丸山ゴンザレスが訪れた巨大刑務所「CECOT」 丸山ゴンザレスが訪れた巨大刑務所「CECOT」
『クレイジージャーニー』(TBS系)でも放送された丸山ゴンザレス氏の中米取材。ギャングによる犯罪が横行し、西半球で最も貧しい地域のひとつとされる「中米北部三角地帯」のリアルを克明に記す!

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■国家よりも強いギャングの存在

エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの3ヵ国で構成される「中米北部三角地帯」。ここでは国家よりもギャングの存在が強いとされ、「MS-13」や「バリオ18」といった犯罪組織が都市を実質的に掌握してきた。

ギャングによる支配構造に対して、エルサルバドル政府が打ち出したのは、巨大刑務所「CECOT」である。


2023年1月から稼働した同施設は約4万人を収容可能とし、ギャングを完全に隔離するために設立された。収監された房から出られるのは1日30分のみ。面会は許されず、外部との接触も例外なくできない。更生ではなく、外部からの遮断を目的としているため、軍事施設並みの厳重な構造となっている。

収監されている囚人が所属している「MS-13」や「バリオ18」は、もともとアメリカで形成されたギャングだった。だが、アメリカ政府が強制送還したことにより、中米各国の裏社会に浸透し、勢力を伸ばしたのである。CECOTは、そうした問題に対処する方法を模索した国家の"実験"とも言える。

そして、結果は明らかだった。エルサルバドルでは、ギャング掃討により、急速に街の表情が変わった。スラムには警察と軍が常駐し、住民の生活は大幅に規律化された。


グアテマラでは、首都近郊の大規模埋め立て地を「MS-13」が掌握していた。

廃品回収をなりわいとする"グアヘーロ"と呼ばれる人々が活動するこの場所は、密売や死体処理にも利用可能な"自由区域"となっていた。都市の中枢で公的機関と非合法勢力が併存する構図は、グアテマラ社会の縮図にも見えた。

この国では「バリオ18」の幹部に取材ができた。敵対勢力との確執や、隣国からの逃走、組織の再編計画についての証言も得られた。CECOTに対する彼らの見解は「敵と並ぶことそのものが異常」というものであり、ギャング同士の抗争が単なる利権争いではなく、存在を否定し合う思想のぶつかり合いであることを示していた。


ホンジュラスでは、ギャングによる支配が市民生活にまで深く入り込んでいた。2004年には、世界で最も暴力的な都市のひとつとされるサン・ペドロ・スーラのチャメレコン地区でバスの乗客28人が虐殺される事件が発生。以降、暴力から逃れるために国外を目指す動きが加速している。アメリカへ向かう移民にホンジュラス出身者が多いのはそのためだ。

2023年6月にサン・ペドロ・スーラを訪れた際には、ギャングが夜間の外出を制限し、花火で外部からの侵入を知らせるなど、実質的な統治機能を果たしていた。住民はギャングのルールを守ることで生き延びる。警察パトロールの同行取材中に通行人が突然現れるなど、"監視"の気配を感じる場面もあった。

現地で接触した「MS-13」の幹部は、市民への犯罪から撤退する意向を示唆しつつも、取材者が警察と関係していないかを見極めるため、取材場所に高級ホテルを指定するなど、非常に慎重になっていたことが印象的だった。


■国境を越えた"治安の受け皿"

こうした現場を歩いて実感したのは、ギャングの存在が単なる暴力装置ではなく、ひとつの社会構造として日常に侵食している点だ。

彼らは"おきて"を通じて秩序をつくり、住民にとっての生存戦略の一部にまでなっている。ギャングの支配は日常生活と不可分であり、それに沿って生きるしかない人々がいるのだ。

2025年2月、アメリカのドナルド・トランプ大統領とエルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領は、ベネズエラ出身の前科者などをCECOTに移送すると発表した。費用はアメリカが負担するという。

国境を越えた"治安の受け皿"としての性格が強まったことで、CECOTは中米地域全体を視野に入れた治安維持インフラへと拡張しつつある。

この措置が秩序をもたらすのか、それとも新たな混乱の導火線となるのか。沈黙する住民、再編をもくろむギャング、輸出される治安維持モデル――。この地の現実は、まだ結論を出せないでいる。

●丸山ゴンザレス Gonzales MARUYAMA 
1977年生まれ、宮城県出身。危険地帯ジャーナリスト、國學院大學学術資料センター共同研究員。同大学院修了。無職、日雇い労働などを経て出版社に勤務。独立後は日本や海外の裏社会を取材。執筆活動のほか、YouTubeチャンネル『裏社会ジャーニー』の運営や『クレイジージャーニー』(TBS系)に出演するなど多方面で活動を続けている