昨年11月、小泉純一郎元首相が、「原発を再稼働すれば核のゴミが増える。最終処分場も見つからない。すぐゼロにしたほうがいい」と発言し、大きな話題を呼んだ。

原発再稼動を進める政府にも波紋をもたらした、この「原発即ゼロ発言」。原発の根本的な問題である「核のゴミ処理」に解決策がない以上、ゼロにするしかないという至極まっとうな主張である。

この小泉氏の発言は、世界初の高レベル廃棄物最終処分場となるフィンランドのオンカロを訪ねたことも大きい。このオンカロは、原発2基分の核のゴミしか処分できない。つまり日本なら、その何十倍もの広さの処分場を必要とするのだ。だが、日本の最終処分場はいまだ見つからない。この状況を見て小泉氏は、「原発ゼロ」の考えに至ったのだ。

とはいえ、処分できるゴミの量の違いはあるが、なぜフィンランドは最終処分地を決めることができたのか? 核のゴミの専門家で、アメリカの放射性廃棄物最終処分プロジェクトにも参画した経験のある多摩大学大学院教授の田坂広志氏が、日本との違いを語る。

「まず第一に、フィンランドは処分地に適した非常に安定した岩盤があります。第二に、国民の公共意識が非常に高い。『NIMBY(ニンビー)』(=Not In My Back Yard)という言葉がありますが、これは『わが家の裏庭には、ゴミを捨てるな』という社会心理を意味する言葉です。

しかし、フィンランドの国民は『原発は利用したいが、私はゴミを受け入れたくない』と考えるのではなく、『原発の恩恵を受けたのだから、皆でそのゴミの処分方法を見つけよう』と考えるのです。そして、その処分方法がオンカロでの地層処分でした。

オンカロ建設では、電力会社が何年にもわたって地域住民と対話を重ね、放射性廃棄物の問題をすべて丁寧に住民に伝えたのです。その結果、信頼関係が生まれ、年々、建設に賛同する住民が増えていきました」

これは重要な教訓だろう。学ぶべきは行政と国民との間の信頼関係なのだ。NIMBYの社会心理で止まっていては、核のゴミ問題は何も解決しない。これまで福島や新潟に原発を押しつけ、電力の恩恵を受けてきた東京など首都圏に住む住民は、この核のゴミ問題に真剣に向き合っていくべきだろう。

もちろん、その前提として、行政側は原発に関する情報を丁寧に開示し、国民に信頼されるための努力を尽くしていく必要がある。

「原子力行政に今求められているのは原発の安全や安心の前に、何よりも信頼です。行政への信頼を取り戻すこと、特に原子力規制委員会への信頼は絶対に不可欠です。規制においては国民の生命と安全の観点からのみ判断をする。産業界の事情や電気事業者の都合は考慮しない。それが世界の原子力規制の常識なのです」(田坂氏)

(取材/長谷川博一)

■田坂広志
1951年生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院修了。工学博士。民間企業と米国国立研究所で放射性廃棄物関連プロジェクトに従事。現在は多摩大学大学院教授、シンクタンク「ソフィアバンク」代表。著書に『田坂教授、教えてください。これから原発はどうなるのですか?』(東洋経済新報社)など。