ウクライナの政変は「欧米とロシアの代理戦争」、これが日本における一般的な認識だろう。
昨年11月、“親ロシア派”だったヤヌコビッチ政権がEUと距離を置いたことで反政府運動に火がつき、今年2月には激しい暴動の末、“親欧米派”の暫定親政権が発足した。
すると今度は、クリミア半島にロシア軍が侵攻し、住民投票の結果、クリミアはロシアに編入。現在は、ロシア系住民の多い東部や南部の複数の州で、ウクライナからの独立を求める運動が加速中だ。
ロシアにつくか、欧米につくかで揺れるウクライナ。確かに、この“2大勢力”の代理戦争に巻き込まれているといっても間違いではない。ただ、もうひとつ、その存在を抜きにはウクライナ政変を語れない勢力がある。それが「ネオナチ」だ。
「ネオナチ」という言葉の定義には幅広い解釈があるが、ここでは話をわかりやすくするため、大きく下記の2つに分けることにする。
・狭義のネオナチ……ナチス・ドイツ支持、アドルフ・ヒトラー崇拝を思想の中心に掲げる団体。 ・広義のネオナチ……ナチスへの共感を持ちつつも、外国人排斥、民族的純血主義など「現代社会においても適用可能な主張」を中心に据え、武力闘争を含む過激な活動を行なう政治的集団。
近年、ヨーロッパのさまざまな国で活発に活動しているのは「広義のネオナチ勢力」のことであり、今回のウクライナ政変でも、新政権発足に大きな役割を果たしている。
それは、暫定政権の人事を見れば明らかだ。副首相や国防大臣など閣僚4ポスト、さらに国家安全保障・国防会議議長や検事総長という要職を手にしたのが「全ウクライナ連合『自由』」(通称“スヴォボーダ”)。スヴォボーダは、民族的純血主義(ウクライナ語を話すウクライナ人しか認めない、ロシア系の住民は出ていけ、との主張)、外国人排斥を訴える“極右政党”である。
過激派極右政治団体が、機動隊相手に最前線で戦っていた
スヴォボーダは現在、ウクライナ最高議会で37議席を持っており、その議席占有率は日本の衆議院における公明党よりも高いといえば、その影響力がイメージできるだろうか。昨年12月にはリーダーのオレフ・チャフニボクが“野党の主要勢力の一員”として、米政界の大物ジョン・マケイン上院議員との会談に臨んだほどだ。
そしてもうひとつ、旧政権時代に内務省の兵器庫から銃器を奪取し、革命成功に決定的な役割を果たしたのが、昨年12月に過激派極右組織が集まって結成された政治団体「右派セクター」だ。規模は5000人から1万人といわれ、リーダーのドミトロ・ヤロシを暫定政権の国防会議副議長に送り込んだ。
「旧政府の機動隊を相手に最前線で戦い、独立広場を守り抜いたのがネオナチ勢力。彼らがいなければ、革命成功までにもっと時間がかかり、犠牲者の数も増えたでしょう。獲得ポストを見ても、暫定政権内での影響力はかなり強いとみていいと思います」(国際ジャーナリスト・河合洋一郎氏)
外国人を排斥しようとするウクライナの民族的純血主義者=ネオナチたち。資金提供など、彼らの後押しをしたのが欧米諸国。一方、自国民を守るために軍隊を出動させたのがロシア――、ウクライナ情勢には、日本人には見えにくい複雑な事情が潜んでいる。
(取材協力/川喜田 研)
■週刊プレイボーイ17号「ウクライナ政変のキープレイヤーとして表舞台に出現した“闇勢力”現代の『ネオナチ』ってどんなヤツら?」より