福島第一原発(以下、フクイチ)で働く多くの作業員たち。彼らの給料の“ピンハネ”を容認するような発言が東電から出て、波紋を呼んでいる。

東電は昨年の12月から、一人当たり1日1万円の危険手当を、倍の2万円に増額した。これは、東電いわく「厳しい作業環境や作業条件を考慮して」とのこと。以前から下請け業者によるピンハネが囁かれていたフクイチ作業員だが、昨年11月8日の記者会見で東電の石崎芳行福島本社代表は、「金額を公表した意味をわかってほしい」と説明。つまり、下請け業者にピンハネしないよう要請したはずだった。

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ところが後日、東電が下請け業者に配布した文書には「(1万円だった危険手当が)更に1万円増額されることを示すものではない」と明記。つまり、東電は危険手当を一人当たり1日2万円支払うが、それをいくら作業員に支払うかは各業者に任せる、とまさに“ピンハネ容認”とも取れる内容が記されていたのだ。

言うまでもなく、危険手当は高線量に晒(さら)される危険への対価だ。国が定める放射線業務従事者の被曝線量限度(以下、線量限度)は、1年で50ミリシーベルト、5年で100ミリシーベルト、緊急時の作業で100ミリシーベルトである。つまり積算線量が100ミリシーベルトを超えると、作業員はその後の5年間、被曝労働に従事できなくなる。

2011年3月14日~2012年4月は特例として、緊急時の線量限度を250ミリシーベルトにまで引き上げていた。なぜなら、3月25日の段階で早くも100ミリシーベルト以上に達していた者が17人もいたことから分かるように、線量限度を改めていなければ、その後の作業に5年間も従事できなくなる作業員が続出し、事故収束に多大な支障をきたすところだったのだ。

原発を専門とする技術者の数は限られており、代替も容易ではない。かといって被曝の危険は消えない。では現在、東電はどうしているのか? 実は“抜け道”を編み出したのだ。

作業拠点の「免震重要棟」の一部区域を徹底的に除染して放射線管理区域から除外し、100ミリシーベルトを超えた人でもこの区域(「非管理区域」と呼ぶらしい)の中でなら働けるようにしたのである。ここでの仕事なら、被曝線量をノーカウントにできるからだ。

こうして、ベテラン作業員もフクイチ構内で働き続けている。しかし、その職場にたどり着くには、高線量の「フクイチ構内」や「帰宅困難地域」を通り抜けなければならない。それでも、通勤時の被曝はノーカウントとされる。なので、ベテラン作業員たちの実際の積算線量がどれほどに上っているのか、本人さえ知らない。

改めて言うまでもなく、線量限度は作業員の健康を第一に考えて設けられたものだ。だが、当の作業員たちにしてみれば、線量限度を超えてしまうことは「失業」を意味する。フクイチで線量限度を超えてしまえば、他の原発でも働けなくなるからだ。つまり、線量限度をうやむやにすることでしか、作業員不足は解消できない。

いよいよ作業員が足りないとなれば、「事故収束に支障をきたさないため」という大義名分の下、「250ミリシーベルト」特例がいとも簡単に復活するのだろう。ひょっとすると、500ミリシーベルトくらいまで大盤振る舞いされるかもしれない。でも、それは作業員の健康を犠牲にしてはじめて成り立つ、極めてリスキーな話だ。

フクイチの事故収束作業で「被曝」と無縁なものなどありえない。だから、健康被害が発生した際の保障は、事後の生活補償をはじめとした金銭的補償(=危険手当)の形で償うほかないのだ。

下請け業者によるピンハネ、そしてそれを黙認する東電。フクイチの収束作業は、いくつもの問題を抱えている。

(取材・文/明石昇二郎とルポルタージュ研究所)