「アメリカを再び偉大に」。トランプのスローガンが書かれた赤帽を被った赤沢大臣(写真:cWhite House/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ) 「アメリカを再び偉大に」。トランプのスローガンが書かれた赤帽を被った赤沢大臣(写真:cWhite House/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――今回から、就任100日越えたトランプ米大統領の対世界各国のスコア表を見ていきましょう。

佐藤 いろいろとありますが、精力的にやっていると思いませんか?

――そりゃもう、すごいです。世界全部に顔を突っ込み、各所で狂瀾怒濤の動きが出てますね。バイデン政権の時は全世界が大停滞だったのが、いまは各国が騒乱の祭りの様相を呈しています。

佐藤 だから、これは革命なんですよ。

――トランプ革命!

佐藤 私は以前から「トランプ革命」と言っていましたよね。その時は皆、相手にしていませんでしたが。

――それがもう、いまは右も左も「自分が『革命』と言い始めた」と大合唱であります。で、トランプの支持率は爆下がりしていない。要するに、トランプ革命は米国民にとってはいいことなんですね。

佐藤 そうです。

――しかも、世界同時に進行していますからね。

佐藤 何度も言っていますが、この流れは必然なんです。トランプは選挙によって米国民によって選ばれた「世界皇帝」です。王ではないから、全世界に口出しできるのです。

この辺りをわかっていない人が多いんですよ。なぜ、そんなことができるかと言うと、皇帝だからなのだ、と。

――王は一国を治め、皇帝は全世界を治める。

佐藤 そう、複数国家を治めるからこそ、できることなのです。

■スコア表1「日米関税協議」

――まず、4月21日の日米関税協議ですが、赤沢亮正経済再生担当相が訪米してホワイトハウスに行くと、いきなり御大・トランプ大統領が登場。MAGA(米国を再び偉大に)と書かれた赤い帽子をかぶって、トランプと写真を撮りました。

すると、参院予算委員会では立憲民主党の徳永議員が「赤沢大臣、『格下』じゃないんです。石破総理大臣の特使ですよ。次の交渉ではもっと堂々と強い態度で交渉に臨んでいただきたい」と質問。トランプ皇帝とのお付き合いの方法を、徳永議員は御存知ない。

佐藤 そこは「揉み手摺(す)り手」でいくのが基本です。そして、「いや、格下も格下でございます。私は本当に格下の格下でそれだけで幸せでございます」と対応するしかありません。現実として日本の官僚はアメリカ大統領よりも格下じゃないですか。嘘をついているわけじゃないので、何の問題もありません。

――大正解のトランプ皇帝との接し方であります。さらに徳永議員は、トランプ支持者の改革シンボルでもある赤い帽子に関して「日本の閣僚がかぶるのは極めて政治的な意味のあることだ」と発言しました。

佐藤 ただ、その赤い帽子をもらい、すぐにかぶって写真を撮ったことによって、何の要求もされずに「日本と交渉しておこう」となりました。

だから先ほども言ったように揉み手摺り手で、「ケツも拭かせていただきますよ」と。トランプ相手では、これをやるのが正しい外交です。

――赤沢大臣は石破茂首相からなんらかの秘策を受けてましたね。

佐藤 もちろんです。揉み手摺り手作戦で下手に回るのも石破さんの考えです。キリストもこう言っています。「一番偉い奴が、一番へりくだる奴だ」と。

――これ、赤沢大臣が帽子をもらって写真を撮った瞬間に、もう解決が見えていました?

佐藤 そうですね。解決が見えました。少なくともこの交渉において、日本が勝利することはありません。やるべきことはあくまで「マイナスのミニマム化」です。不良債権処理と同じですよ。

――被害の極小化だと。

佐藤 その通りです。最初からマイナスだから、突っ張ってもいいことは何もないわけです。そもそも、25%という数字は心の数字ですから、積算根拠だけ示して抵抗するのは間抜けな発想です。

――日本国籍を持つ日本国民として、泣きそうになって来ました(笑)。

佐藤 それから、外交の世界において、相手の首脳からもらったモノをその場で身に付けるのは普通のことです。もちろん、それで記念撮影を撮るのも当たり前です。

それを「物議をかもしそうだ」と判断するのは外交上、あり得ません。なぜ物議をかもすのか理解できません。

――そうすると、この日米関税交渉は「〇」でありますか?

佐藤 そう思います。また、先ほどお話しした25%という心の数字に対して、積算根拠を示して理屈で説得するのはカテゴリー違いだということです。

多くの政治家は、カントの『純粋理性批判』を読んでいないのでカテゴリー違いのことをやってしまうのです。心の問題は心で解決するのが筋です。

――納得です。

佐藤 相手が文句を言ってきて「誠意を示せ」と連呼してきた際は、白紙小切手を出し「数字を入れろ」というのが、実は一番被害が少ないんですよ。

――なるほど。すると、4月21日の日米交渉の際、トランプ相手に赤沢大臣が赤い帽子をかぶったことは、新聞や野党の国会議員にとって一番、意味不明な事態だと映っている。文字に書いたものではなく、心の問題ですからね。

佐藤 そうです。新聞記者たちは事柄の本質を理解していません。だから皆、新聞を読まなくなるんです。

――確かに。

佐藤 でも、新聞を読まなくなるから週プレや週プレNEWSは食っていけるわけですよ。そして、週プレや週プレNEWSを読むと本当のことがわかってきます。

――そして世界が救われると。

佐藤 日本が救われる、ですね。世界にまで私たちは責任を負えません。

――大きく出過ぎました。すみません。

次回へ続く。次回の配信は5月16日(金)を予定しています。

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佐藤優

佐藤優さとう・まさる

作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

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小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、元筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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