4月8日、上信越自動車道の佐久ICと碓氷(うすい)軽井沢IC間の斜面に幅数cmの亀裂が発見され、安全確保のため、この区間が全面通行止めとなった。11日には、その斜面側である上り線のみを通行止めとし、現在は下り線の対面通行で対処している(4月21日現在)。
だが、本誌が取材を行なった4月15日時点で工事関係者に話を聞いたところ、亀裂の幅はすでに30cmを超えているという。
「まだ断定はできませんが、この冬の豪雪で上信越道付近の地下水量が極端に増えたことが、亀裂の原因かもしれません。であれば、この余分な地下水を抜くことが道路崩壊を食い止める有効打になるので、今は地中ボーリング調査を続行して亀裂とのつながりを探っている段階です」(工事関係者)
浅間山を北に仰ぎ、長野県を東西に横切る上信越自動車道。この亀裂が発見された付近の市街地を取材班が車で走ってみると、昨年よりもアスファルト路面の歪(ゆが)みや路肩とのズレなどが目につき、走行中の車体の揺れや振動がひどくなっていることに気づいた。つまり、浅間山の南に位置するこの地域では、ここ半年ほどの間にゆっくりと、しかし確実に大きな地殻変動が起きていると推測されるのだ。
はたしてこれは、昨冬の記録的豪雪による地下水量の増加が原因なのだろうか? これに対し、琉球大学名誉教授の木村政昭博士は、「スロースリップ現象のひとつと見ていいと思います」と語る。
ここで「スロースリップ」について簡単に解説しよう。これは、地殻内部にたまった圧力が瞬間的・爆発的に放出される一般的な地震とは違い、同じエネルギー量を長い時間をかけて解放していく“ゆっくり型”の地震のことである。
1960年代に皆神山を震源に発生した「松代群発地震」との関連性
日本列島では、千葉県の九十九里浜沖や三浦半島地域でスロースリップが起きやすいといわれている。その原因は、日本列島の下に東側から沈み込む「太平洋プレート」(九十九里地域)と、南側から沈み込む「フィリピン海プレート」(三浦半島)にある。これらプレートが移動する圧力によって日本列島の地殻内部にひび割れができ、その内部に大量の海水や陸水が染み込んで「潤滑油」の効果を発揮するため、破壊衝撃のほとんどないゆっくりとした地殻変動=スロースリップが起きると考えられているのだ。
つまり、スロースリップには「水」の存在が不可欠となる。木村博士は今回の亀裂の原因を、1960年代に長野県北部・松代市で発生した「群発地震」のエピソードと絡めてこう説明する。
「松代群発地震は1965年から70年にかけて起き、一日平均300~700回もの有感地震が頻発した世界でも類例のない自然現象でした。震源は皆神山(約660m)直下3~5kmの地中で、最終的には山麓周辺や市内各地で大量の地下水を噴出して終息しました。極めて珍しい“水噴火”という現象だったのです」
この長野県一帯の山麓の地下には、大量の地下水が眠っている。それが“ゆっくり型地震”であるスロースリップを引き起こしている可能性が高いのだ。
(取材/有賀 訓)
■週刊プレイボーイ18号「フォッサマグナ異変が浅間・富士山に到達するXデー」より