場)では、戦死者の数だけ国旗が飾られている。写真の女性はしばらくの間、そこで立ち尽くしていた
●横田徹 Toru YOKOTA 
報道カメラマン。1971年生まれ、茨城県出身。97年のカンボジア内戦をきっかけに報道カメラマンとして活動を始める。インドネシア、東ティモール、コソボ、アフガニスタン、シリアなど、世界各地の紛争地を28年にわたり取材している