昨年12月現在、福島第一原発(フクイチ)の収束作業では、1日当たりおよそ3000人(東電社員を含む)が働いている。この2年9ヶ月ののべ人数にすると、約230万人が従事してきた。

これだけ作業員の数が多いと、トラブルもいくつか発生している。そのひとつが、“危険な下請け会社”の存在だ。

現状の作業員募集の構図は、東電(除染では環境省)→元請け会社(メーカー、ゼネコン)→1次下請け→2次下請け→3次下請け……となっており、取材で確認できた下請け会社には「6次下請け」まであった。こうした末端の会社ともなると、表向きは「会社」を名乗っているものの法人登記をしておらず、実態は「個人ブローカー」というところもある。

作業員集めを直接担当しているのは、概ね2次下請け以降だ。作業員は地元・福島県はもとより、国内の至るところから集められてくる。特に目につくのが、最低賃金が低く据え置かれたままの北海道や東北地方、沖縄などからやってきた人たちだ。

そして、その下請け会社の中には、ヤクザの舎弟企業も紛れ込んでいる。4次下請け以降の末端に近い会社に多いのだが、2次下請けの会社にも反社会勢力との付き合いが疑われているところがある。

舎弟企業が求人の際に使うのはネットで、ハローワーク経由の求人よりも深刻なトラブルが発生している。

「断言しますが、原発や除染の仕事のネット求人には応募するな、ということです。その多くが舎弟企業なので、ろくなことがない。しかも一般の人には、自分がひどい目に遭うまで雇い主がヤクザかどうか、見分けがつかない」

こう語るのは、地元の労働組合「いわき自由労組」書記長の桂武さんだ。

Aさん(60代)は、「寮・食事つき」ですぐに働けるというフクイチ構内での仕事をネット求人で見つけて応募した。ところが、「寮」とはコンテナハウスの倉庫の一角にマットレスが敷いてあるだけのものだった。1週間ほどして普通のアパートに移ったものの、「食事」として出されたのは精米前の玄米。

1か月近く待たされた挙句、ようやく仕事が始まったが、事故収束作業の拠点であるJヴィレッジまで片道50kmも離れた寮から自家用車で通勤させられる。ガソリン代は自腹。持ち金が尽きて「ガソリン代もない」と訴えると、給料の前借りとして毎日1000円ずつ渡された。前借りはかさむ一方で給料も数か月間未払いのままだったので、辞めて別の会社に移ろうと、面接を受けに行ったところ、「ああ、そこに勤めている人だったら雇えない。あそこと揉めたら大変だから」と断られた。Aさんはこの時初めて、自分の勤め先が舎弟企業であることを知った。

面接を受けた会社がAさんの転職を拒んだのは、Aさんを雇ったことを舎弟企業に知られると、“移籍料”を脅し取られるからだ。“移籍料”は60万円が最低の相場と言われるが、100万円以上要求されたケースもあるという。

「最初に舎弟企業に就職してしまえば、その後は舎弟企業グループの中でしか働けなくなるわけで、みすみす自分の将来を潰すようなものです」(桂書記長)

こうした危ないネット求人は、勤務先の住所の記載がなかったり、連絡先の電話番号が携帯電話だったり、キャッチコピーが「訳あり歓迎」などのところが大半だ。前出の「いわき自由労組」のような相談窓口はあるものの、国が本腰をあげて対策しない限り、問題は消えないだろう。

(取材/明石昇二郎とルポルタージュ研究所)