静電気を使った発電器「エレキテル」を世に送り出した江戸時代の鬼才・平賀源内が、江戸、大阪、南の孤島を舞台に、絶滅したはずの恐龍と対峙する―。
『陰陽師』『餓狼伝』シリーズ、『神々の山嶺(いただき)』などのベストセラーでも知られる作家・夢枕獏氏が、執筆期間約10年にも及ぶ大巨編『大江戸恐龍伝』を完結させた。単なるSF小説というジャンルの枠を飛び越える、唯一無二の怪獣冒険小説がここに誕生した! 夢枕獏氏に聞いた。
―全5巻の大長編ですが、イッキに読んでしまいました! 怪獣と江戸時代と平賀源内が組み合わさる、奇想天外なストーリーはどこから生まれたのでしょう?
「小さな頃からゴジラの映画が好きでね。でも『怪獣大戦争』(1965年)の少し前あたりから、物足りなく感じるようになったんだ。とにかくゴジラが怖くない(笑)。ゴジラを撮るなら黒澤明しかいないだろうと思ってたんだ」
―黒澤明ならリアリティのあるゴジラを撮ったはずだと?
「そういう幻想をもってたんだよね。でも撮らないっていうのがわかったときに、『よし、俺が書くしかない』って思ったんだ(笑)」
―怪獣を恐龍にして小説に登場させたわけですね。しかしなぜ江戸時代だったのでしょうか?
「人間と恐龍が対等に戦えるのはいつかと考えたら江戸時代だったんだよ。現代だったら自衛隊の武器で恐龍は簡単に殺せてしまうはず。自衛隊とリアルに戦って勝てる恐龍となると、自衛隊の武器がなぜ通じない生命体なのか?とか、宇宙からルーツを持ってこなきゃいけなかったり、小説の設定としては難しい。江戸時代の火器でも恐龍を殺すことはできるだろうけど、簡単にはいかない。その過程でいろいろなことができると思ったんだよ」
―主人公はなぜ平賀源内に?
「普通の人なら気がつかなくても、平賀源内のような博学な知識をもっている人間なら、南の孤島にいる恐龍にたどり着けると思ったんだよね。龍にまつわる中国の文献資料とか、大阪のお寺にある『龍の掌』のこととか……、それらを見て、『こりゃ本当に龍がいるぜ』っていうところまで源内ならいけるだろうと」
パクっても、面白くすればいい
―源内は南の島で遭遇した恐龍を江戸に連れてきます。その恐龍が江戸の街で大暴れします。
「最初に考えていたのはゴジラだったんだけど、途中からキングコングにしようと思ったんだよ。だから小説の冒頭にキングコングとゴジラの作者の名前を入れたんだ。『ちゃんとパクりましたよ』という意味で。パクっても、面白くすればいいんだから(笑)」
―執筆中に獏さんと源内がシンクロしているように感じました。
「してるよ。俺は源内かな?と思う感覚あったもん(笑)。源内はいろんなことやっていたけど、結局、モノになったものは少なかったんだよね。そこが俺と重なるんだよ。俺もいろんなことしたけど、まだ満足してない部分がいっぱいあるんだよ」
―連載10年での苦労は?
「連載媒体が4回変わったからね。追いかけて読んでくれている人はいるんだろうか? もしかしたら読んでいるのは俺と担当編集者のふたりだけかもしれないと思ったね。だからモチベーションを維持するのは大変だった。『この話は俺が死んだら誰も書かない。この続きを書くのは、もう俺以外にない』。そう考えるのが一番のエネルギーになった。今、長い小説はダメだというけど、長いモノって本当は面白いというのを、この本でアピールしたいよね」
(取材・文/小峯隆生 撮影/岡倉禎志)
●夢枕獏(ゆめまくら・ばく) 1951年生まれ、神奈川県出身。東海大学文学部卒業。77年にデビュー。『餓狼伝』『陰陽師』などのシリーズ作品で人気を博す。『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞を受賞。その他受賞、著書多数
■『大江戸恐龍伝』 小学館 1575円(第1巻)、1890円(第2巻)、1785円(第3巻、第4巻、第5巻) 江戸時代中期。エレキテルを世に送り出し、博学としても知られる平賀源内が、江戸、大阪、南の孤島を舞台に絶滅したはずの恐龍と対峙する―。謎解き、宝探し、恋愛、悪の組織……。あらゆる要素が詰まった構想20年、執筆期間10年の大冒険小説!