今年の国会で再び紛糾しそうな法案が、昨年5月に自民党と日本維新の会の議員立法で出された「児童ポルノ処罰法」の改正案だ。一度は各界からの批判を受けて法案成立を免れたものの、未だに継続審議の対象となっている。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律こと、「児童ポルノ処罰法」。その改正案が論議を呼んだのは、現実の児童が登場するポルノ画像や映像の所持だけでなく、マンガやアニメまで対象としたことにある。

そもそも児童ポルノの定義は、「衣服の全部又は一部を着けない児童の容姿で、性欲を興奮させるもの」。だが、「性欲を興奮させるものとは何か?」については曖昧なままであり、日本雑誌協会や日本書籍出版協会は、「本来の目的は『実在する児童の人権保護』なのに、なぜ非実在のマンガやニメも対象になるのか」との反対声明を出している。

ある出版関係者がこう憤(いきどお)る。

「ヘタすりゃ、ドラえもんのしずかちゃんの入浴シーンもダメ。となると、ドラえもんは焚書(ふんしょ)? そのうち作者も編集者も自主規制するという“表現の萎縮”が始まる。いったい、いつの時代の話だ!」

さらなる問題点は、児童ポルノの単純所持(デジタルデータ含む)が処罰されることだ。

「パソコンを使えば、知らぬ間にそういう画像がダウンロードされたり、送られたりすることもある。また、極端なことを言えば、しずかちゃんの入浴シーンのデータ画像があるだけで、パソコン内の情報をすべて見られてしまうのです」(監視法案に詳しい山下幸夫弁護士)

しかも、その処罰規定は「懲役1年以下または罰金100万円以下」と重い。

前出の出版関係者は「少しでも反政府的な表現をした作者を萎縮させるための冤罪(えんざい)がつくられなければいいのだけど」と恐れる。

児童を守るための法律「児童ポルノ処罰法」が、権力側にとって好ましくない表現を取り締まるために利用するなんてことが、改正案では可能になってしまう。解釈が曖昧な法律の怖さはそこにある。

(取材/樫田秀樹)