山口県の離島で生き続ける、絶滅危惧(?)な天然記念物にして「和牛のルーツ」を見た、嗅いだ、触れた! 山口県の離島で生き続ける、絶滅危惧(?)な天然記念物にして「和牛のルーツ」を見た、嗅いだ、触れた!

明治時代以前から日本にいた在来種・見島牛(みしまうし)。その数100頭未満の幻の牛は、どのようにして飼育されているのか? 見島牛の保存・繁殖の現状に迫った!

山口県萩市の北北西約45kmの日本海上に浮かぶ人口1000人に満たない小さな島、見島。古くから大陸との交易が盛んで、島内には「防人(さきもり)の墓」といわれる古墳もある。

また渡り鳥の中継地であり、日本で確認されている野鳥550種のうち343種が島に飛来するためバードウオッチングでも有名だ。

さらに、見島沖は日本有数のクロマグロの漁場で、あの松方弘樹が2度も300kg超の巨大クロマグロを釣り上げ、メディアを騒がせたことまであった。

そんな個性豊かな離島に“黒毛和牛の祖”ともいえる牛が存在する。天然記念物に指定されている日本固有の在来種、見島牛だ。

黒毛和牛とは、日本の在来種と、明治以降に輸入された外国種で改良された肉牛のこと。その在来種の生き残りが見島牛なのだ。年間の出荷頭数はわずか十数頭。まさに幻の牛! 現在は「見島牛保存会」の方々が種を絶やさぬよう守りつつ飼育している。そんな見島牛に会うため萩商港から高速船「おにようず」に揺られること約70分、見島の本村港に到着した。

三島牛の現状は?

港で迎えてくれたのは、保存会の会長・多田一馬さん。牛舎へと向かう道すがら、お話を聞いた。

「現在、保存会のメンバーは私を含めて8軒。島で飼育している見島牛は74頭で、そのうち30頭ほどがうちじゃけど、どこも高齢だし後継問題とか大変じゃねぇ……」

その小さな牛舎は海の見下ろせる小高い丘の斜面にあった。中に入ると、目の前にあの幻の牛が!

一般的な黒毛和牛に比べると小ぶりな体形だが、前躯(体前方)がたくましく、農耕牛として重宝された出自がうかがえる。昭和初期、島には500頭以上が飼われていたが、農業が機械化されるなか、各農家が牛を手放し飼育数は激減。昭和51(1976)年には33頭まで減り、天然記念物の保護が意識されたとか。

希少な和牛のルーツとの邂逅(かいこう)に感動していると、多田さんは一頭の牛に近づき、彼を“紹介”した。

「こいつが種牛の『福金』です。普段はおとなしいヤツやが、21日周期でやってくる発情期には、それはもう暴れん坊になる(苦笑)。私みたく60を超えた人間には手に負えんですよ。なのに、ここ最近は種つきが悪くてね。全然、子供ができない。ただ、それはウチだけじゃなく、どこも一緒。特にこの2、3年は受胎率が悪い」

表情を曇らせ、ため息交じりにそう語る多田さん。繁殖状況は決して芳しくないようだが、激減した40年前と比べると80頭台まで一時戻り、現在は74頭とか。改善しているともいえるのでは?

 「もっと牛を出荷したいんじゃけどね」と語る多田さん 「もっと牛を出荷したいんじゃけどね」と語る多田さん

受胎率低下の改善策は?

JAあぶらんど萩・見島支所に山田康宏支所長を訪ねてみた。

「確かに、当時に比べればマシかもしれませんね。しかし実際は、平成に入ってから頭数はほぼ変わっていません。われわれは行政から雌牛も出荷可能とされた目安の100頭を目指してきたのですが……。受胎率が落ちて頭数が減っているため、種牛以外で生まれた雄しか島外に肉牛として出せないので昨年は数頭のみ。一部、補助金はありますが、とても専業でやっていけるものではない。まったくビジネスにはなりません。『牛くらい簡単に繁殖できるだろ』と高をくくっていたところもありましたが、状況は厳しくなる一方です」

受胎率低下の原因は、近親交配の影響も考えられるというが、はっきりとしない。改善策を探っている。人工授精もそのひとつだ。

見島牛は、冬季は牛舎で飼育されるが、5月から11月の頭までは島の放牧場に放たれ自然交配が促される。今は牛の姿がない放牧場で多田さんは将来の夢を語った。

「最盛期3000人いたこの島も若い人がどんどん出ていって、このままでは衰退するばかりですよ。そんな見島を救うのは牛の繁殖やと思って、先祖の代から守ってきたもんじゃし頑張ってるんじゃけどね。

来年4月には念願の共同牛舎も完成するんですよ。そこに保存会で飼われている見島牛をすべて集めて共同管理していこうと。これ以上、“個人経営”で見島牛を保存していくことは限界。環境もよくなって、共同牛舎での繁殖がうまくいけば見島牛の存続、島の再生にもつながると信じてますよ」

頭数が増えればできるだけ出荷していきたいと意気込む多田さん。島外でしか食肉用には味わえないが、そのレアなおいしさと価値が広まれば、ひと目“幻の和牛”を見たいと訪れる観光客も増え、伝統を守るやりがいを求めて「俺も育てたい!」という若者も……。

「そうなるといいねぇ~!」

(取材・文/コバタカヒト)

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