3月8日、クアラルンプールから北京へ飛行中のボーイング777型機が忽然と姿を消したマレーシア航空機事故。現在、インド洋の南に漂流物が発見されているが、事故機のものかまだ確証は得られていない。
今回の事故では、アジア各国による捜索活動が行なわれたが、なかでも迅速な動きを見せたのが中国だった。事故の翌日には海軍のミサイルフリゲート艦「綿陽」や揚陸艦(ようりくかん)「井岡山」など4隻、海警局の沿岸警備船4隻、複数の航空機、さらに人工衛星まで投入している。
中国は長年、南シナ海で周辺各国の領海を力技で“浸食”し、自国の勢力範囲を拡大してきた。今回の捜索活動も、ただ乗客の約3分の2が中国人だったからというだけでなく、いわば「ウチの海で起きたこと」として全力が注がれたとみるべきだろう。
実はこの捜索活動の際、舞台裏でひそかに“情報戦”が行なわれていた可能性もある。各国海軍の取材経験が豊富なカメラマンの柿谷哲也氏はこう語る。
「この地域は周辺国の防空監視体制が入り交じる場で、各国ともレーダー性能や監視体制の手の内を見せたくない事情がある。しかし、中国政府は自国民保護と捜索を根拠に、軍事的な意味でも貴重なレーダー情報をそれぞれの国から引き出した可能性があります」
南シナ海でのこうした動きは、日本にとっても人ごとではない。太平洋進出をもくろむ中国は、尖閣諸島や宮古島、石垣島などが浮かぶ東シナ海でも、勢力範囲を拡大すべくさまざまな手段を講じている真っ最中だからだ。
中国の最終目標は、太平洋の制圧
東海大学海洋学部教授の山田吉彦氏はこう警告する。
「現在の中国は、アメリカのオバマ政権が消極的な対応をしているうちに『第1列島線』を確保し、『第2列島線』を取るための布石を打とうとしている。南シナ海の現状を見れば、尖閣、東シナ海で中国が次にどう動いてくるかがわかります」
この「第1列島線」とは、台湾とフィリピンの間を通り、東シナ海から南シナ海へと抜けるラインのこと。沖縄のほか、尖閣諸島などもこの線内に含まれている。対して、「第2列島線」とは、米海兵隊の重要拠点となるグアムを通るラインのことを指す。
中国の目論見を、米国防シンクタンク海軍戦略アドバイザーの北村淳氏がこう解説する。
「中国指導部は、すでに南シナ海の支配権を75%ほど手中にしたと考えていると思います。今後は、(1)フィリピンにおける米軍海洋戦力(海軍・海兵隊・空軍)の本格的な基地復活を阻止する。(2)インドネシアと、できればマレーシアも籠絡(ろうらく)し中国側につける。(3)南シナ海からインド洋をカバーする哨戒機を多数配備する。(4)南シナ海全域を射程に収める長射程ミサイルを大量に配備する。これらをクリアすれば、ほぼ完全に掌握が完成します」
南シナ海は、残りわずか25%。続いては東シナ海、そして太平洋へ。これらの海域を自由に行動できるだけの海軍力を保持すべく、中国は今、猛烈な勢いで艦船の建造計画を進めている。
今回のマレーシア航空機事故で際立った動きを見せた中国。そこには「太平洋進出」という中国の長年の野望が見え隠れするのだ。
(取材協力/世良光良、小峯隆生)
■週刊プレイボーイ15号「マレーシア航空機事故、尖閣諸島の現在、ウクライナ情勢を1本の線で結んだら、中国が『太平洋の覇者』になる2021年の暗黒シナリオが見えた!」より