国民よ、これがうどん県だ! 以前から一部で話題となっていた香川県の「うどん発電」がいよいよ本格稼働する。
うどんを使って発電するという香川県ならではの驚愕プランを実現したのは高松市の産業機械メーカー「ちよだ製作所」だ。
同社の池津英二社長(74歳)が開発理由をこう語る。
「きっかけは今から4年前に、県内で大量のうどんが廃棄されている話を聞いたことです。うどん店での食べ残しやゆですぎもありますが、最も廃棄が多いのは麺工場。なんらかのトラブルで工場のラインが止まると、品質管理の観点からライン上のうどんをすべて捨てなければならない。
ある製麺業者だけでも年間120tもうどんを捨てている。捨てるのにもお金がかかるし、エネルギーも必要。本当に無駄だらけです。そこで、廃棄うどんをエネルギーに変えられないかと研究開発してきました」
うどん発電のメカニズムは次のとおり。まず、食べられずに捨てられたうどんをかき集め、粉砕する。それに酵母を混ぜるなどして発酵させ、エタノールを生成(エタノールはうどんをゆでるための燃料として再利用可能だが、発電には使われない)。
続いてエタノール以外の残りかすとうどん以外の食品廃棄物(生ゴミ)を混ぜて発酵させる。そうして発生したメタンガスを燃料にして、発電機のタービンを動かすというものだ。
同社バイオ事業の技術開発を担当する尾嵜哲夫さんはこう語る。
「一番難しかったのは採算性の部分。実は、事業開始当初はうどんで電気を作って、売ろうなんてことまでは考えていませんでした。あくまでメインはエタノールの生成。でも、やってみてわかったのですが、いくらエタノールを作っても採算が合わない(苦笑)。残りかすからメタンガスを作り、発電・売電することで、ようやく採算が見込めるようになった」
この「うどん発電プラント」を、24時間365日稼働させれば発電量は年間で最大18万キロワット時に上る。国の再生可能エネルギー固定価格買い取り制度を利用すれば、年間およそ700万円の売電収入が見込める計算だ。
尾嵜さんは「あくまで机上の話です」と謙遜するものの、それでも夢のある話である。同プラントは今後受注販売されるが、すでに2件の受注がほぼ決定しているという。
ちなみに、四国では伊方原子力発電所(愛媛県)の再稼働が迫っている。その伊方原発の発電設備容量を考えた場合、うどん発電が伊方原発の肩代わりをするには、プラントを8万基ほど新設し、さらに(廃棄麺の割合が変わらないのであれば)香川県のうどん消費量を8万倍にしなくてはならない。さすがのうどん県民でも無理な話だろう。
「そこで、私が注目しているのは日本で年間2000万t出ている食品廃棄物。これを燃料にするのです。うちのプラントが年間1000tの廃棄うどんで18万キロワット時なので、その2万倍ですから、それなりの電力量にはなる。また、太陽光や風力より安定的にエネルギーを供給することもできるのも利点です」(前出・池津社長)
池津社長は食品廃棄物以外にも、牛や豚など家畜の糞尿からエネルギーを生む“クソ発電”の実現にも熱を入れているという。
「私は社会に貢献したいんです。そう思うようになったのはある体験がきっかけ。約18年前、弘法(大師)様(真言宗の開祖・空海)が建てられたお寺に依頼され、運搬用機器を作ることになり、現地で作業をしていたのですが、高さ約2mの場所から落下しそうになり、『死んでしまう』と思った瞬間、気を失ってしまいました。
ところが、意識が戻ると、私は何事もなく2m下の落ち葉の上に座っていた。ケガもなくね。弘法様に命を救われたのでしょう。それ以来、少しでも人のために役立ちたいと思うようになり、社会貢献事業に取り組んできました。うどん発電も、弘法様に助けてもらえたからこそ生まれたんです」
ちなみに、空海は讃岐出身で、香川県では「空海がうどんの技術を讃岐に持ち帰った」ともいわれている。うどん発電と空海の浅からぬ関係。それが脱原発につながるのなら、いろいろな意味でロマンがある。
(取材・文/コバタカヒト[Neutral])