新幹線は、単に「速い」鉄道ではない。いくつもの相反する要求をすべて満たした、日本が生んだ芸術品ともいえる

日本が世界に誇る高速鉄道「新幹線」が誕生して、今年でちょうど50周年を迎える。

東海道新幹線が東京~新大阪間の運行を開始したのは、東京オリンピックを目前に控えた1964年10月1日。真ん丸な鼻がトレードマークの0系は、それまで6時間30分かかっていたこの区間を半分以下の3時間に短縮する、まさに「夢の超特急」だった。

現在は、「のぞみ」が2時間25分で東京~新大阪間を運行。昨年には最新車両「N700A」が導入されたが、いったいどこまで速くなるのか?

入社してから現在まで、東海道新幹線の車両の開発やメンテナンスに関わってきたJR東海の坂上啓さんに聞いた。

「新幹線は高速列車の代名詞ですから、そのように考える人も多いとは思います。ですが、東海道新幹線はスピードだけではダメなんですよ」

単純に「速いほどすごい」と思いがちだが、実はそうではないと坂上さんは言う。

「東京、名古屋、大阪という三大都市圏を結ぶ路線ですから、列車が運休したり遅れが出ると大混乱が起きます。なので『事故なく、時間どおりに走る』という“安全性”と“信頼性”も求められるんです。もちろん“スピード”も大切ですが。

また、先頭車両の形状を変えればスピードは出やすくなりますが、座席数が減ってしまう。東海道新幹線は現在、一日平均41万人の方にご利用いただいておりますから、先頭車両の座席数を少なくすることはできません。東海道新幹線には“大量輸送”も求められます」

それだけではない。

「お客さまの多い時間帯は1時間にのぞみ号10本、ひかり号2本、こだま号3本と、時速270キロの列車を15本走らせる、高密度ダイヤによる“利便性”も求められます。さらに騒音を抑える“環境性能”や車内を静かにする“快適さ”も必要です」(坂上さん)

安全性、信頼性、スピード、大量輸送、利便性、環境性能、快適さ。これが、東海道新幹線に求められる7つの条件なのだ。

だが、これらには相反する要素も混在している。

「安全性を追求するなら、走る速度を下げて、ダイヤに余裕を持たせればいいわけです。しかし、それでは列車本数が減ってしまうのでダメなんです。7つの要素のすべてを満たさないと、東海道新幹線の車両とは言えないのです」(坂上さん)

一切の妥協が許されない技術と工夫の結晶。それが、東海道新幹線が歩んできた50年なのだ。

(取材・撮影/関根弘康、渡辺雅史)

○坂上 啓(さかのうえ・けい)1990年、300系を開発していた頃のJR東海に入社。N700Aで開発の指揮を執る。窓の外を見なくてもどの辺りを走っているかわかるほど、東海道新幹線を乗り込んでいる。

■週刊プレイボーイ8号「総力特集18ページ SKE48松井玲奈と巡る新幹線50周年“技術と工夫の結晶”物語」より