受信料をめぐる、国民とNHKの溝は深まるばかりだ。

NHK受信契約について定めた放送法第64条によれば、放送を受信できる機器を設置している人は、NHKと受信契約を結ばなければならないことになっている。そして、その契約には、受信料(銀行口座引き落とし、一括前払いで年間1万3600円、今年2月現在)の支払いが含まれている。

もし、これを払わなかった場合は、自宅に集金の催促が来るだけでなく、裁判、または徴収の強制執行申し立てが待っていることもある。

しかし、NHKの番組を観る観ないにかかわらず受信料を払わなければならないとする放送法に、疑問を感じている人も多いだろう。このNHKテレビ受信料制度は、テレビ黎明期の46年前から続いており、現代のテレビ事情に即していないのは明白だからだ。

国民の中には「NHKは国営放送であるべき」との意見もある。そうなれば受信料ではなく、税金でNHKの経費を負担することになる。

放送法所管する総務省、そしてNHKはどう考えているのか?

「そういう議論も当然あると思うんですけど、日本って民主主義国家ですから、政府から一歩離れた言論機関として運営される必要が当然ある。そういう考えの下に受信料制度がある、ということなんです」(総務省放送政策課・佐藤輝彦課長補佐)

「公共放送だからこそ、表現の自由を確保し、不偏不党、公平・公正等の原則を維持できるものと考えています」(NHK広報局)

NHKがスクランブル放送にできない理由とは?

国営放送になったら「政府の広報」になってしまう危険があるという見解だ。

ならば、受信料を払わなかった者は、「スカパー!」や「WOWOW」といった有料放送のように、スクランブル(暗号)で観ることができないようにしてしまえばいいだけなのではないか、という声が各所で上がっている。

実際、現在の地上デジタル放送はすでにスクランブル放送であり、「B-CASカード」で暗号を解除している。したがって、NHKがスクランブル放送を導入する上での技術的な問題は何もなく、十分に実行可能だ。

NHK広報局に、「今後、スクランブルを導入する考えはあるのか?」と聞いた。

「全国あまねく視聴できるようにするという、放送法(第15条)によって定められた公共放送の使命が果たせなくなります。(中略)また、一般的にスクランブル方式は、どうしても『よく見られる番組』に編成が偏り、番組の内容も画一化していく懸念があります」(NHK広報局)

受信料徴収の根拠も「放送法」で、スクランブル放送を拒否する理由も「放送法」。結局、「放送法」という盾(たて)で守られている限り、NHK受信料を巡る問題は解決しないのである。

(取材/明石昇二郎とルポルタージュ研究所)