最高時速500キロで東京と名古屋を40分、新大阪までを67分で結ぶリニア中央新幹線に、各地で建設ストップの声が上がっている。

きっかけは昨年9月に公開された「環境影響評価準備書」(環境への影響予測とその対策についての報告書。以下、準備書)。その内容を見て、「こういう計画だったのか」と青ざめる地方自治体(市町村)が次々と現れているのだ。

例えば静岡市が反対している原因は、建設残土の捨て場所に関する問題だ。約11kmのトンネル工事で発生する残土は、360万平方メートル(東京ドーム3個半分)にも及ぶが、準備書では、これが南アルプスの7ヵ所に積まれることが示されている。なかでも、白根南嶺という標高2000mの稜線には、500mも下から残土を運び上げる計画になっていた。

南アルプスを管轄する静岡市はこの計画に対し、「世界遺産登録が遠のく」と危惧している。

現在、南アルプスを世界自然遺産にしようという運動が、静岡県、山梨県、長野県の10市町村による「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会」(会長は静岡市の田辺市長)を中心に進められている。そして昨年9月には、世界遺産の前段階の「ユネスコエコパーク」(生物圏保存地域)の国内推薦を受け、今年6月の本登録を目指していた。

しかし、南アルプスの山が大量の残土の捨て場となったら……。協議会の窓口、静岡市清流の都創造課に尋ねてみた。

「準備書で残土置き場を知ったときは、『え、ここなの?』と驚きました。まずは客観的判断をと協議会に設置するふたつの委員会に諮(はか)り、意見書を作成してもらいました。県に提出したところです」

この両委員会の意見書には「標高2000mに設けられる残土置き場がこの地形に与える影響は極めて大きい。崩壊の危険性を高めるので反対する」という強い懸念が見える。

両委員会だけではない。昨年12月24日、静岡市の自民党市議団は「自然保護が図れない工事なら認められない」との提言書を田辺市長に提出。1月9日には、静岡市が設置した「リニア新幹線環境影響評価専門家会議」が、「計画見直しも視野に」との田辺市長への答申案を確定した。

こうしたリニア計画に懸念の声を上げているのは静岡市だけではない。静岡県内の7市2町(藤枝市、焼津市、島田市、牧之原市、掛川市、菊川市、御前崎市、吉田町、川根本町)では、大井川の水量が7市約63万人の水利権量と同じ「毎秒2t減る」ことに危機感を持ち、JR東海に「大井川の流量が毎秒2t減る根拠の提示や流量維持の対応策を求める」との意見書を提出している。

長野県大鹿村や中川村、南木曽町でも、大量に排出する残土の搬出などに関して不満を訴え、岐阜県可児(かに)市では、日本の陶芸の聖地ともいえる久々利大萱(くくりおおがや)地区を走る路線を地下化するよう意見書を出した。

2027年の開通(東京~名古屋)に向けたリニア計画が、予定通りに今秋に着工するかどうかは、3月25日までに提出される知事たちの意見書の内容にかかっている。果たして、どんな決断が下されるか。

(取材/樫田秀樹)