舛添要一氏がダブルスコアで圧勝した今回の都知事選。実は、日本を取り巻く諸外国も非常に高い関心を持って、その動向に注目していたという。
その理由は、「脱原発」がひとつの争点となっていたからだ。外務省の現役キャリア官僚であるS氏が明かす。
「昨年、日本とアメリカとの間でシェールガスの輸入が合意されましたよね。でも価格交渉はこれからなのです」
どういうことか? S氏が続ける。
「思い出してください。東日本大震災で原発が止まった後、火力発電で補う必要に迫られ、天然ガスの輸入量を急いで増やすことになったことでカタールに足元を見られ、国際基準から考えると法外な価格で輸入せざるを得ない状況に追い込まれているんです。
日本の天然ガス購入価格は、自国でシェールガスを産出できるようになり交渉力が強くなったアメリカの5倍以上。日本と同様に資源のない韓国と比べても倍以上。もし今、日本が脱原発へと舵を切れば、またもや各国から足元を見られ、アメリカのみならずカナダ、ロシアなどからもかなり割高な価格でガスを売りつけられることになるでしょう」(前出・S氏)
太陽光や風力、水力、地熱といった再生可能エネルギーでは、現在のところ日本国内の電力需要には応えられない。すなわち、日本の脱原発は諸外国にとって、大きなビジネスチャンスでもあるのだ。
この見方に対し、原発政策に精通する現役キャリア官僚にして18万部突破のベストセラー『原発ホワイトアウト』(講談社)の著者でもある若杉冽氏は、こう反論する。
「福島の事故が起こる前に日本が買っていた天然ガスの長期固定価格も、スポット価格(変動制の瞬間価格)の2倍から3倍でした。その理由は、電力会社やそれにブラ下がる利権集団のための莫大な裏金を海外でためるというミッションのため、故意に高く買っているからなのです。この仕組みを解体すれば、今の価格の半分から3分の1に下げていくことは可能だと思います。
原発が止まっている今は、以前より天然ガスや石炭の輸入量が増えることで国富が毎年4兆円ほど流出しているという人もいます。しかし経済はマクロ(全体)で見る必要があります。アベノミクスが好調で経済は良くなっているわけで、全体の収支で見れば問題ありません」
都知事選で脱原発を訴えた候補者たちは落選し、自民党の支援を受けた舛添氏が当選。東京電力など7つの電力会社は昨年末までに、9原発16基について原子力規制委員会に再稼働を申請した。今年の春、遅くとも夏には再稼働の許可が出ると見られている。
(取材/菅沼 慶)