エリートが集まる就活生憧れの企業だった東電も、いまや資金繰りで完全に行き詰っている エリートが集まる就活生憧れの企業だった東電も、いまや資金繰りで完全に行き詰っている

東京電力の正社員が次々と退職している。東電総務部広報グループに確認したところ、福島第一原発(フクイチ)事故が発生した以降3年間の依願退職者は、昨年9月末現在で1422名。2010年度の依願退職者数が134名だったことを考えれば、この数字がいかに大きいかが分かる。

さらに東電は、1000人規模のリストラ(社員数削減)を断行する構えであると、2013年11月17日付『朝日新聞』朝刊が報じた。その理由は「国費での支援拡大に理解を得たい」であると同紙は挙げている。

ただでさえ正社員流出が止まらず人材不足の今、新たに1000人規模の大リストラを行なわなければならない東電。そこには、完全に行き詰った資金繰りがあった。

ご存知のように、東電が被災者に対して行なっている損害賠償には、すでに3兆円もの巨額の税金が注ぎ込まれている。だが実は、原子力損害賠償支援機構法と、それによって設立された支援機構は、「賠償のツケを国民に回すためのシステム」と言っても過言ではない。

東電は支援機構から借金して賠償に充てている。そのため、賠償ではほとんど自腹を切らずに済んでいる。しかもそのカネは、支援機構が銀行に国債を買ってもらって作ったカネをそのまま貸し付けたものだ。

東電は、その借金をなぜか「特別利益」として計上している。タネ明かしをすれば、すでに借りている3兆円以上のカネを借金扱いにすると、その瞬間に莫大な債務超過状態に陥り、倒産してしまうからだ。だから会計上は絶対に「借金」とは言わず、「資金交付金」と呼んで誤魔化している。国債の利息分さえ払っていない。資本主義社会下の日本の株式会社でこうした裏技が認められているのは、東電をおいて他にない。

返済の原資は、国民の払う電気料金。大半の国民は選択の余地もないまま、「膨れ上がる国債の利息」と「値上げされる電気代」の形で搾(しぼ)り取られている。

それでもまだ、正社員1000人のクビを切ってまで国に対して金の無心をしているのはなぜか? 端的に言ってしまえばカネが尽きたからだ。汚染水対策の「遮水凍土壁」などの費用470億円を国から出してもらったくらいでは全然足りない。

損害賠償、事故収束、廃炉、そして除染にかかる費用をすべて足せば、その合計金額は天文学的な数字となるのは間違いない。そしてそれが、フクイチ事故の「総コスト」なのだ。

支援機構を使った“錬金術”にしても、東電が今や真っ当な方法ではカネを借りられなくなってしまったからこそ、苦肉の策として編み出されたもの。会計上「借金」にすることが禁じ手なのだから、新規の枠でカネを貸せる銀行もそうそうない。

しかも、東電に対する金融機関の融資枠の上限は、全77社の合計で4兆5000億円(2013年12月末時点)。12月末に実施予定の追加融資3000億円で、この上限に達してしまう(2013年12月16日付・朝日新聞による)。

まさに手詰まり状態の東電。先行き不安を感じて退職する正社員と大リストラ、それに伴う人材不足という悪循環は止まりそうもない。

(取材/明石昇二郎とルポルタージュ研究所、撮影/井上太郎)

■週刊プレイボーイ3・4合併号「無尽蔵に国費を注ぎ込む『東電“免罪”法案』を絶対に許すな!!」より