今、茨城県つくば市で異変が起きている。それは、道路脇の「街路樹」などに“成長不良”や“枯死(こし)”が目立つことだ。
この筑波山の南麓地域は「筑波研究学園都市建設法」が施行された1970年から、85年の「つくば万博」開催にかけて大規模な開発が進み、今では約300の学術研究機関や関連企業が集中する近代都市に生まれ変わった。
その自然と科学の調和をうたった大整備事業の一環として、多くの街路樹や研究施設内の樹木、一般住宅の庭木などが植えられてきたのだが、なぜかそれらが昨年から今年にかけて急速に精気を失っているのだ。
25年前に都内からつくば市中心部へ移り住んだM氏(独立行政法人研究所職員、理学博士)が語る。
「90年代末までのつくば市は、とても緑豊かな森林都市で、ほとんどの幹線道路沿いには高さ10m以上の街路樹が立派に生い茂っていたんです。大学や研究所施設などのフェンス内側にもアカマツなどの緑地スペースが設けられ、秋にはマツタケが採れる場所もたくさんありました。
ところが2000年代に入ってから茨城県各地でマツクイムシによるアカマツの大量枯死が続出。つくば市ではアカマツ以外の樹木でも毛虫(アメリカシロヒトリ)の食害で立ち枯れや衰弱が目立つようになり、その傾向が特にこの2、3年間で加速化しています」
植樹から40年以上経過した樹木も多くなってきたつくば市では、枯れ葉や落ち葉に対する住民苦情も増え、また大きく育ちすぎたことによる倒木被害を防ぐためにも、昨年、大規模な“せん定(てい)”作業(※)を行なっている。
※樹木の枝打ちと背丈を切り詰めること。見た目がよくなることに加え、成長促進、虫害・細菌性病害の予防効果もある。
樹木を弱らせる“環境の変化”が強まっている?
ところが……。
「過去の樹木せん定では、確かに翌年には芽が吹いて新しい街路樹の景観に生まれ変わってきました。でも、今年の春はまったく違う。多くのせん定街路樹で芽吹きが非常に遅れるか、どう見ても立ち枯れに向かっているとしか考えられないケースが目立っているんです。それは街路樹だけでなく、つくば市内のさまざまな研究施設内や住宅の庭木についても同じことです」(前出・M氏)
たとえば、長らく市民に親しまれてきた408号線(牛久学園通り)沿い、果樹試験場入り口付近の街路樹(下り=モミジバフウ、上り=ユリノキ)は、まるで立ち枯れ状態。ここから約1km北上した圏央道ガード手前付近も同様である。
はたしてこれは、せん定の途中経過なのか? 樹木が寿命を迎えているのか? それとも何かほかの要因なのか? M氏が語る。
「一住民として長期間にわたって観察してきた私の感想では、今の現象の原因は単なる虫害ではなく、樹木を弱らせる環境の変化が強まっているように思えてなりません」
“環境の変化”とは、何だろうか? 今のところは、ミステリーというしかない。
(取材・文・写真/有賀 訓)