大阪市議会でこの5月中に、ひとつの条例案が可決しそうだ。その名も「大阪市客引き行為適正化条例案」。
「2、3年前から風営法や迷惑防止条例の網の目をかいくぐるような、悪質な客引きが目立つようになったんです。そこで、そうした不法行為をきっちりと禁止できる条例を作ろうということになりました」(大阪市・市民局)
風営法や迷惑防止条例のどこに不備があったのか?
例えば、風営法で客引き行為を禁じているのは風俗営業者のみ。一般の飲食店は深夜12時以降にならないと、客引き禁止の対象にならない。そのため、深夜12時以前の客引きは事実上、野放しになっているのだ。
迷惑防止条例も業種や時間帯に関係なく、一切の客引きを禁じているものの、その規定は実に曖昧(あいまい)。「執拗(しつよう)な客引き行為」とあるのみで、禁止行為の内容について具体的な定めがない。大阪市・市民局の担当者が続ける。
「そのため、客引きから『自分たちの行為のどこが違法なのか、根拠を示せ』と反論されることも。これでは規制はできません。でも、新条例が成立すれば、今後は『禁止区域』に指定されたエリアではいかなる客引きも中止するよう指導でき、それでもやめない場合は5万円以下の過料を科すことができるようになります」
なるほど。これなら客引きの暴走もなくせそうだ。
ただ、相手は海千山千の客引きたち。新条例ができたからといって、おとなしく引き下がるものなのか? そこで市内で最も多く客引きが出没し、条例が「禁止区域」と想定するミナミの戎橋(えびすばし/中央区) を訪れた。ちなみに、この橋はナンパスポットしても有名で「ひっかけ橋」とも呼ばれる。
時刻は午後8時。すでに橋上には男女45人ほどの客引きが群がっていた。戎橋の長さは約26m。なのに、その短い距離を歩く間に、次々と客引きから声をかけられる。しかも、そのしつこいこと。ガールズバーの女客引きにいたっては、何度断っても行く手に立ちふさがり、「1時間3000円を2000円に値引きするから」と粘る始末だ。
そうこうしているうちに、時刻は午後10時に。客引きを数えると80人以上に増えている。午後11時を回る頃には人通りが減ったこともあって、通行人より客引きのほうが多いという異様な光景になっていた。
では、彼らは新条例ができたら、どう立ち回るつもりなのか? 客引きのひとりに聞いてみた。
「違法行為をやめない」理由は高収入
「どうってことない。取り締まりの指導員の目を盗んで続けるだけのことやね」
なんと、まったく意に介していない。確かに、大阪市によれば、指導員の採用予定数は5人だけ。これでは万全の取り締まりはおぼつかないだろう。
だが、客引きたちが「違法行為をやめない」とうそぶく本当の理由は別にあった! 居酒屋の客引きをしているという20代男性がこう明かす。
「こんなに稼げる仕事はない。月収60万~70万円もざらです」
どういう報酬システムなのか?
「完全歩合制です。店によって違いますが、だいたい売り上げの15%ほどがこちらの収入になる。ベテランになると、月1000人を案内するというケースも。そんな腕のいい客引きだと、年収1000万円を稼ぐことも可能でしょう」(20代男性・居酒屋客引き)
客単価を5000円とすると、1000人客引きしたときの売り上げは500万円。その15%が歩合給としてバックされると、月収は75万円。年間だと900万円になる計算だ。なるほど、これはかなりの高収入。この客引きが続ける。
「客引きのほとんどはこの道を極めたいと考えています。僕も今はまだ半人前で、案内客も月30~40人ほどですが、早く一本立ちして稼げるようになりたい。仕事時間は夜6時から深夜3時くらいまでとかなりハードですが、新条例ができても、こんなに稼げる仕事を辞めるつもりはありません」
戎橋の客引きは姿を消すのか、それともしぶとく生き残るのか? その答えがわかるのは、条例で「禁止区域」が設けられる予定の今年10月1日以降となる。
(取材/ポールルーム)